監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
不運にも交通事故の被害に遭ってしまうと、怪我を負って病院に通わなければならなくなったり、病院通いの間は仕事を休まなければならなくなったり、車の修理費がかかったり、精神的にもダメージを負ったり……と、実に様々な損害を受けることになります。これまでの生活が一変してしまって、大きな不都合を感じる方も少なくありません。
加害者には十分な償いをしてもらいたいところですが、そのためにはまずご自身が交通事故の損害賠償について理解しておくことが大切です。本ページで解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
目次
交通事故の損害賠償とは
交通事故における損害は、「人身損害(人的損害)」と「物的損害」の2つに大きく分けられます。
人身損害とは、人の生命や身体に危害が加わることによる損害のことをいいます。一方、物的損害とは、車やガードレールが壊れるなど、モノに対する損害のことをいいます。これらの損害には、損害の種類や性質によって分類された細かい費目が含まれています。
交通事故の損害賠償の場面では、それぞれの損害のうち当てはまる費目を洗い出して、費目ごとに金額を算出し、すべてを合計した額を「損害賠償金(示談金)」として相手に請求することになります。
慰謝料との違い
よく慰謝料のことを、交通事故の被害に遭った際に受け取れるお金の総称と認識されている方がいらっしゃいますが、それは間違いです。慰謝料とは、あくまでも損害賠償金に含まれる費目のひとつなので、正確に覚えておきましょう。
損害賠償金と慰謝料の違いについて、詳しくはこちらをご覧ください。
交通事故の慰謝料 | 請求できる慰謝料の種類や基準損害賠償の対象になるもの
それでは、ここからはどのようなものが損害賠償の対象となるのか確認していきましょう。
まずは、人身損害についてです。人身損害は、さらに「精神的損害」と「財産的損害」の2つに分けられます。
精神的損害
交通事故の被害に遭うと、その出来事がトラウマとなったり、怪我で入院しなければならないことに苦痛を感じたり、後遺症で以前のように身体が動かないことにショックを受けたりと、身体だけでなく心にも大きなダメージを受けます。また、事故で被害者が亡くなられた場合、その親族の方の悲しみは計り知れません。
こういった精神的な苦痛も損害のひとつと考えられており、「精神的損害」として損害賠償の対象となります。この精神的損害に対しては、「慰謝料」によって賠償することとなっています。
慰謝料には3種類あり、入通院した場合に受け取れる「入通院慰謝料」、後遺障害の認定を受けた場合に受け取れる「後遺障害慰謝料」、死亡した場合に受け取れる「死亡慰謝料」があります。
財産的損害
交通事故の被害者には、金銭的な損害も多く発生します。これを「財産的損害」といい、「積極損害」と「消極損害」に分類されます。
積極損害とは、事故の被害を受けて実際に支払ったお金、および将来的に支払いが必要になるお金のことをいいます。
一方、消極損害とは、事故に遭うことがなければ得られるはずであった収入や利益のことをいいます。
それぞれにどのような費目が含まれるか、具体的にみてみましょう。
積極損害にあたる費目
積極損害にあたる費目は、様々な種類があります。ここでは、代表的なものを紹介します。
〇治療関係費
事故で負った怪我を治療するために要した費用のことです。病院の診療費や入院費はもちろん、医師の指示があった場合は、鍼灸やマッサージ等の施術費も含まれます。
〇付添看護費
怪我の程度や被害者の年齢によっては、入院や通院の際に付き添いが必要になることがあります。また、重度の後遺障害が残った場合、将来的に自宅等での付き添い介護も必要になります。近親者や職業付添人による付き添いを要するケースで、この費目は請求できます。
〇通院交通費
通院にかかった電車代やバス代といった交通費のことです。自家用車で通院した場合は実費ではなく、ご自宅と病院の距離から計算して請求することができます。なお、徒歩や自転車で通院していた場合は請求することはできません。
〇装具・器具購入費
義手、義足、車いす、介護ベッド、メガネ、補聴器等の購入にかかった費用のことです。
〇家屋等改造費
後遺障害のために、バリアフリー化目的で自宅や自動車等を改築・改造をした際の費用も請求できます。
〇葬儀関係費
葬儀費用の他に、仏壇・仏具の購入費、墓碑建立費等が含まれます。
〇弁護士費用
弁護士に依頼をして裁判を起こした場合、判決で認められたその他の費目の総額の10%程度を、弁護士費用として相手に請求できます。
消極損害にあたる費目
消極損害にあたる費目には、「休業損害」と「逸失利益」の2つがあります。なかなか聞きなれない用語かと思いますので、以下で確認しましょう。
休業損害
