交通事故における逸失利益とは|計算方法と増額のポイント

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交通事故における逸失利益とは|計算方法と増額のポイント

千葉法律事務所 所長 弁護士 大木 昌志

監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

交通事故で大怪我を負って後遺症が残ってしまった方や、大切なご家族を亡くされてしまった方は、加害者側と損害賠償金の交渉を進めるうちに“逸失利益”という言葉に出会うかと思います。
逸失利益は損害賠償金の費目のひとつで、被害の程度によっては1000万円を超える高額請求が認められることもあります。逸失利益について適切な補償を受けるためにも、しっかりと知識をつけておくことが重要です。
このページで逸失利益の概要や計算方法、増額ポイントなどについて解説していきます。

交通事故の逸失利益とは

逸失利益とは、本来であれば得られるはずだったのに、他者による不法行為などが原因で得られなくなってしまった利益のことをいいます。
交通事故の場合でいえば、被害者は事故に遭わなければ健康体のままで日常生活を送り、働くことでこれまで通りの収入を得られていたはずです。この“得られていたはずの収入”が逸失利益にあたります。
交通事故の逸失利益には、「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2種類があります。以下でそれぞれの意味を確認しましょう。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、交通事故で後遺障害が残ってしまった場合に請求できる逸失利益です。
交通事故の怪我が完治せずに後遺症が残ってしまった人は、後遺障害の等級認定申請を行うことになります。この申請が通ると、障害の程度に応じて1級から14級のどれかの等級に認定されます。
後遺障害があると健康体のときよりも労働能力は落ちてしまい、その分だけ収入も減ってしまいます。減収分を補償する目的で、後遺障害等級認定を得た人には後遺障害逸失利益の請求が認められているのです。

死亡逸失利益

死亡逸失利益とは、交通事故で死亡した場合に請求できる逸失利益です。
死亡してしまうと、将来定年を迎えて退職するまでに得られていたはずの収入のすべてを失ってしまうことになります。そのため、被害者の遺族は被害者に代わって死亡逸失利益を請求することが認められています。

逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の金額は、それぞれ以下の計算式に当てはめて算出することができます。

<後遺障害逸失利益>
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

<死亡逸失利益>
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

見慣れない用語ばかりかと思いますので、以下でひとつずつ解説していきます。

基礎収入

基礎収入の額は、原則として被害者が事故に遭う前の1年間の年収をベースとします。
サラリーマンなど給与所得者の場合は、事故前年の源泉徴収票を参照します。自営業者の場合は、事故前年の確定申告書を参照しますが、売り上げから諸経費を控除した額を基準とするのが通常です。
また、被害者が専業主婦や学生で現実に収入を得ていなかったとしても、逸失利益を請求することができます。この場合は、賃金センサスを参照して基礎収入額を定めることになります。

賃金センサスについて

賃金センサスとは、政府が毎年実施している賃金に関する全国的な統計調査のことです。調査結果は厚生労働省のホームページでも確認することができ、年齢、性別、学歴、企業規模、雇用形態といった分類ごとに、一般労働者の平均賃金がまとめられています。
賃金センサスは、事故時点で収入が発生する仕事に就いていない人(専業主婦、学生、幼児、失業者等)の基礎収入を定める際によく利用されますが、以下のような場合にも賃金センサスを用いることがあります。

  • パートタイマーの兼業主婦で、パート収入よりも賃金センサスの額の方が高いケース
  • 新卒社員で現在の収入よりも賃金センサスの額の方が高いケース

労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害があることで労働にどの程度支障が生じるかをパーセンテージで表したものです。具体的な労働能力喪失率は労災の後遺障害等級の基準に則って判断され、その数値は後遺障害等級によって変わってきます。
例えば、後遺障害等級4級(両眼の視力が0.06以下になったケース、片腕を肘関節以上で失ったケースなどで該当)の場合、労働能力喪失率は92%と定められています。これは、健康体のときに比べて後遺障害があることで、労働能力が92%に落ちていることを示しています。
ただし、後遺障害により失った身体機能と仕事の内容によっては、自賠責保険の基準通りの労働能力喪失率とするのが不適切な場合も考えられます。実際の示談交渉の場面では、この点が争いになることも多いです。

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害の影響で労働に支障が生じてしまう期間のことです。通常は、「症状固定日※から67歳まで」の期間の年数とします。
被害者の年齢が67歳間近であったり、それより高齢であったりする場合は、「症状固定時の年齢の平均余命の1/2」とすることが多いです。
また、被害者が学生や幼児の場合は、期間の始期を症状固定日とせずに、一般的に働き始める年齢である18歳または22歳とします。
ただし、これらの算出方法はあくまでも原則であり、後遺障害の内容や職種等によってはこの限りではありません。例えば、比較的軽度な症状である後遺障害等級14級のむちうちであれば、5年と設定することが多いです。

※症状固定日…それ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師に診断された日

ライプニッツ係数

逸失利益では、将来月単位や年単位で受け取るはずの収入にあたる金銭を、一括で受け取ることになります。ただ、このようなまとまった額の金銭があれば、資産運用などにより、本来は発生するはずのない利息(利益)を生み出すことができると考えられています。
そのため、この中間利息を控除するために、計算式ではライプニッツ係数を掛け合わせることになっています。ライプニッツ係数は、労働能力喪失期間に対応する係数が一覧になった表があるので、そこから調べることができます。
なお、2020年4月1日より施行された改正民法では、法定利率が年5%から年3%に引き下げられました。また、3年ごとに1%きざみで年利を調整する変動制も導入されています。この影響で、2020年4月1日以降に発生した事故については、利率3%に対応したライプニッツ係数を使用することになっています。

