監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
離婚をするときに、お子様がいる場合は、養育費についても定めることになります。
しかし、その後に進学などのために思わぬ費用がかかってしまう場合があり、定められた養育費では対応できないこともあるかと思います。
そこで、そうした事態を回避するために、「養育費の増額をすることができるのか」「増額を求めるにはどんな手段があるのか」、そのような疑問点について解説していきます。
目次
一度決めた養育費を増額してもらうことはできる?
養育費の金額は離婚時に決めた額に縛られるものではありません。場合によっては金額を増やしてもらうことが可能であると考えられています。
そもそも、養育費の金額は、離婚した当時のそれぞれの収入などの経済状況を考慮して決定されます。
そのため、離婚した当時とその後を比べて、養育費の増額が必要といえるだけの正当な理由があれば、増額することができる可能性があります。
養育費の増額請求が認められる要件
養育費の増額が認められるための条件としては、
- ①養育費の合意をした時から事情が変わってしまったこと(「事情変更の原則」といいます)
- ②養育費の合意をした時に、事情が変わることを予測することができなかったこと
- ③養育費の増額をする必要があると認められること
の3つが基本的に必要となります。
この3つの条件が認められるのは、以下のような場合が考えられます。
・お子様の進学・病気などにより環境が大きく変化してしまった場合
→このような事情によって教育費や医療費に多額の費用が必要となってしまった場合、養育費の合意をした当初では想定していなかったものと考えられます。ですので、このような場合、養育費の増額が認められる可能性があります。
親の収入が大幅に増加/減少した場合
→「昇進・昇給などで養育費を支払っていた親の収入が増加した」もしくは「リストラや減給などで養育費の支払いを受けていた親の収入が減少してしまった」場合には、養育費の増額が認められる可能性があります。
養育費算定表を参考に増額額が決まる
養育費がどれくらい増額されるかというのは、算定表を参考に計算されることが多いです。
この算定表は、裁判所のホームページに公開されているので、どなたでもご覧になることができます。
また、この算定表は、令和元年から新しい基準に基づいて作成されたものです。これは今までの算定表が作られた当時からの社会実態の変化などを踏まえて、現在の実態に合わせて基準を新しくしたものです。
養育費の増額請求の方法について
養育費の支払いを行っている人に対して、養育費の増額を求める方法として、①話し合いをすること、②調停・審判を行うことが考えられます。
一般的には、話し合いを当事者同士で行うことになりますが、話し合いで合意ができなかった場合には調停・審判を行うことになります。
以下で、それぞれの方法について解説します。
まずは話し合いを試みる
養育費の支払いを行っている人へ、養育費の増額をしてくれるように直接連絡して話し合いをすることが考えられます。
当事者間で増額について合意さえできれば、その合意に基づいて金額の支払いを受けられる可能性が高まります。
ただし、相手が増額に合意してくれた場合でも、それは単なる口約束でしかなく、相手がきちんと増額した金額を支払ってくれない可能性もあります。
相手から確実に支払いを受けるために、合意した内容について公正証書を作成することをおすすめします。
内容証明郵便を送る
養育費を支払っている人へ電話やメールをしても連絡が返ってこない場合も考えられます。
そのときは、相手へ養育費の増額請求書面を内容証明郵便で送るという手段もあります。
内容証明郵便というのは、どの人が誰へ送ったのか・送った郵便はどんな内容なのか・いつ送ったのかというのを郵便局が証明する郵便手段です。
内容証明郵便を利用する場合は、「相手と直接連絡を取る必要がない」「口頭ではなく書面という形で相手に増額したいという意思を正確に伝えることができる」という点で、通常の話し合いとは異なるメリットがあります。
ただし、内容証明郵便を送ったとしても、増額請求書面には強制力はなく、支払いを免れるために財産を隠されたり相手の居所が分からないようにしてしまったりするおそれがあるなどのデメリットがあります。
合意を得られなかったら調停・審判へ
調停の場合、調停委員という第三者を介して話し合いが行われます。
調停で話し合いをすることのメリットとしては以下のことが考えられます。
- 基本的には相手と直接顔を合わせることがないため、落ち着いた状態で話し合いを進めることができる
- 算定表に基づいて養育費の計算がなされるので適切な金額で決定されることが多い
また、調停で養育費の増額の合意が得られなかった=調停不成立となった場合は、審判へ移行することになります。
審判では、養育費の増額を認めるべきか否かについて、裁判官が判断を下します。
養育費の増額について決まったら公正証書を作成する
話し合いで合意があったとしても、それは口約束にすぎません。
養育費の増額について合意があった場合でも、約束通りに支払ってくれない可能性が考えられます。
そこで、そのような事態に備えて公正証書を作成することをおすすめします。
公正証書を作成しておくと、合意の内容に沿った金額で払ってくれない場合に、相手のお給料や預金口座を差し押さえることができ、確実に養育費の支払いを受けられる可能性が高まります。
また、公正証書は、原本を公証役場で保管することになるので、あとになって「約束した内容と違う」「その公正証書は偽物だ」「公正証書を無くしてしまった」といった事態を避けることもできます。
養育費の増額が認められた事例
離婚後数年が経ち、養育している子が高校生や大学生になり学費がかかるようになったため、学費分の養育費の増額を求めて調停を申し立てたケースにおいて、子の学費を双方の収入で按分して分担するという形で養育費の増額が認められました。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
よくある質問
養育費の増額請求を拒否された場合はどうしたらいいですか?
