
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
婚姻関係にない男女の間で生まれた子供は、“認知”によってはじめて親子関係が成立します。
父親が子を認知すると、法律上は父子関係が成立するため、「養育費を請求できる」「父親が死亡した場合は子供に相続できる」などのメリットを得られます。
しかし、認知されなければ、これらのメリットは得られません。生まれてきた子のためにも、認知の必要性を理解する必要があります。
そこで本記事では、「子供の認知」に着目し、認知が必要なケースや養育費・戸籍との関係などについて、詳しく解説していきます。
目次
子供の認知とは
子供の認知とは、「婚姻関係にない男女の間で生まれた子と父の間に法律上の親子関係があると認める手続き」で、子供は嫡出子と非嫡出子に分けられています。
嫡出子 | 婚姻関係にある男女の間で生まれた子供 |
---|---|
非嫡出子 | 婚姻関係にない男女の間で生まれた子供 |
非嫡出子の場合は、「子供を出産した事実」により母親が誰なのかは明確ですが、父親は不明確であるため、認知によってはじめて法律上の父親であると認められます。
婚姻していなければ、父と子の親子関係は自動的に成立しないため、認知が必要です。
認知が必要になるケース
特に子供の認知が必要になるのは、次のようなケースです。
- 子供の父親に対して養育費を請求したいケース
- 子供の父親が死亡した際に、子供に相続権を発生させたいケース
- 子供の父親を親権者と定めたいケース
上記のケースは、認知によって認められます。
子供を認知しないとどうなる?
婚姻関係にない男女の間で生まれた子供を認知しないと、次のような不利益を受けることがあります。
<認知しない場合の支障>
- 戸籍に父親の氏名が記載されない
- 父親から養育費用を受け取れない
- 父親を親権者に定められない
- 父親が死亡しても子供に遺産相続できない など
これらは子供にとって大きな支障となり得ます。手続きができないだけでなく、子供の精神面においてもショックをうけるなどの悪影響を与えるおそれがあります。
嫡出推定制度について
民法には、子供の身分関係を早めに安定させるために、「嫡出推定制度」が定められており、妻が婚姻中に懐胎した子供は夫の子供と推定されます。
この制度は、生まれてきた子供の父親が誰なのかを早く確定させ、認知しない場合に生じる支障をなくし、子供の利益を図るために定められています。
しかし、嫡出推定制度は、DVなどを理由に離婚し再婚していない女性にとっては問題となりやすい実情があります。たとえば、子供の戸籍上の父親が元夫となるのを避けるために出生届を提出しない「無戸籍児」の問題などがあります。
子供が認知されたときの効果
子供が認知されると、子供と父親の間に親子関係が生じ法律上のさまざまな効果が得られます。
戸籍に記載される
まず、子供が認知されると、父親の戸籍に入るわけではなく、父親の戸籍に「子を認知した事実」が記載されます。
具体的には、以下の事項が記載されます。
【父親の戸籍】
- 認知日
- 認知した子供の氏名
- 認知した子供の戸籍
【母親と子供の戸籍】
- 父親の氏名
- 身分事項に認知日、認知した父親の氏名、父親の戸籍
あくまでも、戸籍に認知した事実が記載されるのみで「父親の戸籍に子供の戸籍を移す」ことはできません。
養育費を請求できる/支払い義務が生じる
子供が認知された時点で、法律上の父子関係が成立するため、父親は扶養義務を負います。
扶養義務とは?
未成熟の子や高齢など、自分自身の資産や収入では生活できない親族を経済的に援助する義務をいいます。
扶養義務を負うと、父親には養育費の支払い義務が生じるため、母親は父親に対して養育費を請求できるようになります。養育費の請求は、まず話し合いからはじめます。
認知後の養育費はいつから請求できる?過去の分は請求可能?
