監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
これまで結婚生活を続けてきたが、これ以上配偶者と一緒に生活することができないと感じたら、まず、別居を考えると思います。
自分一人で出ていくのであれば問題ないけれども、子供が心配で中々別居に踏み出せない、とお悩みの方もいらっしゃると思います。
別居開始の状況によっては、法的に問題が生じる場合があります。
子供との平穏な生活を守るためにも、どのような別居を行えば良いでしょうか。
本記事では別居と子供に関して、注意すべき点を解説していきます。
目次
離婚しないで子供を連れて別居をするときの注意点
別居の際に子供を連れて行くことは、将来、親権の判断にどのような影響があるでしょうか。
親権はこれまでどの程度子供の面倒をみていたか(監護実績)を重視して判断されます。そのため、子供を連れて別居した側が有利であるかのようにも思えますが、必ずしもそうではありません。子供を連れて別居するときの注意点をみていきます。
別居後の養育環境
まず注意すべき点は、養育環境の変化です。子供は環境の変化の影響を受けやすく、子供の健康のためには、できるだけ以前と同じような養育環境にいることが望ましいです。
とはいえ、家から配偶者を出て行かせることは難しく、別居を希望する方が出ていくことが多いです。近所に転居先が見つかれば良いですが、それも簡単なことではないため、転校、転園もやむを得ない場合もあります。
婚姻費用や養育費
別居したとはいえ、家族である以上は、扶養義務を負います。そのため、子供と同居する親は、非同居親に対して生活費の請求ができ、これを婚姻費用といいます。離婚後は、子供に対する生活費のみ請求することができ、これを養育費といいます。
婚姻費用や養育費の請求は、別居開始から行うことができます。配偶者と連絡を取りたくない場合や、請求しても配偶者が応じない場合には、家庭裁判所に調停という手続きを申し立てることができます。
児童手当、児童扶養手当
児童手当は、中学校卒業までの児童を養育している者に支給される国の制度です。原則は、住民票上の世帯主宛に振り込まれるため、子供を連れて別居する場合には、変更の手続きが必要です。変更の手続きをしなくても、児童手当分のお金を配偶者に請求することはできますが、配偶者が応じてくれるとは限りません。
児童扶養手当は、原則ひとり親家庭に支給される制度ですがDV防止法の保護命令が出ている場合等、離婚しなくても受給できる場合もあります。自分が受給対象となっているかは役所にご相談下さい。
面会交流
子供を連れて別居した場合に、配偶者から子供に会わせて欲しいとの連絡が来ることもあります。子供と同居していない親が、子供に会うことを法的には面会交流といい、子供の福祉のために認められた法的な権利です。
そのため、面会交流は子供のための権利といわれています。
とはいえ、いつでも面会交流に応じなければいけないという訳ではなく、通常、月に1回程度面会交流を行うのが十分とされています。
過去に虐待があった等、面会交流によって子供の利益を害する可能性がある場合は、面会交流は行わなくてもよいと判断されることもあります。
別居と子供の連れ去り
子供を連れての別居は、配偶者からしてみれば、子供の連れ去り別居となります。別居前に十分に子供の監護についての話がまとまらないまま、別居が開始されると、配偶者からは不当・違法な連れ去りであると主張される場合があります。
違法な連れ去りであると判断されると、その後子供の面倒をみていたとしても、親権者として相応しくないとして不利に扱われる可能性がありますので注意が必要です。
違法な連れ去り別居と判断されないための注意点
連れ去りが違法と判断とされるケースを具体的にあげると以下の通りです。
- 親権について、争っている最中に連れ去った。
- 暴行、脅迫によって配偶者に抵抗されないようにして連れ去った。
- 一時的な外出であるかのように装って連れ去った。
など
平穏な形ではない連れ去りであることが分かります。
反対に
- 配偶者からの暴力を逃れるためやむを得ずに連れ去った
- 配偶者も同意をしていた
など
正当な理由があると違法ではないと判断されるケースもあります。
別居中に子供を連れ去られた場合
これまで、自分が子供を監護していたが、子供が連れ去られてしまったことで、権利が侵害されたとして、裁判手続きを行うことができます。
詳細は割愛いたしますが、「監護者指定」と「子の引き渡し」の2つの審判手続きを申し立てます。連れ去られた先で、子供に危害が加えられる可能性が高い場合は、審判手続きにあわせて保全手続きを申し立て、より迅速な判断を裁判所に求めることができます。
