労務

問題社員の解雇・雇い止め

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

無断欠勤や遅刻を繰り返す社員、業務命令に従わない社員、パワハラなどのハラスメントを行う社員、能力不足で仕事に支障が出ている社員など、職場の環境を悪くする問題社員に悩まされる経営者や上司の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?

可能であれば、問題社員を辞めさせたいが、解雇した場合にどのようなリスクがあるのか知っておきたいという方もいらっしゃるでしょう。

そこで、本記事では、問題社員の類型、問題社員を解雇するための対応方法、解雇・雇止めした場合のリスク等について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

問題社員が企業に及ぼす影響

問題社員を放置していると、一般社員が問題社員の迷惑行為に巻き込まれて、働く意欲をなくし、社内全体のモチベーションが下がるおそれがあります。
また、場合によっては、他の優秀な社員が次々と退職するような事態にもなりかねません。

さらに、中長期的には、モチベーションの低下や、無断欠勤などの迷惑行為によって業務に支障が生じ、生産性が低下し、企業全体の業績が下がる可能性もあります。

また、問題社員の行動がネット等により公表され、「問題社員を野放しにするブラック企業」であるとの風評が広がり、社外からの評判や信頼に悪影響を与えるおそれもあります。

このようなリスクを避けるため、問題社員に対して、会社として適切な措置を講じることが求められます。

問題社員の類型

問題社員の類型として、主に以下のようなものが挙げられます。

①勤怠不良である

遅刻や早退、無断欠勤等を繰り返す社員です。このような社員がいると、真面目に働いている社員のモチベーションが下がり、それにつられて遅刻や欠勤等を繰り返すおそれがあります。

②労働能力が不足している

ミスを連発する、仕事が極端に遅いなど、与えられた業務を行うだけの能力を持たない社員です。
本人には悪気がない場合が多いですが、このような社員を放置すると、会社の業績に悪影響を与える可能性があります。

③職務怠慢

業務命令に従わない、仕事を怠ける等の社員です。例えば、上司の指示を無視して違う仕事を勝手に行う、仕事中に長時間私用メールのやり取りをする、頼まれた仕事をしばらく放置するなどの社員が挙げられます。

④ハラスメントを行う

セクハラやパワハラなどのハラスメントを行う社員です。このような社員を放置すると、被害を受けた社員が精神的苦痛を受けて退職したり、使用者責任や安全配慮義務違反に基づき、会社に対して損害賠償を請求したりする可能性があります。

⑤協調性がない

他の社員とコミュニケーションを取ることができない社員です。チームワークが求められる仕事を行う場合、協調性がないと、業務に支障が出て、生産性が低下するおそれがあります。

問題社員への対応

問題社員が社内にいる場合は、以下のような対応手順により、問題行動を改善できないか、検討していく必要があります。

①問題行動について、状況を把握する。

従業員に問題のある言動が見られたり、そのような報告が行われたりした場合は、まず状況を把握します。上司や同僚等にヒアリングを行い、いかなる問題が生じているのか、その原因は何か、個人ではなく組織で発生している問題ではないか等を調査します。

②問題社員にヒアリングする。

問題社員に直接ヒアリングを行い、どのような理由から問題行動を起こしたのか、事情聴取します。

③問題社員への対処法を検討し、本人に提示し、経過を観察する。

ヒアリングから得られた情報を整理し、問題社員への対処法を決定し、本人に提示します。
「業務指導書」等を作成し、問題点を明確に伝え、適切なフィードバックを行います。
その後、一定期間、本人の様子を観察し、言動に改善がみられるかどうか確認します。

④本人に注意・指導する。

対処法をとっても、改善が見られなかった場合は、問題社員に直接注意して、指導を行います。
具体的には、「注意書」等の書面を本人に交付し、書面・捺印を得ておきましょう。書面の形で残しておけば、後に裁判等になった場合の重要な証拠となり得ます。

⑤人事異動により適性を見る、教育研修を行う。

現在の仕事では能力が発揮できない状況でも、異動を行えば、能力が発揮できる場合があります。
異動によりチャレンジを与え、適性を見てみましょう。
また、研修などを実施し、本人に教育指導等のサポートを行うことも必要です。

