がんの見落とし

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

がんの見落としにおける問題

がんの見落としについての相談は、当事務所にも多くあり、肺がん、胃がん、乳がん、膵臓がん、舌がん等、診療科も多岐にわたります。大部分は、より早期にがんを発見できたのに、それを医師が指摘しておらず、がんが進行してから発見・治療開始されたために、回復することなく患者が死亡に至った、または余命がわずかとなってしまったというものです。

このような事件を扱う上で、よく問題となりうるのは、癌を発見すべきであったか否かにつき問題となっている時点で、本当にがんの疑いを指摘できたのか、また、癌の疑いを指摘できたとして、その時期のがんの進行度はどの程度であったといえるかというものです。実際には、見落とされているがために、より詳細な検査をしておらず、どの程度の進行度だったのかは、その案件における診療録、検査結果、裁判における鑑定(鑑定を実施した事件の場合)の結果や私的鑑定書などから最も可能性の高いものを探っていくことになります。

仮に、見落とされていたといえる時期に、すでにがんが進行していて、実際の発見時とがんの進行度が変わるとはいえないという場合には、癌を発見すべきであるのに見落としたという「過失」はあるとしても、損害との因果関係がないということになりかねないのです。この、因果関係の問題は、がんの見落としの事件においてよく問題になることであり、工夫して立証していく必要があります。

また、画像の読影について過失を問う場合には、問題となる画像を撮影した時点に立った場合に、癌の疑いを指摘できるかということが問題となります。つまり、すでにがんに罹患していることが判明してから遡って画像をみた場合には、先入観が介在してしまう可能性があるため、問題となる画像が撮影された時点に立った場合に、癌の疑いが指摘できるか否かという視点が必要になります。

がんの見落としが問題となる場面

がんの見落としがよく問題となるのは、例えばある症状を訴えて医療機関にかかり診察をうけ、レントゲンやCTなど画像も撮影されたところ、がんを発症している可能性などを説明されず経過観察となり、ある一定期間がたって検査したところでがんと診断され、すでに当該がんはステージⅣに進行していたというものです。その他、次のような場面においても問題となります。

集団健診でのがんの見落とし

集団健診での見落としについては、多数者に対して検査が一斉に行われ、多量の画像を短時間で読影せざるを得ない状況があることから、画像の読影についての過失を考えるうえで、医療水準をどのように考えるかという問題があります。

肺結核についてものですが、最高裁昭和57年4月1日判決があり、多数者に対して行われるレントゲンの読影に関して若干の過誤をもって不法行為を成立させることに疑問を持つとの傍論が示されています。また、名古屋地裁平成21年1月30日判決(判例タイムズ1304号262頁)は、700枚以上の胸部エックス線写真を約2時間弱で読影したというケースで、集団検診には、制約・限界が内在することから、集団検診における胸部エックス線写真の読影にかかる医療水準は、通常診療における胸部エックス線写真の読影にかかる医療水準とはおのずと異なるとし、集団検診において行われる読影条件のもとにおいて、これを行う一般臨床医の水準をもって読影した場合に、異常ありとして指摘できるかで判断するとしています。

もっとも、このように、通常診療の場合と医療水準が異なるとしても、集団健診であったからといって直ちに過失が否定されるということではなく、どのような陰影がどこに存在していたかなど個別の検討が必要となると考えます。また、がん検診のように、特定のがんの発見を目的とする検診については、これとは別に考える必要があります。

他の診療科における癌の見落とし

例えば、整形外科にかかっていた際にとられた検査画像に、肺癌がうつっていたところ、医師がこれを指摘していなかった、などの問題のように、他の診療科におけるがんの見落としが問題となることがあります。この場合には、問題となるがんや異常の発見に関する医療水準をどのように考えるかという問題、当該医療水準を前提として異常を指摘できたといえるかという問題などが考えられます。

検査結果の見落とし

がんの見落としには、医療機関において検査結果でがんと疑われていたのに、担当医師などが、当該検査結果自体を見落としていており、患者に説明されていなかったという事件もあります。この場合の過失は明らかなものが多く、因果関係のみ問題となることが多いと思われます。

まとめ

上記のとおり、がんの見落としが問題となる事案においては、各場面毎に、ある時点においてがんを発見し治療を開始すべきであったかという過失の問題以外にも、医療水準にしたがった診療が行われていた場合、つまり、当該がんを発見できたといえる時点で治療を開始していた場合に、実際に発生した顛末と比較するとどの程度予後が変わったのか、ということも立証していく必要があります。

この記事の執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所所長 医学博士 弁護士 金﨑 美代子
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所所長 医学博士 弁護士 金﨑 美代子
東京弁護士会所属
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

医療過誤のご相談・お問い合わせ

初回法律相談無料

※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。

0120-979-039 24時間予約受付・年中無休・通話無料

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メールでお問い合わせ

24時間予約受付・年中無休・通話無料