
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
近年、長年連れ添った夫婦が、子育てが落ち着いたことや定年退職を迎えたことを区切りに、いわゆる「第二の人生」をより充実したものとするため、離婚を選択するということも珍しくなくなりました。このような離婚は、熟年離婚と呼ばれ、既に定着した言葉となっています。
今回は、熟年離婚の場合の財産分与に着目し、一般の離婚と異なる点、分与の割合、分与の対象となる財産、財産分与の請求方法について解説していきます。
目次
熟年離婚するときの財産分与
熟年離婚の場合、婚姻期間が長くなる分、財産分与の対象となる夫婦で協力して築いた財産が増えるため、財産分与額も高額になる傾向があります。また、財産の種類も増えるため、財産分与の対象となる財産に該当するかの判断が難しくなることも多いです。
こうしたことから、熟年離婚の場合の財産分与では、お互いの意見が対立してしまい、紛争の長期化につながることも少なくありません。早期に、法律の専門知識を有する弁護士に相談すると安心です。
婚姻期間と財産分与の相場
財産分与には、夫婦が婚姻期間中に共同して築いた財産を清算するという意味合いがあります。婚姻期間が長いと、その分共同して築いた財産が増えるので、財産分与の額も増えるといえるでしょう。
裁判所が公開する統計データを見ると、婚姻期間5年未満の夫婦の財産分与額は、約5割が100万円以下にとどまっていますが、婚姻期間が長くなるにつれ分与額が高額となるケースが増えていき、熟年離婚と呼ばれる婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、分与額が1000万円を超えるケースも少なくないことがわかります。
熟年離婚時の財産分与は拒否できる?
財産分与は、婚姻期間中に夫婦で形成した財産を清算するものですから、基本的に財産分与を拒否することはできません。これは熟年離婚であっても変わりません。
もっとも、相手方の請求が過大又は不当である場合には、その請求の一部を拒否したり減額したりするという意味で、交渉することができる場合があります。
また、例外的に、一度夫婦間で財産分与の請求をしないという合意をした場合や、離婚して2年以上経過している場合には、財産分与自体を拒否できる場合があります。
熟年離婚の財産分与の割合
裁判所は、財産の形成に寄与・貢献した程度は平等であるとの考えのもと、特段の事情がない限り、財産分与の割合は2分の1とします。これを2分の1ルールと呼ぶことがあります。熟年離婚であってもこの2分の1ルールが適用されるので、熟年離婚の財産分与の割合は基本的に2分の1になります。
もっとも、夫又は妻が芸術家、スポーツ選手、発明家など特別な才能や能力を有していることで多額の収入を得ている場合は、特段の事情があるとされ、2分の1ルールが適用されない場合があります。
専業主婦の財産分与の割合は?
夫婦が婚姻生活中に取得した財産は、原則として夫婦が協力して形成した財産であると考えられています。そして、財産の形成に寄与・貢献した程度は平等であるとの考えのもと、特段の事情がない限り、財産分与の割合は2分の1とされます。
専業主婦(夫)は確かに収入はないですが、家庭内での家事労働や育児を負担することで、配偶者が仕事に集中できる環境を作り、収入を得ることに寄与・貢献したといえます。
したがって、収入がない専業主婦(夫)であっても、財産分与の割合は2分の1と考えられることが多いです。
共働き夫婦だと割合は変わる?
