監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
むちうちは、交通事故による負傷のなかでも代表的なものです。また、後遺障害(後遺症)が残るケースもあります。症状はつらいものですが、正しい知識によって、適切な慰謝料を請求することができます。
このページでは、交通事故によってむちうちになってしまったとき、治療を継続するために保険会社と交渉したり、後遺障害等級認定を受けたりするなどして、適切な慰謝料を得るために必要な知識を解説します。
目次
むちうちとは?
むちうちとは、強い衝撃によって首がむちのようにしなった結果、頚部(首)に外傷ができることで生じる症状の総称です。医学的な傷病名ではありませんが、交通事故による怪我の症状の代表的なものとして一般的に使われています。
むちうちに伴って現れる症状は首の痛みだけでなく、腕の痛みや手足のしびれ、頭痛やめまいなども含まれます。むちうちの症状は多岐にわたりますので、医師の診察を受けることが重要です。
むちうちの主な症状
むちうちの代表的な症状は、頚椎捻挫(首の捻挫)による、首・肩の痛みや運動制限(上下左右に自由に動かせなくなること)です。しかし、それ以外にも、めまいや頭痛、耳鳴り、吐き気、倦怠感といった自律神経に関係する症状や、手足のしびれなど、一見では関係ないように思われる症状が出る場合もあります。
むちうちの症状は事故後にすぐに現れず、数日経ってから自覚することもあります。交通事故の後に頭痛やめまいなどが生じたら、むちうちの症状である可能性がありますので、すぐに医師の診察を受けてください。
むちうちの主な治療方法
事故に遭ってからすぐの段階(急性期)で重要なことは、頚部(首)を安定させ、負荷がかからないようにすることです。痛みを抑えるために鎮痛剤などが投与される場合もあります。
痛みのピークが越えてからは、首のまわりの筋肉を温める温熱療法や、リハビリによって筋肉を緩め、可動域を広げる治療が行われます。
むちうちで認定される可能性のある後遺障害等級と認定基準
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 「局部に頑固な神経症状を残すもの」であるか |
14級9号 | 「局部に神経症状を残すもの」であるか |
むちうちによる症状が、それ以上治療を続けても改善が見込めないとされる状態(症状固定)であると診断を受けたら、後遺障害等級認定を申請するかどうかを考えましょう。後遺障害等級認定を得られれば、それに応じた慰謝料を請求できます。
むちうちによる症状が残存した場合に認定されうる後遺障害等級としては、主に14級9号または12級13号が考えられます。どちらも神経系の後遺障害に関するもので、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」、12級13号はそれよりも重い「局部に頑固な神経症状を残すもの」となります。14級9号となるか12級13号となるかは、本人の自覚症状と、画像診断や神経学的検査の所見の関係が、医学的にどの程度認められるかによって決まります。
むちうちで請求できる慰謝料と慰謝料相場
むちうちになった場合、入通院慰謝料と、後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。慰謝料とは、被害者の精神的苦痛を補填するために支払われる金銭のことです。入通院慰謝料は、入院や通院によって生じた精神的苦痛を、後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによって生じた精神的苦痛を、それぞれ補填するために支払われます。
これらの慰謝料がいくら支払われるかは、自賠責保険の基準と、弁護士が用いる基準で大きく差があります。以下で、解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、被害者が入院や通院によって生じた精神的苦痛に対して支払われます。自賠責基準と弁護士基準では、算出の方法と金額が大きく異なります。
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
77万4000円 | 89万円 |
自賠責基準では、通院1日あたり4300円※に対象日数を掛けて算出します。対象日数は(1)通院期間と、(2)実通院日数の2倍のいずれかのうち、総合的な金額が安くなる方が採用されます。
上記の表では通院期間6ヶ月×30日=180日、実通院日数90日×2=180日なので差はありませんが、例えば通院期間6ヶ月、実通院日数が80日だった場合、入通院慰謝料は80×2=160日に4300円を掛けて68万8000円になります。この場合、自賠責基準では実通院日数に基づく算定が採用されます。