父親の扶養義務は認知した時点で発生するため、養育費は認知後から請求できます。
ただし、養育費の支払義務は「認知した時点」から発生するため、認知していない過去の分の養育費は原則請求できません。正確にいうと、請求できるものの、認められていない実情があります。
しかし、民法上「認知の効力は出生時に遡って生じるもの」とされているため、それを前提として過去分の養育費請求を認めた裁判例もあります。この裁判では、母親が早期段階から認知を求め、養育費を請求していたなどの事情が考慮されたと考えられています。
子供に相続権が発生する
子供を認知すると、父親と子供の間に親子関係が成立し、子供に相続権が発生します。
相続権の発生により、子供は父親が死亡した際に法定相続人として父親の遺産を相続できます。なお、このときの相続分は、婚姻関係にある男女の間で生まれた子供=嫡出子と同じ割合です。
また、子供が死亡した際に、死亡した子供に子がいない場合は、父親が法定相続人となります。もっとも、相続はプラスとなる財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続するため、注意が必要です。
父親を親権者に定めることができる
母親との協議や調停・裁判の手続きによって、父親を子供の親権者に変更できます。
非嫡出子の親権は母親が単独で持つため、父親が子供を認知したからといって父親が親権を持てるわけではありません。
あくまで、認知により親権を持つ資格を有するまでであり、その後実際に親権を持つには、母親との話し合いや調停・裁判にて「子供の親権者は父親が相応」と認められる必要があります。
ただし、調停や裁判で、子供の親権を母親から認知後の父親に変更するのを認めてもらうのはかなり難しいでしょう。
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子供の認知の種類
子供を認知するには、以下3種類の方法があります。
- ①任意認知(話し合い)
- ②強制認知
- ③遺言による認知
では次項にて、それぞれの認知方法を詳しく解説していきます。
任意認知(話し合い)
任意認知とは、父親が任意に子供との父子関係を認め、自ら進んで話し合って認知する方法で、父親が認知届を提出すると手続きが完了します。
なお、認知届の提出は基本的に父親で行えますが、子供が成人している場合は子供の承諾が必要となります。また、子供が胎児である場合は、母親から承諾を得る必要があるため、注意しなければなりません。
【認知届の提出先】
父の本籍地または住所地、または認知される子供の本籍地の市区町村役場
強制認知(話し合いで拒否された場合)
強制認知は、話し合いで父親が任意認知を拒否した場合に、調停や裁判で認知を求めて強制的に認知させる方法です。
裁判を起こすには、まず調停を申し立てる必要があります(これを「調停前置主義」といいます)。そのため、まずは家庭裁判所に対して認知調停を申し立て、調停で話し合い、認知の合意を目指さなければなりません。
認知調停と裁判について、次項でもう少し深く掘り下げてみていきましょう。
①家庭裁判所に認知調停を申し立てる
家庭裁判所に認知調停を申し立てると、調停委員が話し合いの間に入り、母親と父親の双方から認知についての意見などを聴き取ります。
裁判所や調停委員が仲介役となってくれるため、当事者同士の話し合いよりも円滑に解決できる傾向にあります。
認知調停が合意に至ると、合意に相当する審判がなされ、父親の認知が認められます。認知調停をしても合意に至れない場合は、次の手段として家庭裁判所に対し「認知の訴え=裁判」を提起する流れとなります。
【認知調停の申立て先】
父親の住居地を管轄する家庭裁判所または当事者同士で合意した家庭裁判所
②家庭裁判所に認知の訴え(裁判)を提起する
家庭裁判所に対して認知の訴えを提起すると、裁判が開かれ、判決によって強制的に認知が決められます。裁判では、当事者の主張や反論が繰り返し行われ、それに応じて証拠の提出や必要であれば証人尋問なども並行して行われます。
父親の認知を求める裁判では、「DNA鑑定」が決定的な証拠として取り扱われます。
DNA鑑定検査を行い、父親と子供が生殖上の父子関係にあると認められると、父親の認知は強制的に認められるでしょう。
【裁判の提起先】
原告または被告の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者同士で合意した家庭裁判所
遺言による認知
遺言による認知は「遺言認知」といい、文字通り、遺言によって父親が子供を認知する方法です。
父親が何らかの事情で死亡するまで子供を認知できなかった場合に、遺言認知が行われます。遺言認知は、遺言に自分の子供として認知する旨を記載し、遺言執行者が認知届を役所に提出すると手続きが完了します。
ただし、遺言認知の際には、以下の点に気を付けなければなりません。
- 母親の氏名、生年月日を記載する
- 子供の氏名、生年月日、住所、本籍、戸籍筆頭者を記載する
- 遺言執行者を定めておく
- 認知される子供が成人の場合は、子供の承諾が必要となる
- 認知される子供が胎児の場合は、母親の承諾が必要となる
子供の認知はいつまでできるのか?
