監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
夫婦間でのモラハラとは、一方配偶者が、他方配偶者の道徳的な価値観や行動基準を無視するような言動や行動を繰り返すことにより精神的苦痛を与えることを言います。
妻の身の回りに起きたことなんでも自分のせいにされる、自身の行動を極端に制限されている、そんな行為を妻からされていたとしても、これはモラハラに該当するのだろうかとお悩みの方は少なくないと思います。
この記事では、妻からのモラハラの具体例や、モラハラに耐えかねたときに離婚する方法を解説します。
目次
妻によるモラハラの具体例は?
では具体的にはどのような行動がモラハラに該当するのでしょうか。
モラハラと呼ばれる行動には、様々な態様が考えられますが、今回は典型的な例をいくつかご紹介します。
具体的には以下で述べるように、何でも夫のせいにする、夫の行動を極端に制限して周囲から孤立させる、夫を悪者にする等の行動が挙げられます。
なんでも夫のせいにする
まずは、妻の身の回りで起きたことを全部夫のせいにしようとする行動が挙げられます。
例えば、子供が親の言うことを聞かないといった事態が起きた場合に、「私はきちんと教育しているのに、子供がこうなったのは、あなたが甘やかしてばかりで全然躾をしないせいだ」といったような言動が考えられます。
夫を周囲から孤立させる
モラハラ妻は、夫を自身の思い通りにしようとする傾向があります。
そこで、夫が、友人や会社の人間、さらに夫の家族とも連絡を取ることを禁止または制限し、夫の行動範囲を狭めようとします。
こうして、夫を周囲から孤立させ、自身のコントロール下に置こうとするのです。
自分(妻)が常に正しいと思っている
モラハラ妻の特徴としてよく挙げられるのが、自身が常に正しいと思っているということです。
自身の見解に絶対的な自信を持っているので、自身が正しいと思う行動と違う行動を夫が取った場合に、それは間違っていると夫の行動を頭ごなしに否定し、自身の独自の見解を押し付けてくることがあります。
たとえ、夫の行動が合理的なものだったとしても、妻自身の意思とは異なる行動だった場合には、全て間違いであると断定するような言動が見られます。
夫を悪者にする
また、モラハラ妻は、実際にあることないことを周囲に吹聴し、周囲を自分の味方につけようとすることがあります。
例えば、実際に夫はきちんと家計にお金を入れているのに、夫が給料を渡してくれず、生活が困窮していると周囲に伝える、または自分はこれだけ夫に尽くしているのに、夫が全く家事をしてくれないなどと述べて自身がいかに献身的かを伝えるといった行為により、夫を悪者にして周囲の同情を誘うことがあります。
元々の性格が細かく文句が多い
モラハラ妻は元々の性格が細かく文句が多いことも、その特徴として挙げられます。
元々繊細な部分がありますので、自身が夫にされたこと、特に嫌なことについてはいつまでも記憶しており、全く関係ない話をしている際にも、何かにつけてその話を持ちだして、夫を責め、夫を精神的に追い詰めるということが考えられます。
妻のモラハラが子供に与える影響
妻のモラハラは、子供に対してどのような影響があるのでしょうか。
具体的には以下のような影響があると考えられます。
- 妻のモラハラ行為を普通の行為と認識することで、子供自身もモラハラ行為を行うようになる。
- 妻と夫の明らかな上下関係を間近で見ているので、子供自身も人間関係の構築において異常に上下関係を作り出すようになる。
- 妻のモラハラによって生じている家庭内の不安定を、子供が自身のせいだと誤認し、精神的に追い詰められることがある。
モラハラ妻と親権の関係
では、このようなモラハラ妻と離婚する際、夫は子供の親権を必ず取ることができるのでしょうか。
この点について、親権は子の意思や監護の実態、面会交流の実施に協力的か等、様々な側面から決定されるものですので、モラハラがあるからと言って、必ずしも自動的に夫が親権を取れるというわけではありません。
ただし、モラハラを行うような妻に子供を監護させることは、子供の福祉の観点から適当ではないと考えられるという点は、親権決定における一つの考慮要素になり得ます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
モラハラを理由に妻と離婚できる?
