監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
子供がいるご夫婦が離婚をする際には、子供の養育費について取り決めをする必要があります。養育費は、子供の健やかな成長のためには必要不可欠ですが、離婚条件を決めるときに揉めやすい項目のひとつであることも事実です。
ここでは、養育費の取り決め方や、養育費を請求する側の方・支払う側の方からよくいただく質問についてまとめました。ぜひ参考になさってください。
目次
養育費とは
養育費とは、離婚をした後に、子供を監護していない親から監護している親へ支払う、子供を監護・教育するために必要となる費用をいいます。
親は、社会的に自立できない未成熟の子供を扶養することが法律により義務付けられています。離婚により子供と別居することになっても、親子関係が変わることはありません。そのため、子供を監護していない親は、扶養義務を果たすために、養育費を支払い続けなければならないのです。
養育費に含まれるもの
養育費には、子供を育てるにあたって必要となるすべてのお金が含まれます。具体的には、以下のような費目があります。
- 食費
- 住居費
- 被服費
- 教育費
- 医療費
- 交通費
- 通常必要と考えられる程度の娯楽費(小遣いも含む)
なお、教育費については公立学校に通った場合にかかる学費を想定しています。私立学校に通う場合や塾代が必要になる場合は、別途協議が必要になります。
養育費の相場は?養育費算定表による支払額の決め方
養育費の金額は、当事者間で話し合って自由に決めることができます。自由といっても、最低限の額を払えば良いということではありません。
養育費の支払義務は「生活保持義務」にあたります。これは、子供の生活レベルを自身と同程度に維持しなければならないという義務です。そのため、収入に応じて養育費の金額を決めるべきなのですが、決めるにしても相場を知りたいところかと思います。
養育費について取り決めをする調停や審判、訴訟では、裁判所は「養育費算定表」という図表を用いて大まかな金額を算出し、個別の事情を加味して調整します。算定表は家族構成にあったものを選べるようになっており、両親の職業や収入をもとに簡単に相場を算出することができます。裁判所のホームページなどでも公開されているので、一般の方にも広く利用されています。
養育費の支払期間はいつからいつまで?
養育費は、原則として「相手に請求したとき」の分からしか支払いを受けることはできません。そのため、離婚の取り決めをする際に、まとめて話し合っておきましょう。請求が遅くなればなるほど受け取れる額が小さくなるので、注意が必要です。
そして、支払期間の終わりは「子供が社会的に自立できる状態になるとき」まで、一般的には「子供が成人するとき」までとなります。
ちなみに、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。しかし、成年年齢が引き下げられたからといって、絶対に18歳までしか支払いが受けられないというわけではありません。
支払期間をいつまでとするかは、子供の進学意欲や能力、両親の経済状況・学歴・社会的地位などの事情を総合的にみて決めます。そのため、例えば大学進学を予定しているのであれば、22歳までと取り決めることも可能です。
養育費の請求・支払いに時効はある?