2分の1ルールは共働きの夫婦にも適用されるので、特段の事情がない限り、夫婦間の収入差や家事の負担程度の差にかかわらず、財産分与の割合は2分の1となります。
例外的に、夫婦の一方が、特別な才能や能力により高額な収入を得ている場合や、夫婦の一方が家事のほとんどを行っていた場合などには、2分の1の割合が修正されることがあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
財産分与の対象になる財産
財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻生活中に取得した財産になります。これを共有財産といいます。
婚姻中に得た収入で購入した物のほとんどが共有財産になるといえます。代表的なものとしては、婚姻中に購入した不動産(土地や持ち家)、株などの有価証券、車、年金、保険、家財道具が挙げられます。
物を購入せずに残しておいた現金や預貯金、退職金も共有財産です。借金やローンも共有財産に含まれる場合があります。
持ち家や土地
持ち家や土地などの不動産については、物理的に分割してそれぞれが持ち出すことができないため、基本的には、①売却して売却代金を分け合う、②どちらか一方が取得する代わりに、他方に代償金を支払う(又はこれに代わる財産を渡す)という方法により財産分与を行うことが多いです。
もっとも、①の方法を取りたいとしても、その不動産に住宅ローンが残っている場合は注意が必要です。たとえば、不動産の現在価値よりも住宅ローンの残高が低い場合(アンダーローン)は、不動産を売却することで住宅ローンを完済することができ、さらに売却益が残るため、これを分け合うことができます。
他方で、不動産の現在価値よりも住宅ローンの残高が高い場合(オーバーローン)は、不動産を売却してもなお住宅ローンが残存します。基本的に債務を分割して負担することはできないとされているため、財産分与をどのようにまとめるか難航することがあります。
退職金
退職金は給料の後払い的性質を有すると考えられていることから、基本的には財産分与の対象になります。分与の割合は基本的に2分の1になります。
もっとも、財産分与の対象となるのは夫婦が協力して形成したと考えられる部分に限られるため、必ずしも退職金の全てが対象となるとは限らず、そのうち婚姻期間中のものに限定されます。
また、退職金を既に受領している場合には、それを(実際には退職金が入金されている預金残高を)分け合うことになりますが、他方で、まだ退職金を受領していない場合であっても、その支払がほぼ確実といえるような状況であれば、現に受領していなくても財産分与の対象となることが多いです。
年金
我が国の年金制度には、報酬比例部分(賃金に応じて年金保険料を支払い、支払保険料に応じた額の年金を受給できる仕組み)があるため、夫婦間で収入の格差がある場合、将来もらえる年金額についても差が生じてしまいます。
このため、専業主婦(夫)のように収入がない(少ない)方が、老後の生活の困窮を恐れ、離婚に踏み出せないという現象が生じていました。これを解決する制度として、離婚時年金分割制度が用意されています。年金分割には、合意分割と3号分割の2種類の制度が用意されています。いずれも、分割の割合は原則として2分の1とされます。
財産分与の対象にならない財産
夫婦が協力して形成し、取得したものではない財産は、特有財産といい、財産分与の対象になりません。具体的には、婚姻前に蓄えた預貯金、夫婦の一方が相続や贈与により得た財産、別居してから夫婦それぞれが得た財産、婚姻前に購入して持参した嫁入り道具などは特有財産となり、財産分与の対象になりません。
熟年離婚時の財産分与の請求方法
財産分与の請求方法は、熟年離婚であってもそうでなくても変わりません。
まずは、当事者同士で離婚の協議をする際に、相手方に財産分与を請求することになります。そうすることで、離婚の話合いと併せて、財産分与についても話合いが行われることになります。
しかし、当事者間では協議することができなかったり、協議してもまとまらない場合も少なくありません。そのような場合は、裁判所に対し離婚調停(既に離婚済みの場合は財産分与調停)を申し立てます。
調停でもまとまらない場合には、離婚訴訟を起こし、そこで決着をつけることになります。
離婚時に行う財産分与とは財産分与は2年で時効になるため注意
財産分与の請求は離婚後でもすることができます。もっとも、裁判所に対して財産分与の処分の請求をする場合には、離婚後2年以内にしなければなりません(民法768条2項但書)。既に離婚された方で、財産分与に関する問題が解決していない方はご注意ください。
熟年離婚の財産分与についてわからないことは弁護士に相談しましょう
熟年離婚の場合、婚姻期間が長くなる分、財産分与の対象となる夫婦で協力して築いた財産が増えるため、財産分与額も高額になる傾向があります。その分、財産分与について、お互いの意見が対立してしまい、紛争の長期化につながることも少なくありません。さらに、どのような財産が財産分与の対象となるのかの判断は法的知識が必要になる場合があります。
弁護士が間に入ることで、法的な視点からご依頼者様に有利な財産分与の案をお示しできますし、相手方と直接交渉することもできます。さらに、裁判所に対する手続も代わりに行うことができます。早期に弁護士にご相談いただくことで、様々な解決策をご提示できます。
熟年離婚を考えている方、相手方が示してきた財産分与の案が妥当なのかわからない方など、少しでも財産分与につき不安がある方はお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)