監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
労働組合との団体交渉について、頭を悩ませる経営者の方は多くいらっしゃることでしょう。
労働組合から団体交渉の申入れを受けた場合、使用者は正当な理由がない限り、団体交渉を拒否することはできません(労働組合法7条2号)。
また、単に交渉に応じるだけでは足りず、誠実に交渉する義務も課せられています。
そのため、使用者としては、不当労働行為と判断されないよう、団体交渉に対して適切な対応をとらなければなりません。
本記事では、企業側の視点から、労働組合と団体交渉を行う際の対応方法や注意点についてご紹介していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
労働組合との団体交渉対策の重要性について
団体交渉は、ある日、突然、労働組合から団体交渉の申し入れを受けて、開始されるものです。使用者側からすると、まさか団体交渉を起こされるとは思わなかったと、突然の団体交渉に戸惑うことが多いでしょう。
しかし、使用者には、団体交渉に誠実に応じる法的義務が課されていますので、使用者は、団体交渉について、日ごろから、十分に準備を重ね、適切な対策を講じる必要があります。
団体交渉に対して適切な対応ができないと、不当労働行為と判断されて、労働委員会から救済命令が出され、応じない場合には罰則を受ける可能性があります。
また、不当労働行為によって労働者個人や労働組合が損害を受けたのであれば、高額な損害賠償責任を負う場合もあるため注意が必要です。
企業に求められる誠実交渉義務
労働組合法7条2号を根拠に、裁判例上(東京地方裁判所 平成元年9月22日判決)、誠実交渉義務があると考えられています。
そのため、使用者が労働組合から団体交渉を求められた場合は、単に交渉に応じれば良いというわけではなく、誠実に交渉しなければなりません。
具体的には、単に労働組合の主張や要求を聴くだけではなく、それらに対し適切な回答を行い、使用者としての主張・反論も行い、これらを裏づける資料等を開示するなどして、双方で合意ができるよう努めなければなりません。
ただし、誠実交渉義務は、あくまで誠実に応じる義務であり、使用者の意思に反して、労働組合の要求を無理やり受け入れたり、譲歩したりする義務までは有していません。
団体交渉の拒否は可能か
使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、不当労働行為として禁止されているため、基本的には、団体交渉を拒否することはできません。
しかし、労働組合が要求する事項が、交渉に応じることが使用者の法的義務とされている「義務的団交事項」に該当しないのであれば、正当な理由があるとして、団体交渉を拒否することが可能です。
・義務的団交事項
組合員である労働者の労働条件その他待遇や、団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能な事項。例えば、賃金や労働時間、休息、安全衛生、解雇、団体交渉の手続きや組合活動のルールなど。
また、使用者と労働組合で何度も話し合いを重ねたが、合意に至らなかった場合や、労働組合員から暴力行為等があったような場合も、正当な理由があるとして、団体交渉を拒否できる場合があります。
労働組合と団体交渉を行う際の対応
申入れを受ける前の対応・準備
労働組合から団体交渉を求められた場合は、まず団体交渉の開催日時・場所、参加者等について協議しなければなりません。
これらの手続上のルールは、労使間の話し合いで決めるものであるため、組合側の要求に必ずしも応じる必要はありません。
そのため、都合がつかない場合は、業務に支障のない日時や場所に変更してもらうことが必要です。
日時は、組合から勤務時間内を要求される場合がありますが、応じると、業務に支障が生じ、その時間分の賃金の支払いの問題も生じるため、勤務時間外に行うべきといえます。
また、場所は、組合事務所や会社内の施設では、長時間拘束される可能性があり、他の社員にも悪影響を与えるため、商工会議所等の社外施設の利用が望ましいでしょう。
なお、参加者については、交渉する議題に詳しい社員や交渉力のある社員(人事部長や上司など)を選び、対等な交渉が行えるよう労使同数の人数にしましょう。
労働組合法上の労働者性の判断基準