話し合いで養育費の増額が拒否されてしまった場合は、調停を申し立てて、裁判所において調停委員を介した形で話し合いをすることで、より充実した話し合いができる可能性が高くなります。
それでも話し合いがまとまらない場合には調停不成立となりますが、そのまま審判手続に移行するため、裁判官によって増額の可否が判断されることになります。いくら相手方が増額を拒否しても、増額の理由があれば、裁判所の判断によって増額を認められます。
また、審判でも養育費の増額が認められなかった場合、審判の内容に不満(不服)があるとして、即時抗告という不服申立ての手続きをとることができます。即時抗告を行えば、抗告審へ移行し、また別の裁判官が養育費の増額について判断することになります。
相手側が養育費増額調停を欠席した場合は増額が認められますか?
相手方が養育費増額調停を欠席すると、当然、その調停の中で相手方と話し合いをすることはできません。裁判所から相手方に出席を促しても、相手方が出席しない限り話し合いはできません。このような場合、これ以上話し合いを行う余地はないとして、調停が不成立となってしまうことが多いです。
調停が不成立となれば、基本的には自動的に養育費増額審判という審判手続に移行します。審判手続の場合、裁判官が双方の主張や証拠を元に、養育費の増額を認めることが適切かどうかを判断することになります。たとえ相手方が欠席であっても審判手続は進みます。
相手方が出席せず、資料等も出さないということなら、裁判官としては、「相手方側には特に意見がない」という前提で判断することになるわけです。
今月15歳になる子供がいます。一律と決めた養育費を算定表に合わせて増額するよう請求することは可能ですか?
これまでになされた養育費の合意の時期などの事情によります。
確かに、お子様が15歳になったという事情が、養育費を増額するべき事情に該当すると判断した裁判例もあります。しかし、これまでの合意の時期が、たとえば「お子様が5歳であったとき」と「14歳で高校へ進学することが決定していたとき」とでは事情が異なってきます。
前者の場合は、約10年の月日を経て事情に大きな変化があることを主張することで、増額が認められる可能性が高いと思われます。
他方で後者の場合には、つい最近に合意をしていることになるため、わずか一年足らずで事情の変化があるとは認められにくいと思われますし、そもそも以前の合意の時点でお子様が近いうちに15歳になることは十分想定できたわけですので、増額が認められにくい傾向にあると思われます。
養育費の増額請求を行う場合は弁護士にご相談ください
養育費を増額してもらう方法には、当事者で話し合いを行い、増額について合意できなければ、調停や審判といった手続きを利用することが考えられます。
もっとも、調停や審判を利用するよりも、話し合いをして決めたほうが、金額や条件を自由に決めることができます。ですので、調停や審判を利用するよりも良い条件で増額することができる可能性が高まります。
当事者同士で話し合いをして養育費の増額をしたいと思っているが、「相手とうまく話し合いができるか不安である」「離婚した相手と直接連絡をとりたくない」という方は、一度弁護士にご相談ください。
弁護士が間に入って相手と増額の話し合いを行い、少しでも良い条件で合意ができるように最善を尽くします。
話し合いでの交渉が難しい場合でも、弁護士が調停や審判の手続きを行い、裁判所へも出廷致します。
まずは、弁護士法人ALGへお気軽にお問合せください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)