
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
近年、日本においても多様化が進み、法律婚にとらわれない“事実婚”を選択するカップルが増えてきています。事実婚とは、役所に婚姻届を提出しないものの、カップルがお互いに婚姻の意思を持ち、共同生活を営んでいる関係を指し、“内縁関係”とも呼ばれています。内縁関係にある場合は、事実婚とは異なり、婚姻届を提出していないため、お互いの関係を証明しづらい問題があります。
そこで本記事では、「内縁関係の証明方法」について着目し、内縁関係の判断基準や必要書類などについて、詳しく解説していきます。
内縁関係の証明が必要となるのはどんな時?
内縁関係の証明は、「大きなトラブルが発生して法的保護を受けなければならない時」に必要となります。
たとえば、次のような時です。
- 不貞行為等による慰謝料請求時
- 内縁関係解消時の財産分与請求時
- 内縁関係解消後の養育費請求時
- 遺族年金の受け取り時 など
これらの時に、自分と相手が内縁関係にあると証明できなければ、法的保護を受けられません。つまり、相手が内縁関係を否定した場合は、相手に対し慰謝料や財産分与などの請求を行えない、ということになります。
内縁関係を証明するには?書類や方法について
内縁関係を証明するには、「書類による証明方法」と「客観的事情による証明方法」があります。
書類による証明方法 |
1. 住民票 2. 賃貸借契約書 3. 健康保険証 4. 遺族年金証書 5. 給与明細 6. 民生委員が作成する内縁関係の証明書 |
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客観的事情による証明方法 |
7. 長期間の同居 8. 親族や友人たちから夫婦として扱われている 9. 結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真 |
1~6までは書類による証明方法で、7~9までは客観的事情による証明方法です。
上記に列挙したもののほか、郵便物の受取や居住している住居のライフライン(電気・ガス・水道等)の支払状況がわかる資料も補足的な資料となり得ます。
では次項にて、それぞれについて、詳しく解説していきます。
住民票
住民票は、内縁関係の証明において特に重要な書類といえます。
法律婚の場合、住民票の続柄欄には「妻」「夫」と記載されますが、内縁関係の場合は「妻(未届)」「夫(未届)」と記載できます。これにより、手続きはしていないものの、当事者双方に婚姻の意思があることが証明できます。また、同一世帯にしている場合は、同居していた事実を証明できるため、有効な証拠となり得ます。
ただし、反対に続柄欄が双方(未届)になっていない場合や同一世帯にしていない場合には、内縁関係の証明が弱くなるため、注意が必要です。
賃貸借契約書
内縁の配偶者と同居している場合は、賃貸借契約書が証拠となり得ます。
賃貸借契約書の同居人または関係性の欄に、「内縁の妻」「内縁の夫」や「妻(未届)」「夫(未届)」と記載している場合には、住民票と同じく当事者双方に婚姻の意思があることを証明できます。
賃貸借契約書は、住民票のような公的書類ではありませんが、同居していた事実や婚姻の意思があったことを証明するには、有効な証拠といえます。
健康保険証
内縁関係であっても健康保険の扶養に入れるため、健康保険証は有効な証拠のひとつといえます。健康保険法では、配偶者の定義を以下と定めています。
<健康保険法 第三条参照>
配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)
遺族年金証書
内縁の配偶者が亡くなっていて、遺族年金を受け取っている場合には、遺族年金証書が証拠となり得ます。
遺族年金とは?
国民年金または厚生年金の加入者が死亡したときに、その加入者の遺族(配偶者・子供等)に対して支給される年金のことです。
健康保険と同様で、遺族年金を受け取れる配偶者には、内縁関係の者が含まれています。そのため、遺族年金を請求し受給条件を満たすと、遺族年金証書が送られてきます。
なお、受給条件を確認する際には、死亡した加入者と請求者が内縁関係であったかどうかもきちんと確認されます。内縁関係にあったと認められない限り、遺族年金は支給されないため、遺族年金証明書は内縁関係を裏付ける有効な証拠といえます。
給与明細
「扶養手当」や「家族手当」などの手当が勤務先から支給されていれば、給与明細も内縁関係を裏付ける証拠となり得ます。これらの手当を勤務先から受け取るには、内縁関係の配偶者を被扶養者として勤務先に申告し、勤務先がそれを認める必要があります。
勤務先は、手当を支給するうえで厳格な審査を行っているはずです。そのため、扶養手当や家族手当が記載されている給与明細書は、内縁関係を証明する有効な証拠となります。
民生委員が作成する内縁関係の証明書
民生委員が作成した事実婚証明書や内縁関係証明書は、内縁関係を証明する書類といえます。
民生委員とは?