子供の認知に必要な請求には、期限が設けられていないため、いつでも行えます。
しかし、子供の父親が死亡した場合には、死亡した日から3年以内に認知の訴えを提起しなければなりません(これを「死後認知」といいます)。
死後認知を提起し、認知が認められると、子供は父親の遺産を相続できます。
子供の認知を取り消すことは可能か?
民法では、「子供の父母は認知を取り消すことができない」と定められているため、原則認知は取り消せません。これは、認知を取り消すと、子供と親の親子関係や法律関係が不安定になってしまうからです。
しかし、認知した子供が自分の子供でなかった場合には、認知は無効であると主張できます。また、子供の承諾を得ずに親が勝手に認知届を提出した場合も、認知を取り消すことができます。
血縁関係のない子を認知してしまった場合は?
血縁関係のない子供を誤って認知してしまった場合は、親子関係がない事実を主張し、認知の取り消しを求めます。
実の子供ではないことを知りながら認知した場合も、認知の無効を主張できます。この場合、家庭裁判所に対して調停を申し立てる必要があります。
【認知の取り消し調停の申立て先】
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者同士で合意した家庭裁判所
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子供の認知に関するQ&A
不倫相手との子供を認知したら妻にバレますか?
不倫相手との子供を認知すると、父親の戸籍にも子供を認知した事実が記載されるため、バレやすいです。
配偶者である妻があなたの戸籍を見た場合、あなたの妻はあなたが不倫して子供まで作った事実を知るでしょう。また、戸籍には子供の認知事項が記載されますので、不倫相手の氏名や本籍地も分かります。
そのため、あなたの妻が不倫相手に対して不貞慰謝料を請求する可能性があります。
認知された子供はどこで確認ができますか?
認知された子供は、その子供や父親または母親の戸籍で認知した事実を確認できます。
戸籍には、父親や母親の氏名に加え、「認知事項」として以下の内容が記載されています。
【戸籍に記載される認知事項】
・認知日
・認知者氏名
・認知者の戸籍
・認知した子供の氏名
・認知した子供の戸籍 など
そのため、認知事項を確認したい場合には、自分や父親または母親の戸籍を役所にて取得すると確認できます。交付してもらう際は、身分証明書が必要になるため注意しましょう。
認知された子供は父親の姓を名乗れますか?
父親から認知されても、非嫡出子のままですので父親の姓は名乗れません。
認知した父親の姓を名乗るには、認知した父親と養子縁組する、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可の申立て」を行うなどの手続が必要となります。
認知した子供のDNA鑑定を行った結果、親子の可能性0%でした。支払った養育費を取り返すことは可能でしょうか?
認知した子供のDNA鑑定を行い、血縁関係がなかった場合は、認知の取り消し・無効を主張できるため、支払った養育費の返還を求められる可能性があります。
通常、養育費を支払う義務である「扶養義務」は、認知した時点で発生します。認知が取り消された場合は、当然扶養義務もなくなりますので、養育費を支払う必要はありません。
養育費を受け取った側は、法的に正当な理由なく利益を得たことになるため、養育費を支払った側は不当利得返還請求を行い、支払った養育費の返還を求められます。
子供の認知で不安なことがあれば、お気軽に弁護士にご相談下さい。
子供にとって認知は、さまざまな権利を法的に認めてもらえる身分行為です。
親が子供を認知すると、戸籍に記載され、養育費を請求でき、子供に相続権が発生するなどの効果があります。しかし、「本当に子供を認知してよいのか」「どのように認知すればよいのか」など、認知を決断するにあたり不安を抱かれる方は、少なくありません。
そのような場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、認知に対する不安や悩みをお伺いし、解決に向けて充実したサポートを提供できます。
子供の認知でご不安を抱かれている方は、お一人で悩まずにお気軽に弁護士へご相談ください。
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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)