
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
- 休業
- 自然災害
- 賃金
自然災害が原因で従業員が休業した場合に、賃金はどのようになるでしょうか。
休業したわけですから、会社としては賃金を払う必要はないようにも思えますが、法律上はどのような取り扱いがなされるでしょうか。
本記事では、自然災害で休業した場合の従業員の賃金について解説します。
目次
自然災害で休業した場合、従業員の賃金を支払う必要はあるのか?
仕事をしなければ、賃金は支払われないという、ノーワークノーペイの原則によれば、自然災害による休業も実際には働いていないわけですから、会社として賃金を支払う必要はないようにも思えます。
自然災害は不可抗力・仕方がないことと考えられるのが一般ですが、会社が自然災害の休業について、責任を負う場合もあります。
自然災害は「使用者の責に帰すべき事由」に該当するか?
会社が賃金を支払う必要があるかについては「使用者の責に帰すべき事由」があるか(労働基準法26条)によって判断がされます。自然災害を会社が引き起こすことはあり得ないので、一見該当しないかとも思われるかもしれませんが、自然災害が起こったとしても直ちに休業しなければならなくなってしまうのか、自然災害の性質や、職場環境等を具体的に考慮した上で、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかしないかを判断していくことになります。
自然災害で休業手当の支払いが必要となる具体例
一例を挙げるとすれば、台風等の自然災害の場合で、交通機関自体は動いており従業員は出社できるものの、顧客が外出を控えることが予想されるため、そこまでの人員を配置する必要がないと判断し、従業員の一部に自宅待機の命令を出した場合等が考えられます。
自然災害で仕事自体が無くなったわけではなく、会社の都合で休んだと考えられるため、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、労働基準法26条に基づいて休業手当を支払わなければなりません。
自然災害で休業手当の支払いが不要となる具体例
典型的なケースとしては、職場までの交通機関がマヒし、代替の交通機関も無いような場合があります。会社が職場環境をいかに整備するという義務を果たしているとしても、交通機関という第三者の都合により休業となってしまった場合には、「使用者の責に帰すべき事由」がないと言え、休業手当を支払う必要はありません。
自然災害により半日など一部休業した場合はどうなる?
会社がそもそも休業手当の支払いをする必要がない場合は、実際に働いた部分に応じて賃金を支払えば良いです。
休業手当の支払いをする必要がある場合は、休業手当自体が1日の給料の60%以上支払うと決まっているため、実働時間が一日の60%を超えない場合は時間給に加え、60%までの休業手当を支払わなければいけません。
実働時間が一日の60%を超えた場合は、休業手当としてではなく、単に実働に応じた賃金を支払うことになります。時間給+休業した時間×60%が支払われるわけではないことに注意が必要です。
労基法26条と民法536条2項の違い
どちらの条文も「責に帰すべき事由」という文言が使用されていますが、労働基準法26条の方が、労働者を保護するため、より広く適応されると理解されています(会社に休業の責任があると認められやすいです。)
労働基準法26条に基づいて支払われる金銭は、賃金そのものではなく、あくまでも休業手当であって賃金の60%です。民法536条2項の基づく場合は、賃金の100%が支払われることになります。
支払の条件については、休業手当の方が有利ですが、実際の支払いの金額は休業手当の方が不利です。
賃金の100%の支払いが必要となるケースとは?
一例として、地震が発生しましたが、交通機関は通常通り運行されており、道路の寸断等も生じていないような場合で、会社が過剰に反応し、地震を理由として従業員に休業を命じた場合が挙げられます。
自然災害を理由とはしているもののその判断自体が合理的でないと言える場合に該当します。
従業員とトラブルにならないために企業がすべき対応
従業員としては、会社の命令に応じる形で休業をしたのに、十分な賃金が支払われない場合には、納得ができず、賃金の支払いを求めてきたり、今後の休業の命令に従わなくなるといったリスクが考えられます。
そのため、従業員とのトラブルを回避するために、法的に適切な対応を行う必要があります。
就業規則等にルールを設けておく
自然災害といっても、台風や地震、大雪については、日本において毎年のように発生している事象ですから、自然災害が発生に備え、事前にルールを定めておくことが必要です。
そしてルールを明確にして、就業規則等に記載しておけば、いざという時の対応にも困りませんし、従業員と見解が異なった場合でも、就業規則をベースに話し合うことができます。
有給休暇や振替休日で対応する
従業員を休業させるにしても、もともと従業員が持っていた有給や代休を使用させて、会社にとって経済的な損害を発生させないことが考えられます。
ただし、あくまでも従業員の権利であるため、過度に誘導することはできませんが、無理して出社せずに、有給や代休という選択肢があることを示しておくと良いでしょう。
賃金の非常時払いに対応する
休業とは別の話題にはなりますが、自然災害等で従業員が緊急で金員が必要になってしまった場合は、通常の給料の支払日前に賃金を支払って、労働者に配慮するといった対応も考えられます。
休業手当の支払い義務に違反した場合の罰則
休業手当の支払義務に違反した場合は、30万円以下の罰金(労働基準法120条)が定められており、会社の信用の問題にも発展するため、休業手当の支払義務に関しては、慎重に判断することが良いと思います。
「雇用調整助成金」の活用について
休業の原因が会社の経営事情により休業を命じたような場合は、一定の条件を満たせば雇用調整助成金を受給できる場合があるため、活用してみると良いでしょう。
休業中の賃金について争われた裁判例
自然災害が問題になったものではありませんが、休業中の賃金が問題になった判例を紹介します。
事件の概要
航空会社であるY社で労働組合によるストライキが決行され、貨物便の運航に多大な影響が生じ、Xらに休業を命じました。そこでXらは賃料・休業手当の請求を行いました。
裁判所の判断
(昭和57年(オ)1189号・昭和62年7月17日・最高裁判所第二小法廷・判決)
「使用者の責に帰すべき事由」について、「取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえ、・・・広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」と判断枠組みを示した上で、本件については、「労働組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行ったものとみるべきであって、Y社側に起因する経営、管理上の障害によるものではな」いと判断しました。
ポイント・解説
本判例は、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の意義について示したものとして有名ですが、より会社の都合で休業させたと言えるような場合は民法536条2項に基づいて賃金相当額の請求ができる可能性を示した判例としても捉えることができます。
自然災害時の休業手当について、不明点等ございましたら弁護士にご相談ください。
昨今天気予報技術の向上により、自然災害といっても、ある程度の準備ができることが常識となってきました。その中で、自然災害を理由に休業させた時に休業手当を出すべきなのか賃金を支払った方がいいのか、判断が難しくなる場合もあると思います。
労働問題の専門性の高い弁護士に相談し、自然災害時の休業後の対応を決めておくなどして法的にも自然災害に備えた会社にしていくことが好ましいです。
是非一度、弁護士法人ALG&Associates千葉法律事務所にご相談下さい。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
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