養育費に関する取り決めをしていない場合、子供が自立するまでは養育費の請求権は存在し続けます。一方、取り決めをした場合は、その方法や内容によって養育費請求権の時効は変わってきます。
養育費は、一般的には月ごとに支払期日が到来するもので、このように一定の期間ごとに一定の額を支払わせる債権を「定期給付債権」といいます。定期給付債権は、話し合いで作成した離婚協議書や公正証書で取り決めた場合、5年で時効を迎えます。つまり、最初の支払期日から5年が経過すると、その後はひと月ごとにひと月分の養育費請求権が時効を迎えていくということです。
調停や審判、訴訟といった裁判所の手続きを踏んで、養育費について取り決めた場合の時効は、10年となります。これは手続きにより支払義務が確定した未払いの分だけに適応され、支払期日がまだ来ていない将来分の時効については5年となります。
ただし、時効の更新の手続きを踏めば、これらの期間はリセットできます。また、時効を迎えてしまっても、相手が時効を援用しなければ請求権は消滅しません。
養育費の取り決め・変更の流れ
まずは話し合いを試みる
養育費を取り決めるには、まずは当事者である父母がじっくりと話し合います。話し合いで決めなければならない内容は、次のとおりです。
①養育費の金額(算定表を参照しましょう)
②支払期間(終期については、年月日や「子供が満〇歳の〇月まで」など具体的に決めましょう)
③支払時期(「毎月〇日に支払う」「2ヶ月分を一括して支払う」など、いつまでに支払うか決めましょう)
④支払方法(振込先の金融機関も指定しましょう。なお,振込に要する手数料は,原則として支払者の負担になります。)
⑤個別の事情について(「進学時にかかる入学金等は別に協議する」など、将来想定される特別な事情について決めておきましょう)
話し合いが成立したら、口約束とならないように、必ず合意書を作成してください。
話し合いを拒否された場合、通知書(内容証明郵便)を送る
相手が養育費の話し合いに応じないようであれば、内容証明郵便を使って通知書を送りましょう。養育費は先で述べたとおり、請求したときからの分しか支払ってもらうことができません。幾度となく口で請求したからといって、その事実は証拠として残りません。
内容証明郵便は、文書の内容も然り、差出人や受取人、発送日、受取日などを郵便局が証明してくれる制度です。内容証明郵便自体に法的効力が発生するわけではありませんが、訴訟などにおいて有効な証拠として扱われます。また、相手に心理的なプレッシャーをかけるという意味でも、内容証明郵便は有用です。
ただ,相手が内容証明を受領しない可能性も考えると,後述の調停を申し立てる方が確実です。
話し合いで決まらなかったら調停へ
話し合いをしたけれど条件がまとまらない、内容証明郵便を送っても相手から音沙汰がないようであれば、養育費請求調停を申し立てましょう。調停では、専門知識をもつ一般人である調停委員と裁判官から成る調停委員会を交えて、話し合いを行います。
調停委員会は、双方の収入や養育費がいくら必要になるかといった個別の事情を詳しく聴取して、解決案やアドバイスを提示します。双方が納得できる結論が得られれば、調停は成立し、調停調書が作成されます。不成立となった場合は、そのまま審判へと移行します。
もちろん、養育費については離婚調停の中で話し合うことも可能です。離婚調停の場合、不成立となったときは訴訟に進むことができます。
養育費に関する合意書は公正証書で残しておく
調停が成立すると調停調書が、審判が確定すると審判書が、訴訟で判決が下されると判決書が作成されます。しかし、こうした裁判所の手続きを経ずに、話し合いで取り決めをした場合、法的効力のある記録は残りません。
そのため、話し合いで合意に至った際には、公正証書を作成しましょう。公正証書は、公証役場で作成されるもので、二人以上の間で取り交わされた契約を証明する公文書です。
相手から取り決めた養育費が支払われない場合、調停調書や審判書、判決書などがなければ強制執行を行うことはできません。しかし、公正証書に「強制執行認諾文言」を付けておけば、裁判所の手続きを経ずに強制執行を行うことが可能になります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を請求する方(権利者)
父母のうち、養育費を請求する方(=子供を監護している方)の親のことを権利者といいます。ここからは、権利者の方からよくいただく質問について回答します。
公正証書もあるのに、相手が養育費を払わない・払ってくれなくなった
公正証書に「強制執行認諾文言」を付しているのであれば、強制執行(直接強制)によって相手の財産を差し押さえて、養育費を回収しましょう。
強制執行では、相手が所有している動産、不動産、債権を差し押さえることができます。債権とは、この場合では給料や預貯金などを指しますが、特に給料の差し押さえをおすすめします。
預貯金の場合、差し押さえた口座に入金されている分しか回収できません。また、一度の強制執行で回収できるのは、その時点で発生している未払い分のみです。
しかし、給料の場合、手取りの2分の1まで差し押さえが認められており、一度の手続きで先々の分まで差し押さえることができます。そして、相手の勤務先より毎月差し押さえ分の金額を振り込んでもらうことができるので、回収が容易になります。
強制執行の手続きには専門的な部分も多いので、検討されている方は弁護士にご相談ください。
一括で請求はできる?
