労務

モンスター社員の正しい対処法とは?放置するリスクや辞めさせ方

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

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社内にモンスター社員がいる場合、対応に困ることが多いと思います。しかし、モンスター社員であるからこそ、不適切な対応をしてしまうことによって、さらに状況が悪化してしまうことも少なくありません。

ここでは、モンスター社員の特徴や、放置した場合の会社へのリスクなどを整理した上で、辞めさせたいときの適切な方法について解説していきます。

モンスター社員とは?

職場での業務内容に著しい悪影響を及ぼしたり、職場の同僚との人間関係においてトラブルを起こしたりしている従業員のことを、モンスター社員と呼ぶことがあります。
モンスター社員が生まれる経緯等には様々なことが考えられますが、その特徴等についてまとめてみました。

モンスター社員が増加している背景

モンスター社員が増加している背景は一概には言えませんが、たとえば、景気が悪く給与が上がらない状況から会社に対する不満を増加させたり、残業時間が増えて家族との時間が減ってしまい、家族との関係も上手くいかなかったりすることでイライラを募らせてしまい、一日の中で多くの時間を過ごす職場において会社や他人にあたってしまうことなどが考えられるかと思います。

モンスター社員の主な特徴は?

モンスター社員の主な特徴としては、たとえば次のようにものが挙げられます。

自己中心的

自分の意見や考えが正しいと思い込んで押し付けようとしたり、それでいて他人の意見や考えは否定したり、無視したりする。

素行不良

社内での基本的なルール(身だしなみ、禁煙など)を守らない。
言葉遣いが丁寧でない。

遅刻・欠勤の常習犯

遅刻や欠席を繰り返し、反省の態度も示さない。
遅刻や欠席によって会社や同僚に迷惑をかけていることを理解していない。

能力不足

自らの能力に足りない仕事を割り振られている。
または、自らの能力を過信して、能力を超えた仕事をやろうとする。
その結果、期限に間に合わなかったり、十分な成果を出すことができず、上司に注意されたり、昇給できない。

逆パワハラ

上司が部下にパワハラ行為をしてはいけないことを奇貨として、上司の指示に従わなかったり、上司に失礼な態度を取ったりする。

企業がモンスター社員を放置することのリスク

モンスター社員に対する対応は簡単ではないですが、そのまま放置してしまうと、たとえば以下のようなリスクが生じると考えられます。

職場環境へのリスク

モンスター社員の言動によって同僚との人間関係が悪化すれば、職場の雰囲気も悪くなって働きにくくなり、社内全体の士気も下がってしまうことが多いです。
また、コミュニケーションが取りづらくなることにより業務が滞ったり、ミスが増えたりする可能性も増えてしまうでしょう。

人材流出のリスク

上記のような職場環境の悪化は、他の社員の離職につながりやすくなります。
社員の離職により業務がより滞るだけでなく、同業他社に流出してしまうと会社の存続にかかわる重大な損失となるおそれもあります。

金銭面でのリスク

金銭面でのリスクとしては、業務が滞ることにより会社の売上に影響するということもあるでしょうが、その他にも、モンスター社員の問題行動が激化すれば収集が付かなくなり、裁判沙汰になる可能性もあるため、弁護士費用や裁判費用が多くかかってしまう可能性があります。

訴訟を起こされるリスク

モンスター社員が会社の対応に不満を抱き、未払い賃金請求や解雇無効などを理由に訴訟を起こしてくる可能性もあります。
そのような場合、その対応自体に時間を取られてしまったり、弁護士費用が掛かってしまったりするリスクがあるほか、もしそのことがマスコミに報じられてしまうと社会的な信用を失うおそれすらあります。

モンスター社員を安易に解雇することはできない

会社がモンスター社員への対応に手を焼いているとしても、安易に解雇することはできません。
適正な手続を踏み、解雇が相当な処分であるとされない限り、解雇が無効と判断されてしまうことがあります。

モンスター社員の解雇が不当解雇とみなされた裁判例

ここで紹介する裁判例は、勤務態度等を理由として解雇した従業員が、当該解雇が無効であることの確認などを求めた事例です。

事件の概要(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

事件番号 令和2年(ワ)第22239号
裁判年月日 令和4年3月23日
裁判所 東京地方裁判所
裁判種類 判決
事案の概要 ①ある時期以降、無断欠勤したこと、②遅刻、早退したこと、③職務能力・勤務態度の不良等を理由として従業員を解雇したところ、当該従業員が、当該解雇が無効であることの確認などを求め、裁判を起こしました。

裁判所の判断

裁判所は、まず上記①(無断欠勤)について、確かに欠勤している事実はあるものの、会社代表者が「あなたにもうこの会社でしてもらう仕事はない」などと述べ、従業員がこれを受けて「今後は会社に来るなという意味か」と確認したところ、会社代表者が肯定したことに着目し、会社が当該従業員の以後の労務提供の受領を拒絶したものと評価しました。

次に上記②(遅刻等)については、いずれも始業時刻直前に従業員が遅刻する旨の連絡を入れていることや、これに対して会社代表者から何らかの問題や業務上の支障を指摘された形跡もないと認定されました。

上記③(職務能力・勤務態度の不良等)については、従業員と会社代表者の間における意思疎通の問題はあるものの、従業員の能力不足や勤務態度の悪さによるものとは認められないとしました。
以上を踏まえ、当該解雇は客観的に合理的な理由があるとはいえないため、無効と判断されました。

ポイント・解説

実際に解雇とするか否かは別として、この事案のように、ある従業員との関係性が悪かったり、遅刻が多かったりして、「もう来なくていい」等といった趣旨の発言をきっかけにその従業員が来なくなるようなケースは、一般的にもそれほど珍しくはないのではないでしょうか。

