「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

離婚問題

「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

「DV被害で苦しんでいるけど、どうしたらいいか分からない」
「逃げたとしても、報復されるのが怖い」
こういった不安や心配のため、なかなか現状を変えられずに日々を過ごしている方は、少なくないと思います。

しかし、法律上、DVの被害者が使える「武器」は複数用意されています。
「武器」の内容を正しく理解することは、現状を変えるための第一歩です。

以下、接近禁止命令といった「武器」となる制度について、弁護士がわかりやすく解説します。

接近禁止命令とは?

接近禁止命令とは、いわゆるDV防止法において定められている保護命令の一種で、簡単に言うと、

  • 被害者に付きまとうことを禁止する
  • 被害者が通常いる場所及びその付近をはいかいすることを禁止する

という内容の命令です。

接近禁止命令の有効期間は1年間です。

違反した場合

保護命令に違反すると、
「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」
という重い刑罰が科されます。

「違反したら刑罰になる」というプレッシャーが働きますので、相手方としても容易に被害者に接近することができなくなると考えられます

その意味で、保護命令を得ておくことは、被害者にとって大きな安心材料となると思います。

接近禁止命令が出る条件

接近禁止命令を出してもらうためには、3つの要件を満たす必要があります。
①申立人と相手方が、婚姻関係または事実婚や内縁関係にあること。
②申立人が相手方から、①の期間中に、暴力や脅迫を受けたこと
③今後も暴力や脅迫によって、生命または身体に重大な危害が生じるおそれが大きいこと

①の要件について、内縁関係と言えるかどうかは、複数の視点から考える必要があります。
たとえば、内縁関係が認められる方向に働く要素は、

  • 一緒に生活していたこと
  • 生活費を共同で負担していたこと
  • 住民票上、世帯が同じであること

などがあります。

接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令

接近禁止命令で禁止できるのは、

  • 被害者に付きまとうこと
  • 被害者が通常いる場所及びその付近をはいかいすること

の二つに限られます。

そのため、

  • 電話やLINEをしてこないでほしい
  • 子供に近づかないでほしい

などといった要望を実現させるためには、それ以外の禁止命令を出してもらう必要があります。

これらの命令の申立ては、接近禁止命令の申立てと同時に行うこともできますし、また後から追加で申し立てることもできます。

ただし、有効期間は、基本的に接近禁止命令の期間が切れるまで(=接近禁止命令の効力が生じた日から1年間)ですので、ご注意ください。

電話等禁止命令

電話等禁止命令によって禁止される行為は、以下のような行為です。

  • 面会の要求
  • 電話やメールを送ること

子への接近禁止命令

相手方が子供を連れ戻すおそれがある場合等に発令が認められることになります。

子への接近禁止命令によって禁止される行為は、以下のような行為です。

  • 子に付きまとうこと
  • 子が通常いる場所及びその付近をはいかいすること

なお子が15歳以上のときは、子の同意がある場合のみ発令が認められますので、ご注意ください。

親族等への接近禁止命令

親族等への接近禁止命令によって禁止される行為は、以下のような行為です。

  • 被害者の親族等につきまとうこと
  • 被害者の親族等が通常いる場所及びその付近をはいかいすること

なお、「親族等」とは、申立人の親族だけでなく、申立人と社会生活において密接な関係を有する者(たとえば、会社の同僚等)も含みます。

退去命令

退去命令は、申立人と相手方が同居している場合に、相手方を住居から退去させるための命令です。
たとえば、申立人が着の身着のまま逃げ出したものの、その後、住居から衣類などを運び出さなければならなくなったような場合に、申立てを検討することになると思われます。

この退去命令に限っては有効期間は1年間ではなく、原則2か月間(建物の所有者又は賃借人が申立人のみである場合において、申立人の申立てがあったときは、6か月間)となります。

接近禁止命令の申立ての流れ

接近禁止命令が発令されるに至るまでの流れは、以下のようになります。

  • DVセンターや警察へ相談する
  • 裁判所に接近禁止命令を申し立てる
  • 面接や審尋手続が行われる
  • 接近禁止命令が発令される

①DVセンターや警察への相談

基本的に、申立てを行う前にまずは警察やDVセンターに相談をする必要があります。

相談の際にしっかりと相手方の暴行または脅迫の事実を伝えておくことで、後に裁判所へ有利な証拠を提出することができます。

警察に相談する場合には、直接行くか、あるいは電話で相談する(#9110)という方法があります。

一方で、DVセンターには基本的に電話をしたうえで直接相談に行くことになります。

DVセンター施設一覧(PDF)

相談実績がない場合

警察やDVセンターに相談をしていない場合、申立てのためには、公証役場に行き、相手方による暴行の事実などについて記載した書面(=宣誓供述書)を作成する必要があります。