事故により負った怪我の治療をするために、仕事を休まなければならない事態が発生するかと思います。仕事を休んだことで実際に減った分の収入は、「休業損害」として補償されます。
しかし、休む際に有給休暇を使用したため、実際の収入減は特にないケースもあるでしょう。この場合であっても、本来であれば使用せずに済んだ有給休暇を使用することになったとして、休業損害が認められます。
また、仕事をしていない専業主婦も、一見無収入のようですが、家事労働は金銭的に価値があると評価されているので、休業損害を請求することができます。
逸失利益
怪我が完治せずに後遺障害が残ってしまうと、その部位や程度によっては以前と同じように働くことが難しくなるかと思います。このように、事故による後遺障害のせいで労働能力が低下したために、得ることができない収入や利益を、「後遺障害逸失利益」といいます。
また、死亡した場合も、生きていれば働いて得られた収入があったはずなので、「死亡逸失利益」として遺族が賠償を受けます。
逸失利益は、事故前の年収や賃金センサスなどをベースにして計算するのですが、考え方がやや複雑なので、自身のケースでいくらになるか知りたい方は弁護士にお問い合わせください。
物損事故における損害賠償について
物損事故とは、“物”の損害のみで、怪我のない事故のことです。事故で自動車が壊れた場合に、物的損害として請求できるものには、次のような費目があります。
- 修理費
- 評価損(事故によって減少した市場価値の差額)
- 買い替え費用(修理費の方が時価額+買い替え費用より高額になる場合)
- 代車使用料(修理期間中に代車を使用した場合)
- 休車損(タクシー等の修理期間中に本来であれば発生したはずの収入分)
- レッカー代(事故車の移送にレッカーを使用した場合)
物損事故では、このように財産的損害の請求は認められますが、精神的損害については原則として認められません。つまり、どんなに大切にしてきた車が壊れてショックを受けたとしても、慰謝料を受け取るのは難しいということです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
損害賠償額に相場はある?
損害賠償金の相場についてよくお問い合わせをいただきますが、残念ながら相場を出すのは難しいとお答えせざるを得ません。というのも、上述のとおり損害賠償金には様々な費目があり、全員がそのすべてを受け取れるわけではなく、該当する費目のみを個別に算出してから合算する必要があるためです。
特に、事故直後や治療途中のタイミングで相場のお問い合わせをいただいた場合、後遺障害が残るかどうか確定していないため、後遺障害慰謝料や逸失利益などをそもそも受け取れるのかが不明となってしまうのです。
使用する算定基準によっても損害賠償額は大きく変わる
慰謝料などの費目を算出する際には、以下の3つある算定基準のうち、どれかを使用することになります。どの算定基準を使用するかによって金額は大きく変わってくるため、最終的な損害賠償額にも大きく影響します。
- 自賠責基準…強制保険である自賠責保険における支払い基準。被害者救済目的の保険であるため、補償額は最低限度に留まる。
- 任意保険基準…任意保険会社が独自に定めている支払い基準。自賠責基準で算出した金額よりもやや高額になる。
- 弁護士基準…弁護士が交渉や訴訟の場で使用する基準。過去の交通事故の裁判例をもとに定められており、裁判基準とも呼ばれる。3つの基準の中で最も高額となる。
損害賠償請求の流れ
損害賠償請求は、損害の内容が確定してから行うのが鉄則です。つまり、事故で怪我をした場合は、「怪我が完治してから」、もしくは「症状固定※と診断されてから」でなければ、示談交渉をスタートすべきではありません。なお、症状固定と診断され、後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定の申請をして、その結果を待ちましょう。
損害が確定したら、いよいよ示談交渉です。交渉でお互いが合意できれば、そこで示談成立となります。
しかし、提示された条件に納得できない場合は、ADR(裁判外紛争解決手続)の利用や、調停・裁判といった法的手続きに移行することを検討する必要があります。どの方法を選択するのが最適かは、ケースによって変わってきますので、弁護士に相談することをおすすめします。
※それ以上治療を継続しても効果が見込めない状態
自賠責保険に請求する方法
自賠責保険への請求方法には「加害者請求」と「被害者請求」の二通りがあります。
2つの違いは、自賠責保険会社に保険金を請求するタイミングとその方法です。
加害者請求は、加害者(の任意保険会社)が被害者に対して損害賠償金を支払った後に、負担した分を請求します。
被害者請求は、被害者自身(または代理人弁護士)が直接請求します。加害者や加害者側の任意保険会社を介さないのが特徴といえます。手続きは煩雑であるものの、示談成立を待たずに自賠責分の保険金が受け取れるというメリットがあります。
損害賠償請求に時効はある?