死亡逸失利益の場合は生活費控除率と就労可能年数が必要

死亡逸失利益では、労働能力喪失率を考える必要がありません。死亡していることから労働能力喪失率は100%となり、計算式に組み込んでも数値は変わらないためです。代わりに、生活費控除率について考える必要が出てきます。
また、労働能力喪失期間についても、就労可能年数を代わりに算出することになります。以下でそれぞれ詳しくみてみましょう。

生活費控除率

死亡すると将来の収入が得られなくなる一方で、生きていた場合にかかるはずの生活費がかからなくなります。この不要になる生活費を調整する目的で、生活費控除率が定められています。
生活費控除率は、収入のうち何%を生活費が占めているかという割合を示した数値です。生活費がどの程度かかるかは人によって変わってきますが、将来不要になるはずの生活費の実費を被害者ごとに算出するのは困難です。そのため、実務では、被害者の家庭における属性に応じて設定された生活費控除率を参照します。

被害者の属性 生活費控除率
一家の支柱(被扶養者1人の場合) 40%
一家の支柱(被扶養者2人以上の場合) 30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む) 30%
男性(独身、幼児等を含む) 50%

なお、年金受給者については、収入に占める生活費の割合が高くなるのが一般的だとして、50~70%程度に設定することが多いです。

就労可能年数

就労可能年数とは、被害者が生きていれば働いていたはずの年数のことです。就労可能年数の考え方は労働能力喪失期間とほぼ同様で、「死亡日から67歳まで」の期間の年数を算出します。
被害者が幼児や小中学生の場合は、期間の始期を18歳とするのが一般的です。高校生や大学生等の場合は、卒業予定の年齢が始期となります。
67歳間近やそれ以上の年齢の高齢者については、以下のとおりです。

①給与所得等がある場合は「死亡時の年齢の平均余命の1/2」
②収入が年金のみの場合は「平均余命までの年数」

なお、高齢者が①給与所得等と②年金の両方を受給している場合は、①②を別個で計算します。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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交通事故の逸失利益を請求できるのは誰?

後遺障害逸失利益は、原則として被害者本人が請求します。ただし、意識障害がある等、重度の後遺障害により被害者自ら請求することが叶わない場合は、成年後見人を立てて、その人が代わりに請求の手続きを行います。
死亡逸失利益については、被害者本人が死亡していることから、被害者の遺族が請求することになります。請求した死亡逸失利益は、他の損害賠償金の費目と合算して※、被害者の相続人が、自身の法定相続分に従って相続した分を受け取ることになります。

※遺族固有の死亡慰謝料を除く

減収しなくても逸失利益が認められるケース

逸失利益は、事故の影響による減収に対する補償を目的としています。しかし、公務員や事務職といった職業だと、現実には減収が発生していないというケースもよくあります。このような場合、相手方の保険会社が後遺障害逸失利益の支払いを拒否して争いになりがちです。
実際の裁判においては、減収していなくても次のような「特段の事情」があれば、比較的緩やかに逸失利益の請求は認められる傾向にあります。

  • 後遺障害のため業務や生活に支障が生じている
  • 本人の努力により、事故前の収入を維持している
  • 昇進や昇給、転職、再就職等の際に不利益な扱いを受けるおそれがある
  • 勤務先の配慮によって減収せずに済んでいる
  • 勤務先の規模や存続の可能性

逸失利益が増額するポイント

相手方の保険会社が提示する逸失利益の額が、適正額より低くなっているケースがよく見受けられます。逸失利益を増額させるには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

①適切な後遺障害等級認定を獲得する
後遺障害等級が高いほど、労働能力喪失率も高くなるので、逸失利益の額も上がります。後遺障害等級認定の申請では、医師に作成してもらった診断書をそのまま提出すれば適正な等級がもらえるというわけではないので、自分の等級に納得がいかなければ、弁護士に相談しましょう。

②基礎収入を正しく算出する
計算の基準になるため、事故前年にイレギュラーな事情があって収入が低くなっている場合などは、そのことを立証する資料を用意して、相手方に主張しましょう。

③弁護士基準で算定する
賠償金の算定基準には、「弁護士基準」「任意保険基準」「自賠責基準」の3種類があり、弁護士基準が最も高額になります。
最低限の補償を目的とした自賠責基準で算定した場合、計算式は弁護士基準と同様ですが、基礎収入の算出方法が異なるため、実際の収入より低くなる可能性があります。また、上限が定められているため、後遺障害の程度が重くなるほど、十分な補償が受けられなくなってしまいます。

逸失利益の獲得・増額は、弁護士へご相談ください

逸失利益は、将来発生する損害の補償をまとめて受けるものであり、高額になるケースが多いです。そのため、適正な金額の逸失利益を算出することが、損害賠償金を請求するうえで大変重要になります。
後遺障害逸失利益も死亡逸失利益も決められた計算式はありますが、個別の事情に応じた基礎収入や労働能力喪失率等を算出するのが難しい場合もあります。特に労働能力喪失率は、後遺障害等級も影響してくるため、医学的な問題も絡んできます。
交通事故や医療に詳しい弁護士であれば、依頼者の事情に沿った逸失利益を算出したり、相手方に法的根拠をもって増額を主張したりすることが可能です。被害に見合った損害賠償を受けるためにも、交通事故事案の経験が豊富な弁護士に一度相談してみることをお勧めします。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大木 昌志
監修:弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。