では、妻のモラハラを理由として離婚することはできるのでしょうか。
まず、妻と夫が離婚に合意した場合には離婚することができます。
もし、妻が離婚に応じず、合意できない場合には、離婚調停を裁判所に申立てることになります。
ただし、調停成立のためには最終的に両者の合意が必要になりますので、調停を経ても妻がどうしても離婚に応じない場合には離婚裁判の訴えを起こすことになります。
離婚裁判になった場合には、両者の意思に拘わらず、裁判官が離婚すべきかを判断することになりますので、離婚が認められるためには、民法770条で定められた法定離婚事由が必要になります。
モラハラ妻と離婚する方法と手順
証拠集め
モラハラ妻と離婚するためには、まず、合意できず離婚裁判になる可能性も見据えて、証拠を集める必要があります。
モラハラの証拠には、妻がモラハラ行為をしている様子を収めた録音や録画、妻から送られてきたモラハラ行為に該当するようなメッセージ、妻からモラハラを受けたことを書き記した日記等が挙げられます。
どの程度集めれば確実に離婚できるかについて、断言することは難しいですが、収集された証拠から「婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があると認められる場合には離婚が認められます。
離婚について話し合い(協議離婚)
モラハラ妻と離婚したい場合、まずは、離婚について、当事者同士で話し合いをすることになります。
しかし、モラハラ妻だと「家のこと何もできないのに、離婚してやっていけると思っているの?」等の発言をし、離婚についての話し合いにならないことがあります。
そのような場合には、弁護士に仲介に入ってもらうことが最適です。
両家の両親や共通の友人等に仲介に入ってもらうことが頭をよぎるかと思いますが、完全な第三者ではなく、双方又は片方に対して様々な感情を抱いている者を第三者として介入させても、より関係性がこじれてしまう可能性が高く、その方針はお勧めできません。
夫婦での話し合いが成立しなければ離婚調停へ
離婚調停とは、離婚の当事者双方からの話を第三者である調停委員が聞き取り、調停官と呼ばれる裁判官と相談しながら、双方の意向を整理した上で、双方に様々な方針を示して離婚条件の合意へと導く手続きになります。
最終的には双方が離婚条件に合意する必要があるので、合意できない場合には、調停は不成立となります。
調停が成立しなければ離婚裁判を申し立てる
上述のように、調停の中でも当事者の間で離婚条件に折り合いがつかず、合意できない場合には、離婚裁判を提起することになります。
離婚裁判を起こすには、離婚調停が不成立になっていることが前提となりますので、まずは離婚調停を申し立て、離婚調停が不成立になったことを示して離婚裁判を提起します。
離婚裁判の提起は、妻もしくは夫の居住地を管轄する裁判所(人事訴訟法4条1項)、又は離婚調停が係属していた裁判所(人事訴訟法6条)に対して行うことになります。
離婚成立まで時間がかかる場合は別居を検討する
離婚成立まで時間がかかる場合には、離婚裁判にまで進んだ場合を見据えて、別居を検討することが必要になります。
離婚裁判まで進んだ場合に離婚するときは、法定離婚事由が必要となることは先に述べた通りですが、通常3年ないし5年ほどの別居期間があれば、夫婦関係が破綻したとされ、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があると認められる場合が多いのです。
ただし、上述した別居は、離婚を前提とした別居である必要があるので、別居の際は離婚意思に基づいて別居することを伝え、何も言わずに別居することがないようにするべきです。
妻のモラハラで慰謝料はいくらもらえる?
上述のように、モラハラは相手方に精神的苦痛を与える不法行為ですから、妻のモラハラが証明できれば、不法行為に基づく損害賠償請求権により、妻に対し慰謝料を請求することが可能です(民法709条)。
慰謝料の相場と言ってもかなりばらつきがありますが、モラハラの慰謝料額の相場は50万円~300万円と言われています。
悪質性やその期間の長短等により金額が変わってきますので、自身の受けたモラハラでどの程度の慰謝料を請求できるかについて、一度弁護士に相談することをお勧めします。
モラハラ妻との離婚を検討している方は弁護士にご相談ください
上述のようにモラハラ妻との離婚においては、モラハラ妻に自分が悪いという意識が全くないため、そもそも離婚に応じてくれないという以前に、話し合いができない場合が多く見受けられます。
そのような場合に安易に両親や友人等の第三者を呼んで話し合いを継続してしまうのは、その第三者をも巻き込んだ紛争に発展しかねないため、お勧めできません。
そのような場合にこそ、弁護士を立てることで、自身の意見を法的に整理した上で相手方に伝えやすくなり、弁護士が入ることで相手方の主張が和らぐこともあります。
上記の点に加え、モラハラ妻に対する慰謝料請求の観点からしても、モラハラ妻との離婚においては、通常の離婚の場合に比して、弁護士を立てるメリットが大きいと言えますので、モラハラ妻との離婚を検討されている方は是非一度、弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