裁判手続きによらずに自力で子供を配偶者から取り返した場合は、違法な連れ去りと判断され、後の裁判手続きで不利に扱われる可能性が高いです。
DV、モラハラ加害者との別居
DVやモラハラの矛先が子供に向かうようであれば、一刻も早く別居を開始するべきです。なお、直接は子供に手を出していないとしても、子供の前で、怒鳴ったり、大きな声を出す行為は子供に対するDVであるといわれています。
DV、モラハラ加害者は、被害者への執着が強いことが多く、トラブルを生じることもあります。
別居後も身の危険を感じられたら、警察やシェルター等、行政に連絡することをお勧めいたします。
加害者への連絡について、ご自身で対応が難しい場合は、弁護士にご相談下さい。
別居後の子供とのかかわり方
別居は、子供にとって大きなストレスになります。転校、転園を余儀なくされた場合はもちろんのこと、転校、転園しなくて済んだ場合でも、環境の変化によるストレスで、心身の健康を損なうことも多いです。そのため、別居直後は特に子供の体調の変化に気をつけることが重要です。
また、親権について争いになった場合、別居後の子供の監護状況は調査の対象となります。
一緒に住んでいるからこそ、子供との時間を多くとり、親から愛されていることを感じさせて、子供の精神面を安定させることが重要です。
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よくある質問
家庭内別居する際に子供に対して注意することはありますか?
家庭内別居は、環境の変化という点では、通常の別居よりも小さく、子供に与えるストレスが小さいと考えられます。しかし、ひとつ屋根の下で生活しておきながら、両親が全く関わらないことによる子供への影響は相当程度あると考えられます。
子供は大人が思っている以上に、大人の顔色を伺っていることが多いです。子供ながらに、両親の不和を感じ取り、どのようにふるまうべきか気を遣ったり、お出かけや食事などでどちらの親についていくべきか考えたりして、ストレスを感じる可能性もあります。
そのため、子供の前では明るい表情を見せ、親から愛されている実感を得させるために、声掛けやスキンシップなどを積極的に行うべきです。
別居中から自分の扶養に子供を入れておいたほうがいいですか?
子供が夫婦どちらの扶養に入っているかは、税法・健康保険上の問題であり、親権の判断にはほとんど影響はありません。しかしながら、子供の通院や予防接種などで、健康保険が必要になる機会は多くあると考えられます。
配偶者の扶養に入ったままでは、健康保険の更新などの手続きを逐一配偶者にしてもらう必要があり、煩雑です。
そのため、子供を連れて別居をした場合は、自分の扶養に子供を入れておいた方が良いといえます。
配偶者の扶養から子供を外す際には、配偶者の会社に資格喪失証明書の発行を受ける必要があり、一度は配偶者の協力が必要になります。配偶者が協力を拒否した場合には、健康保険組合に直接対応を求めることが考えられます。
配偶者に黙って子供を連れて別居をした場合は慰謝料請求されますか?
配偶者から、違法な連れ去りのため子供に会えない精神的苦痛を被った、として慰謝料請求をしてくる場合があります。
慰謝料請求に応じなければいけないのは、違法な連れ去りと判断された場合に限られ、正当な理由がある場合には、応じる必要はありません。
配偶者に黙って子供を連れて別居したとしても、それだけでは、違法な連れ去りと断定はできません。違法と判断されるケースと、違法ではないと判断されるケースがあることについては本ページ2-1「2-1違法な連れ去り別居と判断されないための注意点」をご参照ください。
配偶者は感情的になり本人では対応が困難な場合も多いです。違法な連れ去りであるとして配偶者から慰謝料請求を受けている場合は、一度弁護士にご相談下さい。
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子供を連れての別居が違法とならないためにまずは弁護士にご相談ください
子供を連れての別居は、後々の親権の判断に大きな影響を与えます。とはいえ、配偶者との同居生活に耐えられない状況下では、物事を冷静に判断することが難しい上に多くの方は経験がないため不安だと思います。
こちらに不利な事情があったとしても、別居や親権を諦める必要はありません。是非離婚事件に詳しい弁護士にご相談下さい。少しでもお力添えできればと思います。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)