労働組合法上の労働者とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されており(労組法3条)、労働基準法や労働契約法上の労働者の範囲をやや広げた概念となっています。
労組法上の労働者に該当すると、同法の保障が及ぶ労働組合の構成員となれる権利を有することを意味します。
この定義には「使用される」という要件が含まれていないため、例えば、失業者であっても、同法の労働者に該当し得ます。
労組法上の労働者に該当するか否かは、以下の判断要素を総合考慮して、個別の実態に即して、判断されます。
- ①事業組織への組み入れ
- ②契約内容の一方的・定型的決定
- ③報酬の労務対価性
- ④業務の依頼に応ずべき関係
- ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
- ⑥事業者性の実態の有無・程度(消極的判断要素)
例えば、コンビニオーナー、プロ野球選手、オペラ歌手などの独立自営業者や、親会社の製品の修理業務を行うエンジニアなどの業務委託契約者についても、労働組合法上の労働者性が認められた判例が出ています。
団体交渉の流れ及び留意点
団体交渉は、労働組合が要求する事項に対し、使用者が回答する形で進められるのが通例です。
誠実交渉義務に違反しないよう、根拠を示して、適切な回答を行う必要があります。
ただし、事前の議題に挙がっていない事項の質問があった場合など、その場での回答が難しい場合は、次回までに回答や資料を準備するという対応でも差支えはありません。
また、不用意な発言をしたり、組合が提示する書面に安易にサインしたりすることは避けましょう。これにより、労働者側の提案に応じたと判断されるおそれがあるからです。
組合から提案がなされた場合は、一度持ち帰り、判断権者の指示に従いましょう。
なお、団体交渉の内容は、後に言った言わないのトラブルにならないよう、議事録を作成し、ICレコーダーで録音しておくことを推奨いたします。
最終的に、お互い合意に至った場合は、労働協約を締結することになります。
団体交渉時の対応・注意点
義務的・任意的団交事項の条項
義務的団交事項とは、労働組合法によって、使用者が団体交渉に誠実に応じることが義務付けられている事項をいいます。
具体例として、以下のような事項が挙げられます。
これらの事項について労働組合から団体交渉を要求された場合は、基本的に、使用者は交渉を拒否することができません。
- 報酬(賃金、一時金、退職金など)
- 労働時間(時間外労働など)
- 休息(休憩・休日・休暇)
- 職場の安全衛生、労災の補償
- 教育訓練
- その他(組合員の配転転換、懲戒処分・解雇の基準や手続、人事考課の基準や手続など)
- 団体交渉や争議行為の手続きやルール、組合活動に関するルール
- 組合活動に関する便宜供与(組合事務所や掲示板の貸与、チェックオフなど)
- ユニオンショップ
一方、任意的団交事項とは、団体交渉に応じるべきか使用者側で任意に判断できる事項をいいます。
任意的団交事項は、一度交渉に応じると、誠実交渉義務を有することになるため、交渉に応じるべきか否かは、注意深く検討しなければなりません。
具体例として、以下のような事項が挙げられます。
- 使用者が対処できない事項(他社の労働条件など)
- 経営や生産に関する事項(経営戦略や生産方法の決定に関する要求など)
- 施設管理権に関する事項(設備の移転等に関する要求など)
- 他の労働者のプライバシーを侵害するおそれのある事項(他の社員の賃金や退職金開示要求など)
ただし、上記事項でも、労働条件等に関する事項については、その範囲内で義務的団体交渉事項に該当する場合があります。
判断できない場合は、弁護士への相談をご検討ください。
労働組合からの不当な要求への対応法
使用者が労働組合からの要求をすべて受け入れなければならないわけではありません。
労働組合からの要求が明らかに不当である場合には、毅然とした態度で拒否しなければなりません。
ただし、不当な要求であったとしても、要求の内容が義務的団交事項に該当する場合は、誠実に交渉する必要があります。
誠実に交渉しないと不当労働行為と判断されるおそれがあり、注意が必要です。
なお、団体交渉は、双方の合意までは義務化していません。
そのため、誠実交渉義務を尽くした結果、交渉が決裂してしまったのであれば、不当労働行為には該当しません。
交渉後の和解・決裂時の対応
