監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
離婚についての話し合いが当事者同士でまとまり、養育費について合意できた場合、直ぐに離婚届を出しても良いでしょうか。
相手の気が変わらないうちに、離婚届を出したいという事情もあるかもしれませんが、養育費について相手の気が変わる可能性を見越して、確実に養育費を回収できるようにしておくのがおすすめです。
本ページでは、養育費についての合意を公正証書に残すことについて解説していきます。
目次
養育費を公正証書に残すべき理由とは?
公正証書とは、公証人法に定める手続きに則って、公証人が作成する文書です。手続きが厳格に定められており、作成にも費用がかかる反面、強い法的効力を有します。
養育費に関する合意も、両者の合意により作成されていれば、公正証書で作らずとも、有力な証拠とはなりますが、公正証書には劣ります。
そのため、養育費の確実な回収を図るのであれば、公正証書で合意することを強くお勧めします。
養育費に関することを公正証書に残すことのメリット
ここまでの解説で、公正証書が強い法的効力を持つことは、ご理解頂けたかと思います。
それでは具体的に、養育費に関する合意を公正証書に残しておくことのメリットを3つ紹介します。
合意した条件について争いにくくなる
公正証書はその作成を公証人の前で行います。公証人の多くは元裁判官・元検察官で、法律の専門的知識を有していることが多いです。公証人が合意の内容を当事者と確認しながら、公正証書の作成を進めます。そのため、後で「勘違いしていた。」、「無理やり作らされた。」等と公正証書の内容について争われにくくなります。
養育費の支払いが滞ったときに強制執行ができる
合意にも関わらず、養育費の支払いが滞った場合に泣き寝入りしないためには、強制執行を行い義務者の財産を差し押さえることが必要です。通常強制執行には勝訴判決等が必要になりますが、公正証書の中に強制執行をしても良いという合意を残していれば、滞りがあれば直ちに強制執行の手続きを行うことができます。
財産開示手続きが利用できる
強制執行をしようとしても、義務者の財産が分からなければ、差し押さえることができません。そこで公正証書があれば、財産開示手続きを利用することができます。
財産開示手続きでは義務者を裁判所に呼び出して、財産について質問をします。裁判所の呼び出しに応じなかったり、噓の答えをしたりすると、刑事罰に処される可能性があります。
養育費に関することを公正証書に残すことのデメリット
ここまでは養育費に関する合意を公正証書に残すメリットについて紹介しました。法的効力が強い公正証書ですが、その反面、作成には労力を要します。ここからは公正証書に残すデメリットについて3つ紹介します。
作成費用がかかる
公正証書を作成するためには手数料がかかります。手数料は目的の金額によって変わります。詳細は下記一覧表をご覧ください。目的の金額は養育費の合計金額になります。養育費の支払いが10年を超える場合は、10年分の金額が目的の金額になります。
なお、弁護士に依頼して公正証書を作成する場合、より誤りが生じにくくなりますが、その場合は公正証書作成の手数料に加えて、別途弁護士費用がかかります。
また、公正証書の中で養育費以外の事項についても定める場合、その内容によって手数料も加算されます。
目的の金額(養育費の合計金額) | 公正証書作成の手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超、200万円以下 | 7,000円 |
200万円超、500万円以下 | 11,000円 |
500万円超、1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超、3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超、5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超、1億円以下 | 43,000円 |
作成するのに時間がかかる
公正証書の作成には、約2週間程度の時間を要するのが一般的です。公証人が公正証書の内容や提出された資料を確認しながら作成するためです。
早期の合意を急ぐ当事者にとっては、時間がかかる印象を受けると思いますが、即日受け取りは困難で、合意の内容に問題があったり、必要資料が揃っていなければさらに時間がかかってしまいます。
なお、公正証書の作成ではなく、調停において合意書面を作成しようとする場合は、調停申立てから初回期日までに概ね2か月程度の時間がかかるのが通常です。そのため、一般的に、調停での合意よりは公正証書の作成の方が短時間で終えられます。
作成するためには夫婦で協力しなくてはいけない
公正証書は公証役場で当事者双方が出頭して作成する必要があります。
公証役場は役所の一種ですから、営業時間は平日9時から17時であることが一般的です。そのため、当事者双方が時間を調整して、出頭する必要があります。
したがって、離婚をする予定の夫婦が互いの時間を調整して、公証役場という同じ場所に出頭する必要があるため、夫婦の協力が不可欠です。
養育費と公正証書の書き方
公正証書は作成に公証人が関わり、当事者の合意を文書化します。
公正証書の作成に必要な合意すべきポイントと、養育費の金額の定め方について解説していきます。
毎月の支払額
養育費の合意において、一番のポイントは月々の支払額だと思います。
あくまでも、合意であるため、双方が納得していれば幾らであっても問題ありませんが、およそ不可能な条件で合意された場合は無効となります。
養育費の相場を知りたい方は、裁判所が公表している算定表が参考になります。
算定表は夫婦お互いの年収、子供の数、年齢によって定まります。双方の年収の交点が養育費の金額になります。
以下、具体例を2つ記載しますのでご覧ください。
例: 年収500万、専業主婦、子供1人
例: 夫の年収300万円、妻の年収200万円、子供2人
養育費の支払日
養育費は月々支払うのが原則ですから、毎月の支払日を確定させておく必要があります。家賃や公共料金等と同様毎月○日等と定めます。義務者に配慮して、義務者の給料日よりも後に設定されることが多いです。
支払開始日