弁護士基準は過去の裁判の結果をもとに作られた算定方法で、計算式ではなく算定表になっています。自賠責基準よりも高額になることが明らかであり、基本的に実通院日数ではなく入通院期間により算定します。
※自賠責保険の基準は令和2年4月1日に改定されました。それ以前に起こった交通事故の場合、旧基準の4200円が適用されます。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、事故によって後遺障害(後遺症)が残ったことに対する精神的苦痛に対して支払われます。入通院慰謝料と同様、自賠責基準と弁護士基準では算出の方法と金額が大きく異なります。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
上記の表からわかるように、後遺障害慰謝料は、入通院慰謝料よりも、自賠責基準と弁護士基準とで支払われる金額の差が大きく異なります。この違いに驚かれる方も多いかと思いますが、被害者の方の受けた後遺症による精神的苦痛を考えれば、この金額は決して高いものではないと弁護士は考えます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
むちうちで適正な等級認定・慰謝料請求するためのポイント
むちうちに対して適正な慰謝料を請求するためには、いくつかのポイントに注意する必要があります。以下で、そのポイントを解説します。
通院頻度を適切に保つ
むちうちの適正な後遺障害認定を受けるためには、通院の頻度を適切に保つ必要があります。自分だけの判断で通院を止めたり、通院していても頻度が低すぎたりする場合は症状が軽いと見なされ、治療期間などの算定に影響が出るおそれがあります。通院の頻度は医師と相談しながら、継続した治療を受けることが大切です。必要に応じて診断書の提出を求められることがありますので、医師とは日ごろから自覚症状などについて密にコミュニケーションをとる必要があります。
ただし、通院頻度があまり多すぎても注意が必要です。過度な通院をすれば,その治療費自体について争われてしまうおそれがあります。
必ず整形外科を受診する
むちうちの治療を適切に進めるためには、必ず整形外科医の診察と治療を受ける必要があります。
むちうちの治療は整骨院・接骨院などでも行われており、必要に応じてこれらの診療を受けることも無意味ではありませんが、むちうちによってどのような症状があるか、どのような後遺症が残りそうかということは、医師にしか診断できません。交通事故によってむちうちになってしまったら、まず整形外科を訪れて、診察・検査を受け、自身の症状と交通事故の因果関係の有無を確定するようにしてください。
整骨院・接骨院に通う場合は、医師と相談して許可を得たうえで、保険適用のできる治療施設を選びましょう。また、整骨院・接骨院に通っていても、整形外科には継続的に通院し、どのような症状があるかを医師に伝えることが大切です。
通院中に保険会社からむちうちの治療費を打ち切られそうになったら
むちうちは医学的・客観的な診断が難しいケースも多く、症状も比較的軽い場合が多いので、保険会社が早い段階で治療費の打ち切りを打診してくることがあります。しかし、ご自身がまだ痛みやめまい、しびれなどの症状を感じているのであれば、治療を続けたい意向を保険会社と医師双方にはっきりと告げましょう。保険会社からの治療費打ち切り打診に困ったら、弁護士に依頼し、交渉することもおすすめします。
仮に治療費が打ち切られてしまったとしても、必要ならば通院を続けるべきです。症状があるにもかかわらず治療を止めてしまった場合、後遺障害等級認定や入通院慰謝料の算定に際して不利になってしまうおそれがあります。
交通事故でむちうちになってしまったら、弁護士へご相談下さい
むちうちの症状は交通事故によって生じる代表的な傷病ですが、完治せずに後遺症が残ってしまうことも珍しくありません。残ってしまった症状によっては、その後の生活に支障をきたしてしまうこともあります。
むちうちで得られる慰謝料は、自賠責基準と弁護士基準では大きく異なります。また、弁護士にご依頼いただければ、適切な慰謝料を得るための通院のアドバイスや、保険会社に治療費の打ち切りを打診された際の対応も代行させていただきます。適切な治療費や入通院慰謝料、後遺障害慰謝料を受け取り、事故後の生活を少しでも穏やかに送っていただくためにも、交通事故でむちうちになってしまったら、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)