労働協約作成の注意点
交渉で合意に至ったら、合意した事項について「労働協約」を締結することになります。
労働協約とは、労働組合と使用者間の労働条件等に関する協定であり、書面の形式は問われませんので、「覚書」「協定書」などのタイトルでも、労働協約となり得ます。
まず、合意した内容が書面に正確に記載されているかどうか確認することが必要です。
労働協約は、就業規則や労働契約よりも優先される、強力な効力を持ちます。
使用者が労働協約に署名・捺印をすると、その合意は、団体交渉のきっかけとなった従業員以外の労働者にも影響を与えるため、合意内容を慎重に精査することが必要です。
書面には、合意後のトラブルを避けるため、他に債権債務がないことを確認する「清算条項」や、風評被害を防ぐための「口外禁止条項」等を入れるのが望ましいでしょう。
交渉決裂時の対応
使用者として誠実に交渉した結果、交渉が決裂したならば、不当労働行為にあたりません。
ただし、交渉が決裂した場合、誠実交渉義務に違反したとして、労働者側が労働委員会に不当労働行為の審査申立てや労基署への申告を行ったり、労働審判・裁判等を起こしたりする可能性があります。
このような場合に、誠実交渉義務違反はないとの主張ができるように、団体交渉の開始時から、交渉内容について、詳細な議事録を作成し、会話内容を録音するなどして、証拠等をそろえて準備しておくことが重要です。
争議行為における正当性
争議行為は、憲法28条により保障された、労働者の重要な権利であるため、民事免責、刑事免責等の法律上の保護が与えられています。
民事免責や刑事免責が認められるためには、争議行為が正当なものである必要があります。
民事免責
労働組合法8条は「使用者は、同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けたことの故をもって、労働組合又はその組合員に対し、賠償を請求することができない。」と民事免責を定めています。
ストライキや怠業については、労働契約上、労務提供義務の不履行にあたるため、債務不履行責任や、場合によっては、不法行為責任が発生する可能性があります。
しかし、本規定により、正当な争議行為については、違法性が阻却(否定)されるため、使用者は労働組合に対して、債務不履行責任や不法行為責任を追及できないことになります。
刑事免責
刑法35条は、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めています。
また、労組法1条2項は、「刑法35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって、前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする」と規定しています。
よって、ストライキなどの争議行為は、強要罪や威力業務妨害罪、住居侵入罪等に該当する可能性がありますが、これらの規定により、正当な争議行為については違法性が阻却(否定)され、刑事責任が免除されることになります。
ただし、どのような場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為とは認められず、当然に刑事罰の対象となります(労組法1条2項但書き)。
労働組合との団体交渉を弁護士へ依頼するメリット
労働組合との団体交渉では、憲法や労働組合法により保障された労働組合の権利を遵守しながら、争っていく必要があるため、高度な交渉テクニックが求められます。
そのため、団体交渉への対応については、労働問題に精通した弁護士に依頼することを強くお勧めいたします。
弁護士に対応を依頼すれば、団体交渉申入書に対する回答書の作成や団体交渉の事前準備、団体交渉当日の同席と会社側の説明に対するフォロー、労働協約作成のサポート等行い、企業側にとって有利な解決に至るよう尽力することが可能です。
さらに、団体交渉が終了した後も、再度の団体交渉を防止するため、就業規則や雇用管理体制等の見直しのためのフォローも行っていきます。
団体交渉や労働組合の対応についてお悩みの方は、ぜひ企業側の労務に精通した、弁護士法人ALGまでご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
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