支払開始日は、当事者同士で合意すればいつでもよいものではありますが、実務上は「請求時」とすることが多いです。たとえば、離婚してから3か月がたった時点で初めて養育費の請求があった場合には、その時点から支払開始とすることが多いです。
もっとも、養育費は離婚後に発生するものなので、離婚する前の段階で養育費の取決めを行う場合には「離婚が成立した月(又はその翌月)から」と定めることが多いです。
支払終了日
いつまで養育費を支払うのか、支払終了日について合意しておく必要があります。子の年齢に着目して定めることが多いです。年齢も18歳、20歳、22歳と様々な考え方があり、双方納得の年齢で合意する必要があります。
また、単に「大学卒業まで」というように定めると、浪人、留年、6年制の大学、大学院に進学等、終了日が明確にならず、争いの原因となります。
支払方法
養育費の支払いには現金手渡しの方法もあり得ますが、確実性の観点から口座振込とする場合が多いです。子の年齢にもよりますが、親名義の口座を指定することが一般的ですが、合意さえできれば名義は誰のものであっても問題ありません。
振込手数料は義務者の負担とするのが一般的です。義務者側としては、手数料のかからないような銀行口座を指定することにより、手数料負担を軽減することができます。
養育費の変更について
お互いの年収に大きな変化があった、子供が病気をするなどして生活費が必要になった等、事情変更が生じる場合があります。この際、養育費の変更をしなければ、片方の負担が大きくなってしまいます。そのため、事情変更があった場合には再度話し合いをする旨を記載しておくことで、再度協議することがしやすくなります。なお、このような記載が無かったからといって変更ができないわけではありません。
強制執行について
先ほど、公正証書のメリットでも書きましたが、迅速な対応のために、強制執行をしても良いという内容の合意をしておく必要があります。法的には「強制執行認諾文言」といいます。本文言がないと、裁判を起こして勝訴判決を勝ち取ってから、強制執行の手続きを行わなければならなくなるため、是非とも合意しておきたいポイントです。
一度公正証書に養育費のことを残したら、金額は変更できない?
養育費に関する合意が公正証書に残すと確実であり、強い法的効力を持つことを解説してきました。それでは、一度公正証書に残してしまうと、金額の変更はできないのでしょうか。
結論からいうと答えはノーです。
改めて養育費に関する合意ができれば、公正証書に関わらず、合意の内容を変更することができます。
また当事者だけで金額変更の合意が困難であっても、年収の変化や予想外の子に係る費用の増大など「事情の変更」が認められれば、調停や審判で、養育費の変更をすることが可能です。
6よくある質問
養育費について公正証書を作成したいのですが、相手に拒否された場合はどうしたらいいですか?
公正証書の作成には相手の協力が不可欠です。そのため相手が拒否する限り、公正証書を作成することはできません。相手に拒否された場合は、家庭裁判所に対して、養育費に関する調停・審判を申し立てるべきです。調停・審判の結果、調停調書・審判書が作成され、これらの書類は公正証書と同様、強制執行が可能な強い法的効力を持ちます。
ただし、調停や審判には相当の期間を要するため、負担が大きいです。相手が拒否している理由を聞き、養育費に関する合意の内容については争いがないが公証役場に行く手間を惜しんでいるような場合には、調停・審判の方が時間がかかる旨説明し、公正証書の作成に協力するよう求めてみるのも良いでしょう。
養育費の公正証書はどこで作成することができますか?
公正証書は、日本全国どこの公証役場あっても作成することができます。
ただし、先ほど解説したように、公正証書を作成するためには、当事者が公証役場に行く必要があるため、お互いの住所から離れた場所で作成するのは双方の負担になってしまいます。
また、公正証書に基づいて強制執行を行うときも、同じ公証役場で手続きを行う必要があるため、権利者の住所から近い公証役場で作成することをお勧めします。
離婚の際に公正証書を作成したいのですが、養育費に関して書けないことなどありますか?
公正証書には、養育費の合意内容を書きますが、合意にも限界があります。合意の内容が、違法・公序良俗に反するものであったり、およそ実現不可能な条件が含まれている場合は、無効であり、公正証書に書くことができません。
犯罪行為を含んでいる合意など明らかに違法・公序良俗に反する合意は分かりやすいですが、当事者で条件を協議している最中は案外気づかなかったが、後から考えると無効な合意をしているケースもあります。
法的に無効な合意が含まれていないか、事前に弁護士に公正証書案をチェックしてもらうことがベターです。
公正証書がないと養育費がもらえませんか?
公正証書がなくても、養育費の請求はできます。
相手に対して、何月分の養育費として、何円支払えと請求を明確にすると、後で争いが生じにくいです。請求は、電話や口頭よりも、メールや手紙の方が、形に残るため確実です。
相手が連絡に応じなかったり、支払いを拒んできた場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。裁判所を介して、養育費の支払いを求めていきます。調停でも話がまとまらない場合は、審判という手続きに移行します。審判では算定表を参考に裁判官が養育費の金額を定めます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費の公正証書を作成する際は弁護士にご相談ください
養育費の合意を公正証書に残すことについて解説してきました。当事者同士で合意さえできれば、公正証書に残すと、調停や審判などの裁判手続きと比べ時間もかかりませんし、強い法的効力もあります。
反面、合意の内容によっては、強制執行ができなかったり、最悪の場合無効になってしまう可能性もあります。
公正証書を作成する際は、事前に弁護士に相談の上、当事者の合意内容が正確に書面に残せるように、文言を調整する必要があります。
公正証書の作成についてお困りの方は、養育費の問題に詳しい弁護士法人ALGの弁護士に一度ご相談下さい。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)