相手が定期的に養育費を振り込むかわからない、相手と二度と関わりたくないといった理由から、養育費を一括請求したいという方もいらっしゃるでしょう。
結論からいうと、相手の合意があれば、一括請求をすることは可能です。ただし、養育費は子供の日々の生活に充てるお金という性質上、月払いを原則としています。そのため、相手が一括払いを拒否して訴訟で争うことになったとしても、裁判所が一括請求を認めることはまずないと考えられます。
なお、一括請求の場合は総額が大変大きくなるため、贈与税が課されるおそれがあります。また、将来の事情変更による追加請求も基本的には認められないので、慎重に検討しましょう。
きちんと払ってもらえるか不安なので連帯保証人をつけたい
養育費の請求期間は、子供が幼いほど長期にわたるため、相手からの支払いが途切れることを恐れて、連帯保証人をつけたいと考える方もいらっしゃいます。
支払う側の人および連帯保証人となる人の両名が同意しているのであれば、養育費の請求について連帯保証人をつけること自体は可能です。
しかし、養育費の支払義務は、親から未成熟の子供への扶養義務に基づいて発生するものなので、本来であれば親以外の人間が負うべきものではありません。養育費の連帯保証債務は相続の対象とはなりませんし、連帯保証人が負う責任はとても重いものです。そのため、公証人や裁判官は、連帯保証人をつけることに対して否定的なことも多いのが現状です。
金額を決めた当初と事情が変わったので増額してもらいたい
養育費の取り決めをした後であっても、決めたときには予見できなかった事情変更が、当事者の責任の範囲外で起こった場合は、金額を変更できる可能性があります。
養育費の増額が認められやすい事情としては、以下のようなものが挙げられます。
- 子供が大怪我を負ったり、大病を患ったりしたために、高額な医療費がかかるようになった
- 権利者(子供を監護している方の親)がリストラに遭うなどして収入が減少した
- 義務者(子供を監護していない方の親)が転職・昇進して収入が増加した
- 子供が私立学校への進学を希望し、予定外に学費がかかるようになった
養育費を減額してほしいと言われた
相手から支払っている養育費を減額したいと言われたとしても、必ず承諾しなければならないというわけではありません。子供の生活費は減らしたくないと考えるのは、当然のことかと思います。
しかし、取り決め時から個別具体的な事情に相当な変更があり、取り決め時の条件のままでは公平とはいえないと裁判所に判断されてしまった場合は、減額が認められ得ます。減額が認められる事情の例は、次のとおりです。
- 義務者の収入がリストラなどを理由に減少した
- 権利者が就職し、収入が増加した
- 義務者が再婚して再婚相手との間に子供が産まれた
- 権利者が再婚して、再婚相手と子供が養子縁組をした
妊娠中の離婚でも養育費を受け取れる?
妊娠中に離婚をしても、離婚から300日以内に産まれた子供であれば、元夫に養育費を請求することができます。
300日より後に産まれた子供についても、元夫に認知をしてもらえれば、養育費を請求する権利は発生します。相手が認知すれば養育費を受け取れるのは、未婚で妊娠・出産した場合も同様です。
なお、相手が認知を拒否する場合、DNA鑑定等をもとに認知してもらう「強制認知」という法的手続きをとることもできます。
養育費を受け取りながら生活保護を受けることはできる?
