監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
相手が離婚を拒否していて思うように話し合いが進まない場合や、夫婦喧嘩が絶えず冷却期間を設けたい場合は、“別居”を検討しても良いかもしれません。別居は夫婦にとって大きな転機となりますが、離婚の手続きにおいても法的に重要な意味を持ちます。
別居をする際には、正しい方法を知っておかなければ、思わぬ損をしてしまったり、離婚時に不利な扱いを受けてしまったりするおそれがあります。本記事で別居についての理解を深めていきましょう。
目次
別居すると離婚しやすくなるのは本当か
別居をすると、裁判において離婚請求が認められる可能性が高まります。
そもそも裁判で離婚を認めてもらうには、以下の法定離婚事由が必要なのですが、長期の別居で夫婦関係が破綻していると判断されれば、法定離婚事由の⑤に当てはまることになります。
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④回復の見込みがない強度の精神病
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
どれくらいの別居期間があれば離婚できる?
離婚が認められる別居期間について、法律で具体的に定められているわけではありませんが、これまでの判例では大体3年~5年程度で認められているようです。
なお、離婚請求をする側が有責配偶者(離婚の原因を作った方)に該当する場合は、通常は離婚が認められることはありませんが、「長期間の別居」を含む以下のすべての条件を満たしていれば、請求が通る可能性があります。
- 別居が長期間に及んでいる(7年~10年程度)
- 未成熟の子がいない
- 離婚によって他方の配偶者が、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれることがない
単身赴任や家庭内別居も別居として認められる?
単身赴任は仕事上の都合で行うものなので、法定離婚事由に該当する“別居”としては認められないのが通常です。ただし、以前から夫婦関係が悪化しており、転勤の辞令が出たことをきっかけに、離婚の意思があることを明確にしたうえで、単身赴任を選択したようなケースでは、“別居”として認められる余地はあります。
また、家庭内別居についても、法定離婚事由に該当する“別居”として認めてもらうのは、かなり難しいでしょう。たとえ夫婦の会話がなかったとしても、同じ家で暮らしている以上、婚姻関係が破綻しているとは判断しづらいためです。
夫婦の家計が完全に別になっており、家庭内別居に至った原因に相手の不貞行為や暴力等があれば、複合的な理由で離婚が認められる可能性はあります。
正当な理由なしに別居すると、離婚時に不利になる
別居の際は、“正当な理由”が必要です。夫婦には同居の義務があり、違反すると「悪意の遺棄」にあたるとして、有責配偶者とみなされるおそれがあります。その場合、離婚請求が通らなかったり、相手から慰謝料を請求されたりと不利な立場になりかねません。
正当な理由とはどんなもの?
別居をする“正当な理由”とは、第三者から見ても「別居に至るのは仕方がない」と判断できるような事情のことです。以下に例を挙げたので、参照してください。
- 相手が自分以外の人と性的関係を持った
- 相手が自分や子供に暴力を振るう
- 相手がモラハラで精神的に追い詰めてくる
- 相手が生活費を一切渡してくれない
- 相手が重度のアルコール依存症で働こうとしない
不利にならない別居の方法
それでは、離婚の際に不利にならないためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。以下で解説していきます。
相手に別居の同意を得る
別居をする前には、必ず相手にその旨を知らせておきましょう。相手が暴力を振るうといった事情がなければ、話し合いをして相手の同意を得ておくとより確実です。話し合いが難しければ、置手紙やメール・LINE等を利用しても構いません。
相手に何も言わずに別居してしまうと、配偶者を見捨てる行為である「悪意の遺棄」に該当すると、裁判官に判断されてしまうおそれがあります。また、相手が警察に捜索願等を出すことも考えられます。
親権を獲得したい場合は子供と一緒に別居する
離婚後の子供の親権を獲得したいと考えている場合は、子供を連れて別居をした方が、親権者を決める際にその事実が有利に働く可能性があります。裁判では、“子供の利益”を優先したうえで、「これまで主にどちらの親がどのように監護してきたか」「離婚後の養育環境の変化が小さいのはどちらか」といった点が考慮されるためです。
ただし、相手に無断で一方的に子供を連れ出してしまうと、相手から「違法な連れ去りだ」等と主張され、親権争いでひどく揉めるおそれがあります。子供を巻き込んで精神的に深く傷つけることになりかねないので、夫婦でしっかりと話し合ってから別居するようにしましょう。
相手が浮気していた場合は証拠を確保しておく
相手の浮気が原因で別居を検討している方は、別居について相手に切り出す前に、十分な証拠を集めておいてください。
不貞行為は法定離婚事由のひとつなので、証拠があれば裁判で離婚請求が認められますし、あなたが受けた精神的苦痛に対する償いとして、相手や浮気相手に慰謝料を請求することもできます。
