監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
主婦の方が交通事故で負った怪我が後遺障害として認められた場合、逸失利益を請求できる可能性があります。しかし、一般の方では「逸失利益」とはどのようなものなのか分からない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
逸失利益は専業主婦であっても、主夫、兼業主婦であっても家事労働に支障が出る場合に請求することが可能です。
この記事では、逸失利益とは何か、計算方法や注意点について解説していきます。
目次
主婦の逸失利益は認められるのか
まずは、「逸失利益」とは何かを見ていきましょう。
●逸失利益とは、交通事故による後遺障害や死亡が原因で得られなくなったであろう減収分・将来の収入のことです
減収分・収入と聞いて、本来収入を得ていない主婦の方は請求できるのか不安な方もいらっしゃるかもしれません。しかし、主婦の方であっても逸失利益を請求することができます。
これは、家事労働が立派な「仕事」であると認められているため、逸失利益が発生するということです。
もっとも、逸失利益を請求するためには、「後遺障害等級」に認定されていることが前提となるので、注意しましょう。
主婦・主夫の逸失利益の計算方法
では、主婦の逸失利益はどのように計算するのでしょうか。
以降からは、
・専業主婦の場合
・兼業主婦の場合
・高齢主婦の場合
に分けてそれぞれについて解説していきます。
専業主婦の場合
逸失利益には、被害者に後遺障害が残った場合の逸失利益(後遺障害逸失利益)と被害者が死亡した場合の逸失利益(死亡逸失利益)があります。
それぞれの計算式は以下のとおりです。
●後遺障害逸失利益
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
●死亡逸失利益
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数
専業主婦は収入がないため、「基礎収入」をどのように算出するか不安な方もいらっしゃるかもしれません。
専業主婦の基礎収入は、性別・学歴別・年齢別等の平均賃金(年収)を集計したデータ(賃金センサス)をもとに算出します。
主婦の場合は一般的に、症状固定した年度または死亡した年度における女性の全年齢平均賃金を基礎収入とします。
専業主夫の場合の基礎収入はどうなる?
専業主夫の方あっても基礎収入については男性ではなく、女性の全年齢平均賃金を使用します。
「主夫として男性であるのになぜ女性の平均賃金を用いるのか?」と疑問に思う方もいるでしょう。これは、家事労働の重さは男女で変わるものではないと考えられているため、主夫にだけ高額な男性の平均賃金を用いるのは不公平となってしまうためです。
そのため、性別による格差を無くす観点から、基礎収入は女性の平均賃金を用いて男女同額にする取扱いになっています。
兼業主婦の場合
兼業主婦の方であっても、逸失利益の計算式は専業主婦のものと変わりはありません。
ただし、兼業主婦は「仕事での実際の収入」と「家事労働の経済的対価」の2つの基礎収入があると考えられます。
しかし、逸失利益はどちらかについてしか請求できないのが基本となっています。つまり、労働者の逸失利益と主婦の逸失利益を同時に請求して、二重取りすることはできない仕組みになっていますので注意しましょう。
そのため、兼業主婦の基礎収入は「実際の収入」または「賃金センサス女性の全年齢平均賃金」のいずれか高い方が用いられます。まずは、ご自身の実収入が女性の全年齢平均賃金よりも高額になるのか、いちど確認してみましょう。
基礎収入には家事労働分が加算されないの?