⑥懲戒処分を行う

注意・指導や人事異動等を行っても改善が見られなかった場合は、懲戒処分を検討する必要があります。
懲戒処分には、以下のような種類があります。

  • 戒告・譴責・訓戒(文書による注意)
  • 減給
  • 出勤停止(一定期間、出勤を禁じ、その期間を無給とする)
  • 降格(役職や資格の引き下げ)
  • 論旨解雇・論旨退職(退職届を提出させて、自己都合退職扱いにすること)
  • 懲戒解雇(最も重い制裁であるため、他の方法がない場合の手段)

ただし、懲戒処分を行えるのは、問題行動が、就業規則等に規定した懲戒事由に該当した場合に限られます。

問題社員の解雇について

前記の対応を行っても、問題行動が改善されない場合は、労働契約を解除するしかありません。問題社員が退職に応じないのであれば、解雇を行うことになります。

しかし、解雇は、労働者の生活の糧が失われる重大事であるため、法律による厳しい規制が置かれています。
法的に解雇が有効と認められるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

①解雇禁止事項に該当しないこと

業務上の疾病による休業期間とその後30日間、及び女性労働者の産前産後の休業期間とその後30日間における解雇は禁止されています(労基法19条)。
ただし、使用者が同法81条に基づき打切補償を支払った場合や、天災事変などやむを得ない事由がある場合は、この限りではありません。また、業務上の休業期間には、治ゆ後の通院期間は含まれません。

②就業規則の解雇事由に該当していること

常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し、絶対的必要記載事項として、解雇事由を必ず記載しなければなりません(労基法89条)。
つまり、労働者を解雇するには、問題行動が、就業規則に明記された解雇事由に該当することが必要となります。

③解雇に正当な理由があること

正社員など「期間の定めのない労働者」の解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)と定められています。
よって、一度の遅刻や欠勤を理由とした解雇は難しいですが、5年にわたり遅刻や無断欠勤を繰り返し、会社として指導を続けたが、改善が見られなかったような場合は、正当な理由があるとして、解雇が認められる可能性が高くなります。
また、契約社員やアルバイトなど「期間の定めのある労働者」の契約期間中の解雇については、「やむを得ない事由があるときでない限り、契約期間が満了するまで、解雇することができない」(労契法17条)とされており、正社員よりもさらに厳しく解雇が制限されています。

④最低でも30日前の解雇予告

突然の解雇による労働者の混乱を避けるため、少なくとも30日前までには解雇予告を行うことが義務付けられています(労基法20条)。また、予告をしない場合は、「解雇予告手当」(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。なお、双方を組み合わせて合計で30日分以上となれば、適法となります。
ただし、天災事変その他やむを得ない事由がある場合については、予告解雇や解雇予告手当の支払いが免れるという例外規定があります(労基法20条1項但書き)。

⑤解雇の手順を守ること

いきなり解雇をすると、不当解雇とされる可能性があります。よって、問題行動があった場合は、まず本人への注意や指導、研修、人事異動,代替的な懲戒処分の検討など、改善のための措置を講じる必要があります。
裁判等になった場合、これらの会社側の姿勢が解雇の有効性を高める事由となり得ます。

問題社員の雇い止め

問題社員が、アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある労働者」である場合、解雇ではなく雇止めを行うという方法もあります。
雇い止めとは、有期労働契約において、使用者が契約を更新せずに、契約期間の満了により契約を終了させることをいいます。

ただし、雇止めについては、有期労働者の保護のため「雇止めの法理」というルールが法律上設けられています。

具体的には、下記の①と②いずれかに該当する有期労働契約であって、労働者が契約更新の申し込みをした場合には、使用者が申し込みを拒絶して雇止めを行うことに客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合は、従前の有期労働契約の内容と同一の条件で、労働者の申込みを承諾したものとみなされるため(労契法19条)、注意が必要です。

①過去に反復して更新されたことがある有期労働契約で、その雇止めが無期労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められるもの(同法19条1号)

例えば、契約社員であるが、過去に何回も労働契約の更新を行い、雇用期間も長期にわたり、仕事内容も正社員と変わらない場合や、契約期間満了前になっても、事業主から何も言われず、契約が自動更新されているようなケースが該当します。

②労働者において有期労働契約の期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて、合理的な理由があるものであると認められるもの(同法19条2号)

例えば、長期にわたる労働契約の反復更新がなくても、契約社員の仕事が臨時的なものでなく、正社員と変わらない仕事を行っていたり、契約社員について雇止めを行わないことが長年社内の慣行になっていたりしたようなケースが該当します。