この事案が実際にそうであるかは分かりませんが、もともと会社代表者が当該従業員を扱いづらいと感じていて、辞めてもらいたいと思っていたのではないかと推測されます。そこで自主退職に促そうとしたものの上手くいかなかったため解雇を言い渡した、という可能性が考えられます。

しかし、その後の裁判で会社側が主張している解雇の理由はかなり弱いものです。扱いづらい従業員を辞めさせたものの、裁判で争われると合理的な理由がないとされて負けてしまう典型例のように見受けられます。

モンスター社員の正しい対処法と辞めさせ方

モンスター社員に困っているとしても、適切に対応することにより改善することもあります。また、最終的には辞めてほしいと考えたとしても、そこに至るまでに適切な手続を経なければ、懲戒処分や解雇が無効になる可能性もあります。
そこで、以下のようなポイントを意識して対応することが求められます。

注意指導を行う

モンスター社員自身は、自らの言動の何が問題なのかを理解していないこともあるため、まずは適切に注意指導を行う必要があるでしょう。

ここでいう注意指導というのは、必ずしも「叱ること」や「怒ること」を意味しているわけではなく、モンスター社員の言動の問題点を理解してもらうことや、その改善にあたってどのように行動するべきかを意識付けてしてもらうことを意味しています。

また、ただ使用者側が注意指導するだけではなく、モンスター社員自身の弁明を聞くことも重要です。ただ口頭で叱責するだけですと、むしろモンスター社員の感情を逆撫でし、逆効果になる可能性が高いです。

始末書や誓約書を提出させる

注意指導だけでは改善が見られない場合には、モンスター社員自身に始末書や誓約書を提出してもらうことも重要となります。
これらの書面を提出させることにより、モンスター社員自身がその言動の問題点を理解し、改善の意思があることを明確にすることができます。

その効果としては、まずはモンスター社員自身が自らの言動を反省し、自ら改善の意欲を持っていただくことが考えられます。
また、その後もモンスター社員の言動に改善がなかった場合に、人事異動や懲戒処分等の手続を踏むための証拠として用いることも可能となります。

人事異動で対応する

モンスター社員の問題行動の原因としては、たとえば、その配属部署の業務内容自体に不満があったり、同じ部署の同僚との人間関係が悪かったりすることもあります。そのような場合には、人事異動を命じ、配属部署を変更することによって、モンスター社員の不満が解消され、問題行動がなくなることもあるでしょう。

もっとも、その人事異動自体に不満を持ってしまうと、新たなトラブルが生じてしまうリスクもあります。これを防ぐためには、事前にモンスター社員から詳しく事情を聴取することが重要となります。

懲戒処分を行う

モンスター社員の問題行動を改善するための適切な手続を踏んでもなお改善が見られない場合には、懲戒処分を行うことを検討することになります。

懲戒処分を行う場合には、モンスター社員の問題行動の内容からして必要かつ相当な処分である必要があります。問題行動の内容にもよりますが、懲戒解雇に相当するほどではない問題行動に対して懲戒解雇を命じてしまうと、その懲戒処分(懲戒解雇)が争われ、無効となる可能性があります。

退職勧奨する

懲戒処分を行ってもなお改善が見られない場合には、いよいよモンスター社員に辞めていただく必要性が高くなりますが、その場合であっても、いきなり解雇を命じるよりは、まずは退職勧奨をすることから始めた方が、円満に解決することができる可能性があります。

ただ、退職勧奨をされている側からすると、「実質的には懲戒解雇と変わらない」と感じてしまうこともありますので、モンスター社員ときちんと話し合い、あくまで一つの提案として退職勧奨しているということを明確にするとよいでしょう。

最終的には解雇する

以上のような適切な手続を踏んでもなお改善せず、退職もしない場合には、最終手段として解雇を命じることになります。
解雇を命じる場合、モンスター社員側がそれに納得せず、解雇無効等を争うケースが少なくないため、事前に弁護士に相談されることをお勧めいたします。

モンスター社員を生まないために企業ができる対策

モンスター社員自身が前職においてもトラブルを起こしていたり、人間関係に不安を持っていたりする場合には、採用後に自社においてもトラブルを起こしてしまう可能性があります。

また、モンスター社員の技能や要望に合わない業務を割り当てると、モンスター社員の不満が生じしまう可能性もあります。そのためには、当該社員の採用段階で、その経歴や人柄、過去の職歴などについてなるべく詳しく確認しておくことで、以上のようなトラブルを未然に防ぐことが可能となるでしょう。

ただし、採用段階では当該社員と話ができる時間に限りがありますし、当該社員自身が短所と感じている部分などは自ら申し出ないこともありますので、それだけでモンスター社員の発生を防ぐことは現実的ではありません。また、実際に入社してからの業務内容や同僚との人間関係において問題行動が生じてしまうことも多いのが事実です。

したがって、普段の業務において各社員と話しやすい環境を整備したり、不満に思っていることを聴取し、改善しようとする努力をしたりすることが、モンスター社員の発生そのものを防ぐためには重要になってくると考えられます。

モンスター社員・問題社員でお悩みなら、まずは弁護士にご相談ください。

モンスター社員が生じてしまっている場合、既にその社員との間で信頼関係を築くことは困難な状態に至っていることが多いです。信頼関係のない使用者や上司から注意指導されたり、懲戒処分を命じられたりすると、それによってより紛争が悪化してしまうこともあります。

各段階において適切な対処を行い、なるべく紛争を悪化させないようにするためにも、まずはこのような問題に詳しい弁護士にご相談ください。法令や過去の裁判例などをもとに、皆様にとってより適切な対応や方針を提供させていただきます。

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千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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