労務

配置転換がパワハラになるケースとは?企業が知っておくべき注意点

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

  • パワハラ
  • 配置転換

会社はより効率的な経営のために、社員に対して配置転換を命ずることがあります。社員の中には、自分がこれまで働いてきた場が変わる事に納得できない者が出てくる可能性があります。そしてその中には、配置転換がパワハラであると主張し、実際に争われるケースもあります。

本記事では、配置転換がパワハラになるケースを紹介し、配置転換における注意点を解説していきます。

そもそも「パワハラ」の定義とは?

パワハラとは、様々な定義がありますが、法律上は、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されること
と定義できます。(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称パワハラ防止法)30条の2第1項)

パワハラ行為の6つの類型

パワハラに該当する行為として6つの類型があると言われています。

  • 精神的な攻撃

    他の社員がいる中で叱責するといった行為

  • 身体的な攻撃

    殴る蹴る叩くといった行為

  • 過大な要求

    仕事を過大に押し付けるといった行為

  • 過小な要求

    専門技術を持って入社したが単純作業をさせるような行為

  • 人間関係からの切り離し

    歓送迎会には誘わなかったりする行為

  • 個の侵害

    個人的な家族関係について悪口を言われるといった行為

6類型については厚生労働省の分類ですが、これらに明確に該当しなくてもパワハラに該当する行為があることについては注意が必要です。

配置転換がパワハラとなるケースとは?

それでは配置転換がパワハラとなるケースはどのような場合が考えられるでしょうか。ポイントとしては、パワハラの定義のうち、②業務上必要かつ相当な範囲といえるかが問題となります。

配置転換が、業務上必要かつ相当な範囲と呼べない場合は、その配置転換はパワハラに該当するおそれがあります。

無理な配置転換命令を強要する

物理的に異動先の職場で勤務開始することが困難であるにも関わらず、配置転換を命ずることは業務上相当であるとはいえないと考えられます。例えば、引っ越しに対する手当がないにも関わらず、遠方の職場に配置転換を命ずるといったことが考えられます。

従業員の事情に配慮せずに配置転換させる

配置転換によって、引越しや単身赴任を余儀なくされるような場合は、従業員に個別に親の介護であったり、育児といった事情がないか聞いた上で、配置転換を決めることが重要です。

妊娠や出産を機に配置転換させる

妊娠や出産には他の事情と比べて、特に配慮が必要です。というのも、パワハラのみならず、マタハラの問題も含んでいるからです。そのため、安易に妊娠や出産といったことを理由に、配置転換を行うべきではありません。

反面、本人の体調から配置転換を希望しているような場合は、あくまでも本人の希望に基づいて、配置転換を行なったことを記録として残しておくことが望ましいです。

配置転換を拒否した従業員への嫌がらせ

配置転換を拒否した従業員に対して、嫌がらせ行為をすることは当該嫌がらせ行為自体がパワハラに該当する可能性が高いです。反面、通常の配置転換命令であれば、これに対する拒否は、業務命令に従わなかったということですから、当該従業員の人事評価を下げるといった対応を取っても良いでしょう。

配置転換がパワハラに該当した場合の企業リスク

配置転換がパワハラに該当してしまうと、当該従業員からは損害賠償請求され、一定の賠償金の支払いを余儀なくされることがあります。

今後正当な理由のある配置転換命令であっても、従業員がパワハラに該当するかもしれないと疑い拒否され、適切な人員配置に行き詰まる可能性が生じます。またパワハラが公になると会社の社会的信用が低下するといったリスクもあります。

配置転換命令が違法・無効となるケースもある

配置転換命令が会社の権利濫用であるとして違法であり無効となるケースもあります。具体的には配置転換の①必要性②配置転換の目的③従業員が受ける不利益の程度から判断されます。

配置転換がパワハラとならないための対策

配置転換がパワハラに該当してしまうと、会社にとって大きなリスクが生じることがお分かり頂けたと思います。それでは配置転換命令がパワハラとならないためにはどのような対策を講じればよいのでしょうか。

労働契約や就業規則を整理する

まずは、配置転換命令を会社が出せるようになっているか、労働契約や就業規則を確認しましょう。規定がない場合は、配置転換命令自体が違法となります。また、従業員の技能に着目しているような労働契約の場合は、その技能を生かせないような場所への配置転換は違法となる可能性が高いです。

入社時に配置転換の範囲を説明しておく

入社時に、配置転換があることを説明しておくと、従業員としても配置転換について準備することができます。漠然と配置転換があるとだけ伝えてしまうと、従業員としても不安を搔き立てられるだけですので、どのような部署にどの程度の期間働くことになる可能性があるかを示しておくと良いでしょう。

配転前に従業員の意見や事情を聞き取る

従業員が受ける不利益を最小限にするため、配置転換前に、従業員の意見や事情を聞き取ることが重要です。やむを得ず配置転換命令を出す場合も、配置転換の時期や場所等について会社として調整できることがないか模索していく必要があります。

不当な配置転換に対して損害賠償請求が認められた裁判例

それでは不当な配置転換に対して損害賠償請求が認められた裁判例を紹介します。

事件の概要

Y社は医薬品等の開発業務に関する事業を行う会社で、Xはその社員でした。Xは入社後、主に営業業務で働いていましたが、営業の適性がないとして、監査室への異動を命じました。

Xはこの配置転換命令が違法であるとして不法行為に基づく損害賠償請求をしました。(東京地方裁判所判決令和3年11月9日)

裁判所の判断

裁判所は、Xが営業業務に従事していたこと、Xには監査業務に従事したことがなかったことを認定し業務上の必要性がなかったと判断し、配置転換が違法であると判断しました。

ポイント・解説

これまで営業職であったXを全く経験がない監査職に配置転換するという事情から業務上の必要性がない違法な配置転換命令だと判断していますが、問題社員かどうかについても裁判所は判示しています。

裁判所は、Xが毎期高額の案件を受注していたこと、Y社からXに対して業務改善の指導を行なっていた資料が提出されていないことから、Y社側のXの能力不足の主張を認めていません。

会社として、問題社員であると裁判所に示すためには、客観的な社員の成績や、指導の実績を残しておくことが必要だったといえます。

配置転換でトラブルとならないためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

一度配置転換がパワハラ認定されてしまうと、今後の会社の配置転換がスムーズに行えなくなってしまい、適切な人員配置ができなくなってしまう結果経営を悪化させるリスクがあります。

配置転換に際しては、事前に確認しておくべき事情が多数あり、従業員の反発が予想される場合は、事前に労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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