
監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
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荷待ち時間とは,トラックドライバーが運搬した荷物の積み込みや荷下ろし等,荷主や物流施設の都合によって待機する時間のことです。時には数時間に渡る荷待ち時間が発生することもあり,物流・運送業で長時間労働の一因として問題視されてきました。
会社によっては,荷待ち時間を休憩時間として扱う所もありますが,荷待ち時間の取り扱いを間違えると,違法となるケースも多く,注意が必要です。
本ページでは,荷待ち時間の取り扱いと注意点について紹介します。
目次
トラックドライバーの荷待ち時間は休憩時間となるのか
荷待ち時間は,運転をしていない時間であるからと,労働時間ではなく,休憩時間として扱っている運送会社は少なくないと思います。
しかし,結論として荷待ち時間は殆どの場合が労働時間とみなされる可能性が高いです。
労働基準法上の労働時間とは,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされているところ,荷待ち時間というのは,いつ自分の車の積み込みや荷下ろしが始まってもいいように待機している状態,即ち,時間的にも場所的にも拘束されて使用者の指揮命令下に置かれている状態ですので,労働時間とみなされることが殆どなのです。
安易に荷待ち時間を休憩時間として扱ってしまうと,違法な時間外労働につながる等,大きなリスクを抱えることになりますので,十分に注意してください。
荷待ち時間が休憩時間か判断する基準
荷待ち時間が労働時間なのか,休憩時間なのかを判断するには,ドライバーが使用者の指揮命令下に置かれているのか,具体的には,一定の場所や時間に拘束されているのか否かで判断する必要があります。
具体的には,以下のような判断基準を基に判断するといいでしょう。
①車両から離れられるか
例えば,いつ,自分の車を動かしてもいいようにドライバーが車の中で待機する必要があるのであれば,その時間は場所的に拘束されているので,労働時間となります。危険物や高価品を積んでいる等の理由で車を離れることができない場合も同様です。
他方,ドライバーが自分の車を離れて好きな場所にいてよいのであれば,休憩時間として扱うことができる余地があります。
②決められた作業がないか
例えば,荷待ち時間中に他のドライバーの手伝いをする必要がある等,何かしら決まった作業がある場合は,その時間は労働時間となります。先ほどの例のように,危険物や高価品を積んでいて車から離れることができない場合も,それは積載物を監視する,という作業をしていることになるので,労働時間となります。
③作業開始の時刻は決まっているか
例えば,積み込みや荷下ろしの時間が午後1時から,と決まっており,それまではドライバーが自由に時間を使っても良いのであれば,その時間は休憩時間と認められる可能性があります。
荷待ち時間の記録の義務化と目的
前述のとおり,荷待ち時間は会社が休憩時間と勘違いして扱っていることが多く,これがドライバーの長時間労働やサービス残業の温床となり,大きな問題となっていました。そこで,国土交通省が荷待ち時間を含むドライバーの労働の実態を把握し,長時間労働を是正するために,貨物自動車運送事業輸送安全規則に定める乗務記録の内容等を改正し,ドライバーの乗務記録及び保管を義務付けました。
具体的には,車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上のトラックに乗務した場合に,ドライバーごとに①集貨又は配達を行った地点(集貨地点等),②集貨地点等に到着した日時,③集貨地点等における荷積み又は荷卸しの開始及び終了の日時,の3点を記録し,1年間保管することを義務付けています。
詳細については,下記URLをご確認ください
貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正する省令の公布について(国土交通省HP)荷待ち時間や休憩時間の管理を怠った場合の問題点
荷待ち時間や休憩時間の管理を怠ったり,誤って管理していると,違法残業や長時間労働,未払残業代発生等のリスクが数多くあります。
以下,労働時間の管理がなされなかった場合に発生しうるリスクについて説明します。
詳細について知りたい方は,下記リンクもご参照ください。
労働者の健康被害による重大な交通事故
長時間労働が続くと,当然労働者の健康にも支障が生じます。睡眠不足や過労によって当然業務のパフォーマンスが落ちることになりますし,最悪,過労死といった取り返しのつかない事態も生じることにつながります。
また,ドライバーは車を運転することが仕事ですが,睡眠不足や過労によって,重大な交通事故を起こしてしまう等のリスクも生じます。ドライバーの従業員が交通事故を起こした場合,会社も使用者責任(民法715条1項)に基づいて賠償責任を負うことになるため,決して他人事ではありません。
事故の規模によっては,莫大な賠償義務を負う可能性もあるため,こうしたリスク回避のためにも,ドライバーの労働時間管理は急務の事項となります。
未払い残業代の請求
所定労働時間を超えて労働した分については,会社は残業代を支払わなくてはいけません。もしも,労働時間の管理を行ったことにより,正しい労働時間に基づいた給与や残業代を支払っていなかった場合,従業員から未払残業代の請求をされる可能性があります。
残業代は,通常の賃金の1.25倍の支払いが必要となるほか,未払残業代については遅延損害金も発生してしまう為,長期間に渡って未払残業代が発生している場合,思わぬ支出を余儀なくされることも少なくありません。
また,未払残業代のトラブルが発生すると,他の従業員にも波及し,芋づる式に残業代を請求されることにもつながるので安易な早期和解をすることも困難な事情があります。
そのため,未払残業代のトラブルを防止するためにも,労働時間の適正な管理が必要となります。
労働基準法違反による罰則
労働時間の管理を怠ってしまうと,36協定に違反した残業をさせてしまう可能性もあります。
36協定に違反した場合,労働基準法違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働基準法119条1号)。
また,厚生労働省や県の労働局ホームページ内に36協定違反の事実が公表されてしまう可能性がありますので,社会的な信用低下にもつながってしまいます。
そのため,36協定に違反しないためにも,労働時間の管理を徹底するようにしましょう。
運送業の時間外労働の上限規制がはじまる(2024年~)
2024年4月1日より,運送業の時間外労働の上限について年間960時間の規制が設けられます。
いわゆる働き方改革の一環としての労働基準法の改正により,2019年以降は労働時間の上限規制が設けられていましたが,人手不足等により時間外労働が常態化していた運送業等の業種では,この上限規制については5年間の猶予期間が設けられていました。
しかし,2024年4月1日はこの猶予期間が終了し,運送業についても年960時間の時間外労働の上限規制が課されることになります。
当然,本ページで紹介した荷待ち時間についても,基本的には労働時間になりますので,会社は,より一層ドライバーの勤怠管理や労働環境の改善を進めていく必要があります。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
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