仕事と家事労働を行っている兼業主婦の方は、事故によって、仕事と家事の両方に支障が出るため、実収入と家事労働の基礎収入を合算して計算してほしいと思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、基本的に実収入に家事労働分を合算することはできません。
これは、兼業主婦は仕事がある以上、専業主婦よりも家事労働の質や量が少ないと考えられるためです。その結果、実収入での逸失利益と家事労働での逸失利益の両方を受け取ることは、不合理だとして、どちらか高額になる方のみを請求することになります。
高齢主婦の場合
高齢主婦であっても、逸失利益の計算式は主婦の場合と同じです。
●後遺障害逸失利益 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
●死亡逸失利益 基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数
ただし、高齢主婦の場合の基礎収入は、女性の全年齢平均賃金ではなく、年齢別の平均賃金または、全年齢平均賃金から何%か差し引いた金額を用いるのが一般的です。
これには、高齢主婦は病気や体力の低下などから、通常の主婦より家事労働力が低下すると考えられるためです。
労働能力喪失率
労働能力喪失率は、後遺障害によって、どの程度労働に支障が生じるかを示した数値です。認定された後遺障害等級に応じて数値が決まっています。より重い後遺障害が残った場合ほど、労働能力喪失率も高くなります。
労働能力喪失率は、後遺障害と職業内容や生活状況を照らし合わせ、増減することもありますが、交渉の段階では、以下の表の数値を用いることが一般的です。
労働能力喪失期間とライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、労働能力が失われる期間のことをいい、症状固定日から67歳までの期間のことを指します。この「67歳」という年齢は、就労可能と見込まれる年数のことで、職業や健康状態などによって延長・短縮される可能性もあります。
また、67歳が間近であったり、67歳を超えていたりする高齢主婦の場合は、67歳までの期間と、平均寿命の2分の1の期間を比べ、どちらか長い期間を労働能力喪失期間とします。
ライプニッツ係数とは、本来段階的に受け取るべき賠償を一括で受け取ることによって、本来よりも余計に発生した利益を差し引くための係数です。労働能力喪失期間に応じてライプニッツ係数の数値が決まっています。
これは、逸失利益を一括で受け取ることによって、預金の利息などの利益が生じるため、加害者との公平を図るために、そのような利益を賠償から差し引いて考えようという仕組みです。
生活費控除について
生活費控除とは、被害者が死亡したために、不要となった生活費を差し引くことです。死亡事故の場合、将来の収入が無くなってしまう一方で、亡くなってしまった被害者は生活費がかからなくなります。そのため、要らなくなった生活費を利益と考え、賠償金から差し引くことになります。
生活費の控除率は、被害者が家族内でどのような立場にいたかによって下表のように定められています。
一家の支柱の場合かつ被扶養者1人の場合 | 40% |
---|---|
一家の支柱の場合かつ被扶養者2人以上の場合 | 30% |
女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 | 30% |
男性(独身、幼児等を含む)の場合 | 50% |
もっとも、上記の表は目安であるため、被害者の年齢や生活状況によって増減する可能性も考えられます。
主婦の逸失利益に関する解決事例・判例
主婦(夫)としての適切な後遺障害逸失利益と後遺障害等級14級が認定された事例
被害者が片側二車線の道路の左側を走行中、相手方車両が路外駐車場から道路内に進入し、衝突した事故です。依頼者が主夫であったことから、その後の対応に不安があり、ご相談いただきました。
担当弁護士は、症状固定後に後遺障害等級認定の申請と並行して傷害部分の示談交渉を行いました。当初、相手方保険会社は依頼者が主夫であるため、休業損害は認められないと主張してきましたが、担当弁護士が主夫業の実態を粘り強く説明し、また同居の事実を立証するため資料を収集し、説明したところ、主夫としての休業損害が認められました。
後遺障害等級については、14級9号が認められ、粘り強く交渉を続け、主夫であることが認められた結果、最終的に約288万円の賠償金を獲得することができ、依頼者にも満足いただける結果となりました。
後遺障害等級12級と専業主婦の逸失利益が認められた事例
依頼者(専業主婦)が事故により、一定期間の通院治療を受け、残存した症状について後遺障害等級12級13号が認定されました。
しかし、相手方からの賠償案は後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間がわずか5年で計算されていました。依頼者は賠償案に納得できず、当事務所にご依頼いただきました。
担当弁護士が、依頼者から治療経過等の事情を聴取したところ、事故によって負った怪我により、専業主婦である依頼者には、長期間、家事労働への支障が生じていました。
そこで、担当弁護士は、診断書等の医療記録の内容を整理して、治療期間中長きにわたって依頼者の家事労働に支障が生じていたこと、後遺障害による労働能力の低下が大きいことなどを主張し交渉していきました。
その結果、逸失利益は14年分が認められ、最終的に既払い分を除いて約800万円の賠償金を支払ってもらう内容の示談が成立しました。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
主婦の逸失利益についてご不明点があれば弁護士にご相談ください
主婦(夫)の逸失利益は示談交渉でも争いになりやすい項目で、相手方保険会社は適切ではない金額を提示してくることも珍しくありません。
主婦(夫)の方が事故により後遺障害が残ったり、死亡してしまったりした場合、家族の生活にも大きな影響を与えるため、しっかりと適正な金額を請求することが大切です。
しかし、一般の方では、逸失利益の計算式は難しく、相手方保険会社の提示する金額が適切であるのか、判断は難しいでしょう。
そこで、主婦(夫)の逸失利益については、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは交通事故に詳しい弁護士が多数在籍しており、交通事故に精通した弁護士だからこそ、被害者の立場に応じて適切な逸失利益を算出し、相手方保険会社と交渉していくことができます。
また、相手方保険会社との交渉をすべて任せることができるため、主婦(夫)の方は家事労働に専念することができると共に、適切な示談金を受け取ることができる可能性が高まります。
私たちは、被害者の方ひとりひとりの状況に合わせ、丁寧にヒアリングし、対応いたします。
主婦(夫)の逸失利益でお困りの方は、無料相談なども行っていますので、お気軽にご相談ください。
-
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)