
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
未成年の子どもを養育することは、扶養義務という親の法律上の義務として定められています。
これはその子どもの親権者であるかどうかは関係ありません。
そのため、未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする場合、親権者とならなかった親は、子どもに対して、養育費を支払うことになります。
養育費はどのように算定されるのか、また何時から何時まで支払う必要があるのか等、以下では養育費の支払い義務について解説します。
目次
養育費の支払いは法律で義務化されている
冒頭でも述べたように、親は未成年の子どもを養育する義務があります。
民法877条1項には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められているところ、直系血族とは、親や祖父母等自らと直接の血のつながりのある親族のことを指します。また扶養する義務とは、自力では生活できない者の生活を支える義務を言います。
ゆえに、本条文の規定によると、親は、自身の直系血族であって、かつ、自力では生活できない未成年の子の生活を支える義務があるということになります。
そして、離婚後、親権者でなくなった親は、実際の生活は共にすることができないわけですから、子の生活を支えるため、養育費という経済的援助をする義務があるということになるのです。
養育費はいくら支払う義務がある?
では、具体的に養育費の相場はどのくらいなのでしょうか。
養育費は、個別の事案の事情によるところが大きく、一概にこの程度の金額が相場であるということはかなり難しいです。
養育費の決め方については、まず、協議という方法が考えられます。
当事者間で話し合いをし、当事者双方が納得できる金額があるのであれば、その金額で合意して決定することができます。
次に審判等、裁判所が決定する方法が考えられます。
裁判所が決める場合には、算定表と呼ばれる基準を用いて決定します。
算定表は、子の人数及び、養育費を支払う側の親の年収と子を養育している親の年収を元に、適切な算定方法により算定したおおよその養育費金額が記載された表で、裁判所で決定する場合には、特段の事情がない限り、この算定表に従った金額で決定されます。
養育費の支払い義務はいつから始まる?
養育費の支払いはいつ開始されるのでしょうか。
養育費は、実際に養育をしていない親が子に支払義務を負うものですので、親権者が確定し、離婚が成立した時点で支払義務が生じることになります。
養育費の支払い義務はいつまで続く?
養育費の支払い義務は、原則として子が20歳になるまで継続します。
成人年齢が18歳に引き下げられましたが、現在も20歳になるまで経済的に自立していない未成熟子であるという考え方は変わっていません。
養育費の支払い義務は子が未成熟であるからこそ生じる義務になりますので、現在も、養育費の支払い義務の終了時は原則として、子が20歳になるまでということになります。
例外的に大学進学をした場合には、20歳以降も学生の身分であり、経済的自立ができていない未成熟子となりますので、大学卒業の22歳まで延長されることはあります。
大学院進学や留年、就活の失敗といった事情がある場合に、さらに支払い義務の終了時が延長されるかについては議論がありますが、経済的に自立できる状況かどうかが重要になってきます。
また、このような場合には、一概に養育費の支払い義務の有無を決めるというよりも、個別事情を考慮して、それまでより減額した一定額の支払いを継続するというような柔軟な対応がなされる場合も多くあります。
離婚後、養育費を支払わないとどうなる?
では、離婚後、養育費を支払わない場合にはどうなるのでしょうか。
以下では、養育費を支払わなかった場合に起きうることを解説します。
強制執行される
養育費を支払わなかった場合、養育費を受け取る権利に基づき、強制執行がなされる可能性があります。具体的には、給料債権や銀行預金といった財産が差し押さえられる可能性があるということです。
銀行預金の差押えは、これまでに支払われていない養育費の金額に到達する額まで認められ、その預金額の全部が養育費の支払いに充てられることもあります。
給料債権は、養育費請求権に基づく強制執行の場合、月額の給料債権の2分の1まで差し押さえることができるとされています(民事執行法152条3項)。
差し押さえにより回収された金銭はこれまでに支払われていない養育費の支払いに充てられることはもとより、今後も任意に養育費の支払いをしない場合には、その将来の養育費の支払いに充てるために継続的に月額給料が差し押さえられることになります。
財産開示を拒否したり、嘘をついたりすると前科が残る
強制執行においては、債務者の財産がどれだけ存在するのかを明らかにするために、財産開示という手続きが行われます(民事執行法196条以降)。
この手続きにおいて、財産開示を拒否したり、財産に関して、本当は財産があるのにないと嘘をついたりした場合には、刑事罰が科せられることになり、逮捕される可能性もあります。
こうした刑事罰は、民事執行法213条1項に規定されており、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処することとされています。
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養育費を払わなくていいケースは?支払い義務がなくなるのはどんな時?
相手が養育費を請求しないことに同意した場合
先ほども述べましたように、養育費の決め方の1つとして、当事者双方で協議をして合意するということが考えられるところ、養育費を受領する側が養育費を請求しないことに同意した場合には、例外的に、養育費を支払う側は養育費を支払わなくて良いとされるケースがあります。
受け取る側が再婚した場合
また、養育費を支払わなくて良い別のケースとして、養育費を受領する側が再婚した場合が考えられます。ただし、この場合には、単に再婚したという事情だけでは足りず、再婚相手が子と養子縁組をしたという事情が必要です。
再婚相手が子と養子縁組をすると、再婚相手に子を扶養する義務が生じます(民法727条、877条)ので、以後は第一次的に再婚相手が子を扶養することになり、元の親の扶養義務は二次的なものに後退します。
ゆえに、再婚相手の資力が十分である場合には、元の親は養育費を支払わなくても良いということになるのです。
養育費の支払い能力がない場合
さらに別のケースとしては、養育費を支払う側が働けない等、養育費の支払能力がない場合が考えられます。もっとも、このケースで養育費の支払義務を免れるには、どうしても働くことができないやむを得ない事情があると言える状況であることが必要になってきます。
先ほどから述べています通り、養育費の支払は法律上定められた義務ですので、働ける状態であるのに働かず資力がないという言い分は通用しないのです。
養育費のことでお悩みなら、一度弁護士にご相談ください
以上のように、養育費に関しては、養育費の額を決定するところから、その後、子が成熟するまで実際に支払いをしていく中で、多数の法的問題が生じる可能性があります。
また、養育費は子の生活費ですから、その支払い状況は子の生活状況に大きく関わってくるわけです。
こうしたことから、養育費のことでお悩みの場合には、どんなにささいなことであったとしても、是非お早めに一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)