ただ、別居をした後で証拠を集めるとなると、相手の行動が把握しづらくなるうえ、相手も警戒するおそれがあるので、この点は注意しておきましょう。
別居のメリットとデメリット
<メリット>
- 法定離婚事由を作り出すことができる
- 離婚の意志が固いことを相手に伝えられる
- 婚姻費用の支払いを求めることができる場合は,別居期間が長引くと相手の婚姻費用の支払いも増えるので、相手が早期の離婚に応じる可能性がある・相手の暴力等から自分や子供の身を守れる
- 離婚に向けた準備を落ち着いて進められる
- 離婚するかどうか冷静に考えることができる
- 相手との同居のストレスがなくなる
<デメリット>
- 離婚を撤回しようとしても、元の関係に戻るのが難しくなる
- 相手の不貞行為等の証拠集めが難しくなる
- 共有財産の資料集めが難しくなったり、相手が共有財産を隠したりするおそれがある
- 別居を理由に有責配偶者扱いされるおそれがある
- 仕事や住居の確保、子供の転園・転校といった煩雑な手続きが多い
- 経済的に苦しくなるおそれがある
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
別居の際に持ち出すべきもの
別居の際に持ち出すべきものを以下に挙げたので、参考にしてください。なお、夫婦の共有財産や、相手名義の財産については、勝手に持ち出さないよう注意しましょう。
<貴重品等>
- 現金
- 預貯金通帳
- キャッシュカード
- クレジットカード
- 自分名義の保険証券(生命保険等)
- 実印、銀行印
- マイナンバーカード
- 運転免許証
- パスポート
- 健康保険証
- 年金手帳
- 母子手帳
- スマートフォン
<生活用品>
- 常備薬
- 当面の衣類
- 子供が学校で使う教材等
<その他>
- 配偶者の直近の源泉徴収票(控え)
- 配偶者の直近3ヶ月の給与明細書(控え)
- 共有財産に関する資料(控え)
- 不貞行為や暴力等の証拠
別居に伴う手続き
別居に伴い、以下の手続きも行うようにしましょう。
婚姻費用の請求
別居の際、夫婦のうち収入の少ない方の配偶者は、他方の配偶者に婚姻費用を請求することができます。婚姻費用は別居中の生活費となるため、別居を開始したらすぐに相手に請求するようにしましょう。
相手の課税証明書の取得
課税証明書には年収や納税額が記録されており、相手の収入を証明する重要な書類となります。婚姻費用や養育費等を請求する際に必要となりますが、住民票を移してしまうと相手の分の課税証明書を取得することができなくなるので、同居中に取得しておきましょう。
住民票の異動
引っ越した日から14日以内に手続きを行いましょう。なお,DVから逃れるための別居など,相手方に別居先を知られたくない場合は,役所に相談することで転居後の住民票の閲覧を制限できる可能性がありますので,相談してみると良いでしょう。
子供に関する手続き
児童手当の受給者変更、乳幼児・子ども医療証の住所変更、転園・転校手続き等も忘れずに行いましょう。
別居後、荷物を取りに行きたくなった場合
別居をした後で、持ち出し忘れた荷物に気付くこともあるかと思います。しかし、いくら元々住んでいた家とはいえ、相手に無断で入ると「住居侵入罪」に該当するおそれがあります。夫婦の問題なので、実際に警察が動くことはほとんどないかと思いますが、この点は理解しておきましょう。
荷物については、相手に電話やメール等で連絡を取って郵送してもらうか、了承を得たうえで取りに行くのが無難でしょう。もし関係がひどく悪化して頼みづらいようであれば、調停の場で伝えたり、依頼している弁護士を介して伝えたりという方法も検討してください。もっとも,相手が中々協力してくれなかったり,送付の費用をどちらが負担するかでトラブルになることも多いので,別居時は,できる限り必要な物を全て持ち出せるようにしっかりと準備しておくと良いでしょう。
別居後、生活が苦しくなってしまった場合
別居後は、家賃や食費といった生活費を自分ひとりで賄っていくことになるため、経済的に苦しくなりがちです。そのような事態に陥らないためにも、別居時に相手に婚姻費用を請求することを忘れないようにしましょう。
婚姻費用は家族が生活を営むのに必要な費用のことで、夫婦は役割に応じて分担する義務があります。別居後もこの義務は継続するので、早い段階で婚姻費用分担請求調停を申し立てるとよいでしょう。
婚姻費用を受け取ってもなお生活が苦しい場合は、役所で生活保護について相談をしてください。
有利な結果と早期解決へ向けて、離婚に詳しい弁護士がアドバイスさせていただきます
法定離婚事由に当てはまるような離婚原因が特に何もない場合、別居をするのは有効な手段です。しかし、別居の際には冷静になって準備を進めてから行動に移さないと、思わぬ失敗をしてしまうおそれがあります。
別居や離婚に向けた手続きを確実に進めていきたいという方は、弁護士に相談してみてください。弁護士はこれまでに積み上げた専門知識とノウハウから、個々の事情に応じた最適な解決策をアドバイスすることができます。
弁護士法人ALG千葉法律事務所では、別居に関するご依頼も多く承っていますので、ぜひ一度お問い合わせください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)