手数料として、一律金11,000円かかることからすると、事前に警察やDVセンターに相談に行くほうがよいかと思われます。

②裁判所に申立てを行う

申立てを行えるのは、あくまで被害者本人だけです。

親族や友人が代理で申し立てることはできませんので、ご注意ください。

申立先

以下のうち、いずれかの地を管轄する地方裁判所に申し立てることができます。

①加害者の住所地(日本に住所がないとき又は住所が不明なときは居所)
②申立人の住所又は居所の所在地
③暴力が行われた場所

必要書類

接近禁止命令の申立てのために用意しなければならない書類は、基本的には以下のとおりです。

  • 申立書2部(正本、副本)
  • 申立人と相手方の身分関係を証明する書類(戸籍謄本、住民票)
  • 暴力、脅迫を受けたことを証明するための証拠となる資料(診断書、怪我の写真、本人の陳述書等)

申立てに必要な費用

申立てに必要な費用は、およそ以下のとおりです。

  • 収入印紙:1,000円
  • 郵便切手:3,760円(千葉地方裁判所の場合)

※郵便切手の額は裁判所ごとに異なりますので、必ず裁判所窓口でご確認ください。

③面接・審尋

「面接・審尋」というとなんだか字面が怖いかもしれませんが、構えなくても大丈夫です。

簡単に言いますと、裁判官が申立人、相手方の双方から話を聞く手続のことです。

まず裁判官は申立人と面接を行い、それから相手方の話を聞きます。

申立人は、相手方から話を聞く期日に出頭しなくてもよいので、ご安心ください。

(代理人が同席することはできます)。

④接近禁止命令の発令

判官が、客観的な証拠等から暴力の事実等が認められると判断した場合、早ければ即日に保護命令が言い渡されることになります。

他方で、相手方が欠席の場合、言い渡しではなく送達で保護命令が送られます。
送達の場合は、送達された時から保護命令の効力が生じることになるので、ご注意ください。

なお相手方が居留守を使い、受領を拒み続けた場合には、就業場所への送達等を検討することになります。

接近禁止命令における注意点

発令されるためにはDVの証拠が必要

DVを立証するための証拠は、とても重要です。
特に相手方が暴行の事実そのものを否認しているような場合には、いかに証拠によって裁判官を説得するかがポイントとなります。

写真や診断書は有力な証拠となることが多いですが、それだけでは十分でないこともあります。
その場合には、写真・診断書・DVセンターでの相談の記録等と整合するような、具体的かつ生々しい供述ができるかどうかという点が重要になってくると思われます。

DVを立証するための証拠

相手に離婚後の住所や避難先を知られないよう注意

申立ての際には、相手方に避難先を知られないように記載に注意しましょう

たとえば、申立書は相手方も閲覧しますので、そこに避難先の住所を書いてはいけません。代わりに、別居前の旧住所等を書いておくのが良いと思います。
※どの住所を書けばいいのか分からないという場合には、裁判所窓口にお問い合わせください。

また証拠書類についても、念のため、知られたくない情報は黒塗りなどのマスキング処理を行う必要があります。

モラハラは対象にならない

接近禁止命令は
③今後も暴力や脅迫によって、生命または身体に重大な危害が生じる恐れが大きいこと
が要件の一つとなっております。

したがって、モラハラ被害に遭っている場合であっても、この③の要件との関係で、接近禁止命令の発令を狙うのが難しい場合が多いと考えられます。

モラハラ被害に悩んでいる場合には、まずは別居をするなどの方法があるかと思います。

別居をするなどの方法

接近禁止命令に違反した場合の対処法

相手方が接近禁止命令に違反して接近をしてきた場合には、直ちに110番通報しましょう

また接近禁止命令が出ていたとしても、外出先でたまたま相手方と遭遇してしまうことは避けられません。

そのような場合に備えて、110番通報者登録制度(=警察に事前に相談しておくことにより、110番をするだけで、これまでの相談内容が瞬時に共有され、警察官が現場に来てくれるという制度)などを利用するのが良いと思います。

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接近禁止命令に関するQ&A

接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?

接近禁止命令には延長という手続がありません。
したがって、接近禁止命令の期間を事実上延ばすためには、もう一度申し立てを行う必要があります。

再度申し立てた場合、裁判所において新しい案件として処理されますので、最初から手続きを行うことになります。
迅速に対応するために、事前に書類などを準備しておくのがよいでしょう。

接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?

具体的に「何メートル以内に近づいてはいけない」といった内容の命令が出されるわけではなく、あくまで、申立人に付きまとったり、あるいは申立人の住居等の生活圏に近寄ったりすることが禁止されるにすぎません。

離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。

離婚後であっても、婚姻中に暴力を受けたことにより、将来暴力などを受ける可能性があるような場合には、接近禁止命令を申し立てることができます。

DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください

接近禁止命令は、とにかくスピーディーに対応することが求められます

また代理人が就くことにより、面接でのDVの立証活動がうまくいく可能性は高くなると考えられます。

接近禁止命令のことでお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。