勝手に別居された場合、婚姻費用の支払い義務はある?

離婚問題

勝手に別居された場合、婚姻費用の支払い義務はある?

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

「ある日、仕事から帰ると、突然妻がいなくなっていた…」「置手紙やLINEには『離婚をしたいので別居します。今後のやりとりは弁護士へお願いします。』とだけ残されており、本人たちと一切連絡が取れなくなってしまった」そのようなケースは少なくありません。

加えて、別居開始まもなく、配偶者から婚姻費用の支払いを求める旨の調停を申し立てられることもよくあります。

「断りなく別居を開始した配偶者に対して婚姻費用を支払う必要があるのか」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

そこで、今回は、無断で別居を開始した際の婚姻費用の取扱いについて、以下で解説いたします。

妻が勝手に別居した!婚姻費用の支払い義務は?

結論から申し上げると、配偶者が勝手に別居を開始したケースであっても、配偶者に対する婚姻費用の支払義務があるのが原則です。

民法760条によると、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を負担する。」と定められております。ここでいう「婚姻から生ずる費用」が婚姻費用を指しています。

夫婦は、お互いの生活費を収入に応じて分担することで、双方が同じ水準で生活が維持できるようにする義務があると考えられております。

この考え方を前提とすると、たとえ勝手に別居が開始されたケースであっても、婚姻関係にある限りは、婚姻費用を支払う義務を負うことになります。

正当な理由がない、勝手な別居は「同居義務違反」

そもそも、民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定されています。このことから、夫婦には、法律上、正当な理由がない限り、同居義務があると考えられています。

そこで、配偶者が勝手に別居を開始してしまったケースは、正当な理由のない同居義務違反であるから、婚姻費用を支払う必要がないようにも思えます。

しかし、別居に至った原因について、婚姻関係がもともと破綻していたという状況を作り出してしまったというようなケースでは、配偶者が勝手に出ていった場合でも、「正当な理由による別居」と考えられることが多いです。

そのため、別居に至ったきっかけによっては、無断で別居した事実をもって婚姻費用の支払いを拒否できるものではないと考えられるのが通常です。

同居義務違反なら慰謝料を請求できるケースも

他方で、「正当な理由」がない別居と考えられるケースの場合には、同居義務違反として、配偶者に対して慰謝料請求ができる可能性があります。

具体的には、裁判例上、民法上の「悪意の遺棄」と認められる場合に「正当な理由なき同居義務違反」と考えられます。

ただし、無断で別居を開始した事実のみをもって「悪意の遺棄」と認められるのは難しいと考えられています。

裁判例上、「悪意の遺棄」といえるには、配偶者が暴力や脅迫を執拗に行ったと認められる場合や、病気などで看病が必要な状態であるにもかかわらず置き去りにして出て行ってしまう場合などの限定的なケースにとどまります。

家出の原因が相手にある場合は婚姻費用が減額される可能性あり

無断で別居を開始した原因が、相手の配偶者にあり、かつ、ご自身には何の原因もないと考えられる場合には、婚姻費用が減額される可能性があります。

配偶者にのみ別居の原因があると考えられるケースとしては、「不貞行為」「暴力をふるった」などの場合が挙げられます。

このようなケースで、配偶者が婚姻費用の支払を求めてきた場合には、信義則に違反することや権利を濫用しているとして、婚姻費用が大幅に減額となる可能性があります。

もっとも、配偶者にのみ別居の原因があると考えられる場合であっても、少なくとも、お子様の養育費相当額の限度では婚姻費用を支払わなければならないと考えられます。

なぜならば、無断で別居を始めたことによる婚姻費用の減額の責任を、配偶者だけでなくお子様も負うことに合理的な理由がないからです。

家出の原因が自身(払う側)にある場合はどうなる?

