労務

ハラスメントの事実認定|判定方法や適正に行うためのポイント

従業員からハラスメント被害の訴えが出た場合、企業としては、そのハラスメント被害の事実関係を調査する義務があります。調査をもとに、訴えのあったハラスメントの有無を判定し、ハラスメントがあると判断した場合には加害者の処分などを検討することになります。

ハラスメントの有無の判定の際に事実認定を誤ると、事業主の法的責任にも影響することがあるため、事実認定はとても重要な位置づけとなります。

以下では、事実認定の判定方法やポイントを解説していきます。

ハラスメントの事実認定

冒頭でもお話しましたように、事実認定はとても重要です。

ハラスメントの調査を終えた後は、ヒアリング結果や証拠等に基づいて事実認定をすることになります。事実認定は、ハラスメントの有無を判定するだけでなく、被害者や加害者の人事上の措置や、加害者の処分の必要性について結論を出すために行うものでもあります。

事実認定を誤ってしまうと、被害者から損害賠償請求を受けたり、加害者から処分不当の訴えを受けたりするというリスクが伴います。

ハラスメントを判断する難しさ

ハラスメントと一口に言っても、その種類によって事実認定が難しい場合があります。

例えば、パワハラの場合には、その性質上、業務上指導の一環として行われる場合も多く、業務上指導との線引きが難しい場合があります。また、セクハラの場合には、そもそも密室で行われることが多い性質の行為であることから証拠が乏しく、事実認定が極めて困難な場合が多いです。

ハラスメントの判断基準

事実認定をするにあたっては、まずは具体的にどのような言動がハラスメントにあたるものとされているのかを認識しておく必要があります。

たとえば、パワーハラスメント(パワハラ)の場合は、次の3つの要素を全て満たすものがパワハラに該当するものとされています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  3. 労働者の就業環境が害される精神的・身体的苦痛を与える言動

その他、セクハラやマタハラについては、下記リンクをご参照ください。

パワハラ防止法について詳しく見る セクハラ対策と発生後の対応について詳しく見る マタハラへの対応・防止措置について詳しく見る

被害者と加害者の言い分が食い違う場合の判定方法

調査で被害者と加害者にヒアリングした結果、双方の言い分が食い違うケースもよくあります。そのような場合はどのように事実認定をするべきか悩ましいことが多いですが、基本的には、以下の点を主な判断材料として総合的に判断することが多いです。

このような判定方法はあらかじめマニュアルに定めておくことをおすすめします。

  1. 言い分に具体性があるか
  2. 言い分に矛盾や変遷がないか
  3. 言い分と客観的証拠が合致しているか
  4. 目撃者の証言と合致しているか
  5. 虚偽の供述をする動機がないか
  6. 同様の被害を受けた者がいないか

①言い分に具体性があるか

まず、どれだけ具体的に記憶しているかという点は、証言の信用性を見る上で重要な判断要素となります。嘘をついている場合は、具体性に欠け、曖昧な答え方になってしまうことが多いです。具体的かつ迫真的な証言は真実であると評価されやすいといえるでしょう。

②言い分に矛盾や変遷がないか

当初のヒアリングから言い分を不自然に変更した場合は、虚偽であると判断する根拠になりやすいでしょう。嘘の証言は、それを具体化していくと、その場しのぎで証言が変わることが多いからです。ヒアリングの際はきちんと記録をとり、本人に確認させて署名をもらうことが重要となります。

③言い分と客観的証拠が合致しているか

虚偽の事実で塗り固めようとすると、その言い分の内容が客観的証拠と矛盾することがあります。証言が明らかに不自然であったり矛盾したりする場合は、客観的証拠と矛盾していることが多く、証言に信用性がないと評価されることが多いでしょう。

④目撃者の証言と合致しているか

被害者と加害者の言い分が食い違う場合には、目撃者からの事情聴取も重要となります。目撃者は第三者であり、基本的には中立な立場での証言が期待できるからです。目撃者に対する事情聴取においては、その中立性を担保するためにも、目撃者と被害者や加害者との関係についても確認すべきです。