交通事故の被害者が、損害賠償を請求する権利には時効があります。時効が成立すると損害賠償金を受け取ることができなくなるので、十分に注意しましょう。
【物損事故】
交通事故の加害者および損害を知った時の翌日から3年
【人身事故】
- 通常…事故日の翌日から5年
- 後遺症が残った場合…症状固定日の翌日から5年
- 死亡した場合…死亡日の翌日から5年
※加害者不明の場合:事故日の翌日から20年
後から加害者が判明した場合:「事故日の翌日から20年」 or 「加害者および損害を知った時の翌日から5年(物損は3年)」のどちらか早い方
損害賠償額の減額要素
損害賠償金は、自身に該当する費目を単に積み上げて計算した額を、そのまま受け取れるとは限りません。実際には様々な理由によって、減額調整が加えられます。
ここでは、減額要素として知っておきたい「過失相殺」と「素因減額」についてご説明します。
過失相殺
示談交渉の場では、当事者双方に事故に対する落ち度がどの程度あったかをはっきりさせるため、「過失割合」を定めます。もらい事故を除いて、大抵の事故で被害者にも何割か過失割合はつきます。
過失割合が決まると、被害者と加害者それぞれの損害額に過失割合を乗じて、それぞれが相手に請求する金額を算出します。被害者の請求金額と加害者の請求金額の差額が、実際に被害者が受け取れる分となりますが、こうした処理のことを「過失相殺」といいます。
被害者であっても過失割合を高く設定されてしまうと、最終的な損害賠償金は少なくなってしまうのです。
素因減額
事故の損害が発生・拡大する原因に、被害者に事故前からある既往症や、精神的・身体的特徴が影響を及ぼしている場合、一定の割合で賠償額が減額されます。これを「素因減額」といいます。
素因には、「心因的素因」と「身体的素因」の2種類があります。
【心因的素因】
被害者の性格や精神的傾向などを指します。
例えば、もともと鬱病を患っており、怪我の他覚所見はないものの、自覚症状の訴えが長引いているケースでは、素因減額の対象となる可能性があります。
【身体的素因】
被害者の既往症や身体的特徴のことです。
例えば、もともと腰椎椎間板ヘルニアと診断されており、事故により腰痛が悪化したケースでは、ヘルニアによる影響を考慮して素因減額がなされます。
加害者が損害賠償金を払えない場合
加害者が任意保険に加入していないとき、損害賠償金はどうなるのでしょうか。この場合、通常であれば自賠責保険には加入しているでしょうから、そちらに保険金を請求します。
ただし、自賠責保険から受け取れる保険金には限度額があるので、損害に見合った額は受け取れない可能性があります。不足分については加害者本人に請求することになりますが、任意保険に加入していない人は、資力が不十分なことが多いため、回収はあまり期待できません。
最も確実なのは、被害者自身が加入している任意保険に請求することです。「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」、「無保険車傷害保険」といった特約を付けていれば、不足分を補填することができます。
その他の対処法としては、「健康保険を使用して治療費を抑える」「勤務中・通勤中の事故であれば労災保険を適用する」「加害者の雇用者や加害車両の管理者に請求する」といったことが挙げられます。
弁護士に依頼することによって適正な損害賠償を受けられる可能性が高まります
交通事故の損害賠償金には、実に様々な費目が含まれています。自身の損害に当てはまる費目については、取りこぼしのないようにしたいところですよね。しかし、費目の種類が多いうえに、それぞれの金額の算出方法は複雑なので、相手の任意保険会社から提示された金額が適正なのか、自分で判断するのは難しいかと思います。
弁護士に依頼をすれば、依頼者の損害に当てはまる費目を正確に洗い出すことができますし、何より弁護士基準をもとに算出するため、受け取れる賠償金の額が上がる可能性が高まります。そして、事務的な手続きや、相手との交渉もすべて弁護士が請け負うため、依頼者は怪我の治療に専念することができます。
弁護士法人ALG千葉法律事務所には、交通事故問題や医療問題に詳しい弁護士が在籍しております。お困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)