住民の立場に立ち、相談を受けて必要な援助を行うなど、社会福祉の増進に努める非常勤の地方公務員のことです。
お住まいの地域の民生委員に依頼すれば、内縁関係の証明書を作成してもらえる可能性があります。そして、作成された証明書は、内縁関係を裏付ける書類として使用可能です。ただし、作成された証明書の内容次第では、証拠としての効力が弱い場合があるため、注意しなければなりません。
長期間の同居
長期間の同居は、内縁関係を客観的事情によって証明する方法に含まれます。
「何年以上同居していたら内縁関係と証明できる」というような明確な基準は設けられていませんが、同居が長ければ長いほど、夫婦として共同生活を送っていたと認められやすいです。
ただし、あくまで客観的事情に過ぎないため、長期間の同居のみでは、「ルームシェアや婚姻の意思を持たない同棲」との区別がつきません。そのため、その他の要素と考慮し、総合的に判断されます。
親族や友人たちから夫婦として扱われている
親族や友人たちから夫婦として扱われている事実は、内縁関係を証明する材料となります。
たとえば、以下のような場合には、互いに婚姻の意思を持ち、夫婦として共に生活していると認められやすいです。
- 冠婚葬祭に夫婦として呼ばれている
- お互いの友人に夫婦だと紹介している
ただし、親族や友人からの証言は補助的な要素が強いため、証拠としての効力は弱い点に注意が必要です。とはいえ、内縁関係を証明する材料とはなり得ますので、その他の証拠と併せて証明していくとよいでしょう。
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真も、内縁関係を証明する材料となり得ます。
なぜなら、一般的には婚姻の意思がないにもかかわらず、多額の費用がかかる結婚式や披露宴を挙げる可能性は低いと考えられるからです。そのため、結婚式や披露宴の実行自体が、お互いに婚姻の意思があったことを認める証拠となりやすいです。
また、実行するうえで、お互いの親族や友人たちに夫婦だと紹介している可能性が高いため、客観的事情としては重要な証拠といえます。
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内縁関係の証明に関するQ&A
半同居生活を送っていた場合でも内縁関係を証明することはできますか?
半同居生活を送っていた場合は、完全同居と比べて内縁関係の証明が難しくなります。完全同居の場合は、「お互いに婚姻の意思を持ち、夫婦として共同生活をしている」と認められやすいですが、半同居の場合は認められにくいでしょう。もっとも、仕事の都合で半同居にせざるを得ない事情や半同居生活であっても家計は一緒にしているなどの事情が認められる場合には、内縁関係を証明できる余地があります。このような事情がある場合は、証拠ではなくひとつの判断材料として、半同居生活の旨を主張するとよいでしょう。
自分で作成した契約書は内縁関係を証明する証拠になりますか?
自分で作成した契約書は、内容次第で内縁関係を証明する証拠になり得ます。たとえば、以下のような内容を記載した「事実婚契約書」を作成すると、より有効な証拠となります。
<記載事項>
・目的(お互いに婚姻の意思があることの確認等)
・誓約事項
・遵守事項
・子に関わる事項
・生活上や財産についての取り決め など
また、作成した契約書を公正証書にしておくと、さらに有効な証拠となるため、証拠の効力を強めたい場合は、公正証書にしておきましょう。
自動車保険は内縁関係を証明する証拠になりますか?
自動車保険は、保険を受け取る配偶者が、自動車保険の契約上、内縁の妻(夫)となっている場合は、内縁関係を証明できる証拠になります。なぜなら、健康保険などと同じように、自動車保険もまた配偶者を内縁の妻(夫)とできるからです。
自動車保険の保険会社は、保険の補償対象者についての審査を厳しく行っています。そのため、補償対象と認められていること自体が、内縁関係の証明に大きくつながり、証拠としての効力を高めます。
内縁関係を証明できれば浮気相手から慰謝料をもらうことができますか?
内縁関係を証明できれば、浮気をした内縁の配偶者に対して慰謝料を請求できます。ただし、この場合は、「内縁関係の証明」と「不貞行為の証明」が必要となるため、注意しなければなりません。
内縁関係であっても、法律婚と同様に、内縁の配偶者(または浮気相手)から不倫の事実を否認される可能性があります。慰謝料を請求するには、内縁配偶者の不倫を裏付ける証拠が必須ですので、あらかじめ証拠はきちんと収集しておきましょう。
また、浮気相手が内縁関係にあることを知らなかったと主張してきた場合は、「内縁関係にある事実を知ったうえで不貞行為を行った・知り得る可能性があった」ことの証明が必要です。
内縁関係を証明できるか不安なときは弁護士にご相談ください
法律婚とは異なり、内縁関係にある場合は、そのことを証明する必要があります。
特に、法的保護を受けたい場面では、内縁関係の証明が必須です。また、内縁関係を証明する書類や事実は、ひとつあれば十分というわけではなく、複数の書類や事実に基づき総合的に判断されます。そのため、できるだけ多くの証拠を収集し、主張・立証することが大切です。しかし、これらを適切に行えるかどうか不安を抱かれる方は決して少なくありません。このような場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)