⑤虚偽の供述をする動機がないか

被害者が相手をおとしめるために、虚偽のハラスメント被害を申告するケースもあります。例えば、被害者と加害者が以前恋愛関係にあり、恋愛関係のもつれに対する報復としてハラスメント被害を申告することもあります。

そのため、被害者と加害者のハラスメント以前の関係性も確認する必要があります。また、その他の供述者と当事者の間に利害関係が無いかどうかも重要となります。

⑥同様の被害を受けた者がいないか

同じ加害者に対して、他にも同様のハラスメント被害を訴える被害者がいないかという点も重要となります。

もしそのような被害者がいた場合、その被害者同士が口裏合わせをしていない限りは、実際にそのような被害があった可能性が高いと考えられるため、被害者の言い分を採用する根拠の1つになるでしょう。

ハラスメントの事実認定を適切に行うためのポイント

以上のとおり、事実認定の難しさや誤った場合のリスクの大きさを考えると、いかにハラスメントの事実認定を慎重に行わなければならないかをご理解いただけたと思います。以下では事実認定を適切に行うためのポイントを整理しましたので、ご確認ください。

必ず双方からヒアリングする

必ず被害者、加害者の双方からヒアリングをすることです。一方のヒアリングだけで判断するということは、誤った判断をしやすいだけでなく、明らかに公平性に欠けるため、絶対にしてはいけません。

双方の言い分が食い違う場合には、第三者へのヒアリングも実施するなどして、より慎重な事実認定が求められます。

客観的な証拠を確保する

客観的な証拠を確保し、事実関係を裏付けることはとても重要です。証言が矛盾するような場合は、まずは客観的な証拠と一致する部分から事実を固めていくと、誤った事実認定になりにくくなるでしょう。証拠はなるべく数多く確保するとよいです。

【証拠の具体例】

  • 家族や友人の日記やメモ
  • 当事者間のLINE、メール、手紙
  • 録音・録画データ
  • 写真
  • 診断書
  • SNSへの投稿

など

中立的な視点で判断する

調査員は自分の主観や偏見を排除し、中立な視点で事実関係を調査することが重要です。思い込みで判断してしまわないように、ヒアリング内容や客観的証拠をもとに客観的に判断するという意識が求められます。

弁護士に相談する

事実認定の判断に迷った場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は第三者機関であるため、中立的な立場からハラスメントの調査や事実認定をすることが期待できますし、職場のハラスメントに関する知識や経験が豊富であるという利点もあります。

なお、ハラスメント調査や事実認定の役割を担った弁護士は、被害者と加害者の双方にとって中立的な立場にあるため、その後に労働審判や訴訟になった場合にはどちらか一方の代理人になることができません。

ハラスメントの事実認定後の対応

ハラスメントの事実認定が完了した場合は、その結果を当事者に通知することになります。必要に応じて調査報告書を作成することも検討します。

ハラスメントに該当すると判断した場合には、被害者に対しては適切な補償や職場環境の調整、加害者に対しては懲戒処分や配置転換等の対処を考える必要があります。

他方で、ハラスメントに該当しないと判断した場合には、被害者に対しては丁寧にその結果を説明し、理解を得る必要がありますし、加害者に対しては、ハラスメントに該当しないとしても同様のハラスメント申告が生じないような配慮を促す必要がある場合もあるでしょう。

弁護士が中立な視点からハラスメントの調査・事実認定をサポートいたします。

ハラスメントの事実認定の判定には、その方法や結果の内容によっては後に訴訟に発展するリスクを伴うことから、とても重要な判断が求められることをご理解いただけたと思います。

「事実認定」というものは、法律家の中でも主に「裁判官」の専門分野ということができますが、「弁護士」も司法修習の過程で事実認定の方法を学んだ経験があるほか、普段の弁護士としての裁判業務においても、裁判官に対して説得力ある主張をするために、適切な事実認定に関する知識が必要不可欠となっています。

そのため、事実認定の判断に迷うときには、ぜひ弁護士への相談をおすすめします。ALGには、事実認定に関する適切な知識のほか、職場のハラスメントに関する知識や経験が豊富な弁護士が揃っています。

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