婚姻費用を支払う側に、別居に至った原因があると考えられる場合には、通常よりも婚姻費用を多く支払う必要があるのかという疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

例えば、配偶者が、婚姻費用を支払う側からDVを受けて、別居のための話し合いができない状況を受けて出て行ってしまったケースが挙げられます。

このケースのように、婚姻費用を支払う側に別居の原因があると考えられる場合であっても、これを理由に婚姻費用が増額することは基本的にはないと考えられます。

なぜなら、裁判例上、婚姻費用は、当事者双方の収入やお子様の年齢などによって、大枠の金額が算定されるためです。

勝手に出て行った相手から婚姻費用を請求された場合の対処法

まずは、配偶者に対して、「同居義務違反なので払うつもりはない」と伝えることが考えられます。

しかし、上記のとおり、同居義務違反と認められるのは、裁判例上も限定的なケースにとどまりますので、配偶者が支払わないことに同意しない限り、基本的には婚姻費用の支払いをする必要があると考えられます。

そこで、配偶者から請求された婚姻費用の金額が妥当なものかについて調べる必要があります。

婚姻費用の金額の妥当性を考える大きな目安となるのは、裁判所が用いている「算定表」です。

これは、当事者双方の収入やお子様の人数、年齢などを要素として、婚姻費用の大枠の金額を算定するための表です。

話し合いの段階では、「算定表」をもとに、ご自身の収入額や配偶者の収入額などをベースに、妥当だと考える大枠の金額を提示することから始め、次に、その他具体的な費用負担に関する事情を加味しながら、具体的な金額を決めていくことになります。

勝手な別居と婚姻費用に関するQ&A

勝手に家出した妻が実家にいることが分かりました。実家の世話になるなら婚姻費用は払わなくても良いですか?

原則として、配偶者が、ご実家に帰った場合であっても、婚姻費用を支払わなければなりません。
これまでは賃貸や住宅ローンを支払っている持ち家に住んでいたにもかかわらず、配偶者が、まったく費用負担のないご実家を別居先としているのであれば、その分婚姻費用は支払う必要がないように思われるかもしれません。
しかしながら、裁判例では、「配偶者がどこを別居先としているか」という点は、婚姻費用の算定において考慮しないのが基本です。

浮気相手の家に転がり込んでいるようなのですが、それでも婚姻費用を払わなければならないのですか?

仮に、配偶者が別居を始めた原因が、浮気相手との不貞行為によるものであると考えられる場合には、その不貞行為によって、夫婦関係が破綻したとして、配偶者を「有責配偶者」であることから、婚姻費用の金額を減額する要素となり得ます。
もっとも、配偶者の不貞行為があったとしても、それよりも前に、別の事情から、既に夫婦関係が破綻していたと考えられる場合には、必ずしも配偶者が「有責配偶者」であると評価できない可能性もあります。
ですので、まずは、別居に至った原因やこれまでの夫婦関係などについて、事情を整理していく必要があると考えられます。

勝手に出て行った妻から離婚したいと言われたので離婚届を送ったのですが提出されません。何度か送っても放置されているのですが、それでも婚姻費用は払わなければいけませんか?

離婚届が提出されていないということは、「婚姻関係が継続している」ことを意味します。
ですので、別居状態から同居の状態に戻る場合や、離婚届が提出され離婚が成立した場合でない限りは、原則として、婚姻費用を支払う義務があります。
配偶者が離婚届の提出に応じてくれない場合には、離婚に向けた協議を進めるために、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることをおすすめします。

弁護士が早期解決のお手伝いをいたします

「突然、配偶者から別居をされてしまい、今後どのように行動していけばよいのか分からない」そのようなときには、弁護士へご相談ください。

弁護士であれば、具体的な事情を聞き取ったうえで、具体的な婚姻費用の適正額を計算することができます。

また、仮に、配偶者から、婚姻費用に関する調停(婚姻費用分担請求調停)を申し立てられていた場合には、申し立てた月から未払いの婚姻費用が生じることになります。

未払いの状態が数か月以上、続いてしまうと、強制執行の手続きによって、ご自身の給与が差し押さえられてしまうなどのリスクもあります。

そのようなリスクを避けるために、早い段階から弁護士へ相談することをおすすめします。お一人で抱え込まずに、弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。