雇い止めが認められやすい問題行動

前述のとおり、有期労働契約の更新を拒否するためには、合理的かつ相当な理由が必要となります。

どのような場合に雇い止めが認められるかについては、様々な事情を考慮して決められるため、ケースバイケースです。

例えば、セクハラやパワハラなどのハラスメント行為、勤務態度不良、業務命令違反、不正行為、継続的な職務懈怠などの問題行動については、雇い止めが認められやすい傾向にあります。

能力不足を理由とした解雇・雇い止め

能力不足を理由とした解雇・雇止めは、無効とされやすい傾向にあります。

解雇や雇止めが法的に認められる能力不足とは、会社経営に支障を与えるなど、雇用関係を維持できないほど重大な能力不足であって、指導や教育を尽くしても、これ以上改善の余地がないものと考えられています。
そのため、他の従業員よりも成績が低い程度であるならば、解雇は認められにくいでしょう。

過去の裁判では、主に以下のような要素を使い、能力不足を理由とした解雇・雇止めが有効であるか否かを判断していると考えられます。

  • 従業員の能力不足により、実際に業務に支障が生じ、会社にも損失が出ているか否か。
  • 客観的な数字データ等をもとに、他の従業員と差別のない平等な評価によって判断されているか否か。
  • 他の部署や職種への配置転換など、業務改善の機会を与えたか否か。
  • 適切な指導・教育等を行ったか否か。

企業に求められる解雇回避努力

企業には、労働者の解雇を回避するための努力義務が課せられています。
よって、何ら解雇回避措置を講じずに、直ちに解雇とすると、解雇が無効になる可能性があるため、注意が必要です。

解雇を行う前に、企業が行うべき取組として、以下のようなものが挙げられます。

  • 改善の機会を与える
  • 労働者に適切な指導や教育訓練を行う
  • 他部門や職種への配置転換
  • 業務成績に見合った職位への降格
  • 解雇以外の懲戒処分の検討など

ただし、解雇回避措置を行う方法や期間、程度などは、企業の規模、労働者の職種などによって異なります。
大企業は経済的に余裕があり、部署や職種の数も多いことから、中小企業よりも、より十分な解雇回避措置が求められる傾向にあります。

不当な解雇・雇い止めのリスク

裁判所等から、解雇・雇止めが不当であるとして無効と判断された場合は、会社と労働者の雇用契約は終了していなかったことになりますので、解雇された労働者は復職することになります。

この場合、解雇された日から解雇が無効と判断された日までの間に、支払っていなかった分の賃金を労働者に支払わなければなりません(バックペイ)。

裁判が長期化し、解雇無効と判断されるまでに時間がかかった場合や、対象労働者の賃金が高額な場合は、膨大な金額のバックペイを支払わなければならないリスクが生じます。

不当解雇による罰則

不当解雇と判断された場合、すべての解雇において、会社が罰則を受けるわけではありません。

労基法で罰則が定められている解雇は、主に以下の解雇になります。

  • 業務上の負傷または疾病にかかる療養のための休業期間中における解雇(労基法19条)
  • 産前産後休業期間中における解雇(同法19条)
  • 30日前の解雇予告期間をおかず、または30日分の平均賃金を支払わないで行った解雇(同法20条)

※これらに違反する解雇は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(同法119条1号)。

弁護士に依頼することのメリット

問題社員の解雇・雇止めについては、問題社員の問題行動が気になり始めた時点から、弁護士に依頼することをおすすめいたします。

解雇・雇止めには厳しい法的制限があり、解雇無効と判断された場合は、多額のバックペイや損害賠償金の支払いが必要になるなど、企業として様々なリスクを負う可能性があります。

解雇前に弁護士にご相談いただければ、どのような措置を講じれば、解雇が有効と認められるか、また、解雇無効で争いになった場合に、どのような対策を講じるべきか等についてご説明できるため、解雇に伴う会社側のリスクを最小限におさえることが可能です。

また、解雇後に裁判等で争いになった場合にも、法的・実務的知識を活用し、企業側の代理人として、会社側の主張が認められるよう尽力することが可能です。

従業員の解雇を検討している企業の方は、ぜひ企業側の労務問題に精通した、弁護士法人ALGにご相談下さい。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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