養育費だけでは生活費が足りない場合、生活保護を受けること自体は何も問題はありません。もちろん、役所に養育費を受け取っている旨を申告しないと、不正受給とみなされてしまうおそれがあるので、その点は注意しましょう。
相手から取り決めた養育費が支払われず、生活費が不足しているのであれば、まずは生活保護を申請する前に、強制執行といった手段を取ることを検討しましょう。
養育費はいらないので子供を会わせたくない
離婚後に、子供を監護していない方の親と子供が、定期的に会う機会を設けることを「面会交流」といいます。面会交流と養育費は全く別の制度なので、「面会交流を拒否するための交換条件として、養育費を受け取らない」という取り引きは、基本的に認められません。
もっとも、相手が子供に危害を加える可能性がある場合や、子供自身が面会交流を希望しない場合などは、面会交流を制限したり拒否したりできます。
養育費を払う方(義務者)
それでは、続いて養育費を支払う方(=子供を監護していない方)の親である義務者の方からよくいただく質問について回答します。
増額請求をされたが、応じなければならない?
相手から増額請求をされて断りたいという思いがあっても、取り決め時より大きな事情変更があれば、認められてしまう可能性はあります。増額の幅をなるべく小さくするためにも、調停等では誠実に対応し、増額が難しい理由をしっかりと主張しましょう。
自分の生活が大変なので減額したい
リストラや疾病など、予期しない出来事を理由に収入が減少してしまい、自身の生活に影響がある場合は、相手に養育費の減額請求をしましょう。
また、離婚してしばらく経ってから再婚するケースもあるでしょう。再婚相手の連れ子と養子縁組をしたり、再婚相手との間に子供が産まれたりして、扶養家族が増えた場合も事情変更となるので、減額が認められる可能性は高いです。
養育費を払わず(払えず)にいたら強制執行をされた
養育費の支払いを怠り続けると、相手が強制執行を申し立ててくる可能性があります。養育費を支払うことは親としての責務ですので、転職や口座変更といった場当たり的な対処で、強制執行の回避を試みることはやめましょう。
どうしても支払えない理由があるならば、相手にしっかりと事情を説明して、強制執行を取り下げてもらうよう説得するしかありません。また、支払えなくなるような事情変更があれば、養育費の減免が認められる可能性があるので、裁判所で申立ての手続きを行いましょう。
離婚した相手が生活保護を受けているので、養育費を減額してほしい
生活保護は、親族等から十分な援助を得られない場合に受けられる制度です。相手も養育費という収入があると申告したうえで、生活保護費をもらっているはずです。
相手が生活保護を受けているからといって、子供への扶養義務はなくならないので、養育費を減額請求することは難しいでしょう。
養育費は扶養控除できる?
扶養控除は、離婚等により別居している子供に対しても適用できます。
ただし、16歳未満の子供については、児童手当が支払われる関係で扶養控除は適用外となります。また、養育費を一括払いした場合は、扶養控除の対象として認められないので注意しましょう。
自己破産したら養育費を支払わなくてもいいですか?
自己破産したからといって、親としての責任がなくなるわけではありません。つまり、自己破産を理由として養育費の支払義務から逃れることはできません。これは,破産法上も非免責債権として明確に定められています(破産法第253条第4号ニ)
もっとも、実際に養育費を支払い続けるのは困難な状況でしょうから、減額請求をすれば認められる可能性はあるでしょう。
養育費について困ったことがあったら、弁護士への相談がおすすめ
養育費について押さえておくべきポイントを解説しましたが、いかがでしたか。養育費を請求する側も支払う側も、それぞれ異なるお悩みを抱えていることかと思います。
養育費は、子供が成長するために必要となる費用です。子供の利益を最優先にすることを念頭に、相手と取り決めをしていくべきですが、様々な事情によりお互いの主張が衝突してしまうこともあるでしょう。
養育費について問題が発生したときは、法律の専門家である弁護士へ相談しましょう。弁護士法人ALGは、これまでに多数のご相談をいただいており、離婚問題の解決のノウハウを構築してきました。ご依頼者
様ひとりひとりに丁寧に向き合って解決策を提案させていただきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)