不貞慰謝料とは 慰謝料相場と請求方法

離婚問題

不貞慰謝料とは 慰謝料相場と請求方法

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶

監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士

配偶者がいるにもかかわらず、不倫や浮気といった不貞行為をするのは貞操義務違反であり、離婚の原因にも成り得ます。配偶者の不貞行為が発覚した場合、配偶者や不貞相手に対する“慰謝料請求”が問題になってきます。
このページでは、不貞慰謝料請求を考えている方・請求されている方の双方に向けて、不貞慰謝料について知っておくべきことを解説します。

不貞慰謝料とは

不貞慰謝料とは、一方の配偶者による不貞行為によって、他方の配偶者が受けた精神的な苦しみに対して支払われる金銭のことです。不貞をした配偶者のほか、当該配偶者と不貞に及んだ相手に対して請求することができます。
不貞行為とはいわゆる不倫や浮気のことですが、慰謝料請求の場面では、基本的には、特に性行為やそれに準ずる行為のことを指します。

不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い

不貞慰謝料は、配偶者と第三者による不貞行為があった場合に問題となる慰謝料です。一方、離婚慰謝料は、配偶者による有責行為が原因で離婚に至った精神的損害について問題となるものです。有責行為は不貞行為に限らず、DVやモラハラ等も該当します。
不貞慰謝料は離婚に至らなかったとしても請求できますが、離婚慰謝料は、離婚に至る場面において問題となるという点で異なります。

不貞行為に対する慰謝料の相場

不貞慰謝料の金額は法律で決められているわけではなく、ケースによって様々です。強いて言えば50万~300万円程度の範囲で収まることが多いですが、請求された側の年収が高い場合等はそれ以上となることもありますし、帰責性の程度等様々な事情でそれより低い金額になることもあります。
金額を決める要素として、不貞行為が原因で別居や離婚に至ったかという点も影響してきます。一般的には、夫婦が不貞行為後も離婚をせず同居を継続したケースに比べ、離婚に至ったケースの方が慰謝料は高額になる傾向にあります。

不貞慰謝料額の判断基準

裁判で不貞慰謝料の金額を決める際に考慮される事情としては、次のようなものが挙げられます。

  • 不貞行為以前に夫婦関係が破綻していたかどうか
  • 不貞行為が行われていた期間や回数
  • 夫婦の婚姻期間
  • 夫婦の年齢
  • 夫婦の間に子供がいるかどうか
  • 子供の人数や年齢
  • 不貞行為の結果、別居や離婚に至ったか否か
  • 不貞行為に対する反省や謝罪の有無

ただし、不貞行為があった時点ですでに夫婦関係は破綻していたと判断されると、低額の慰謝料しか請求できなかったり、場合によっては請求自体が認められなかったりすることもあります。

不貞慰謝料を請求したい方

ここからは、不貞慰謝料を請求したい方に向けて、集めるべき証拠や具体的な慰謝料請求の方法などについて解説していきます。

不貞慰謝料は誰に請求できる?

不貞行為の責任は、通常は配偶者と不貞相手の両方にあります。そのため、不貞慰謝料は両者に対して請求することができますし、どちらか一方のみに請求することもできます。
ただし、慰謝料は二重取りできないことには注意が必要です。

不貞慰謝料を請求する前に確認すべきこと

配偶者の不貞行為が発覚したら、気が動転してしまうのも無理はありません。しかし、感情的になって慰謝料を請求する前に、以下のことを準備・確認しておくと良いでしょう。

  • 不貞行為の証拠を集める
  • 不貞相手の名前および住所や電話番号といった連絡先を調べる
  • 慰謝料請求権の消滅時効が成立していないか確認する

なお、慰謝料請求権の時効については、以下の章で詳しく説明します。

証拠になるもの

ここでは、不貞行為の証拠の例をいくつか挙げて説明しますので、参考にしてください。証拠は複数集めることで、慰謝料請求の交渉や裁判をより有利に進められる可能性があります。

写真・動画
配偶者と不貞相手が性行為やそれに準ずる行為をしていることがわかる、または推測できる写真や動画はとても有力な証拠となります。
行為そのものを撮影した写真でなくても、ラブホテルに出入りしている様子と時間がわかれば、証拠として有効です。ただし、宿泊先がビジネスホテルや旅館等の場合は、判断が難しいこともあります。

メール・SNS
配偶者と不貞相手のメールやSNSにおけるやり取りで、性的関係にあることが推測できる内容のものがあれば、それも証拠になります。
配偶者と不貞相手のやり取りが発覚しているのであれば、それを撮影するなどの方法で保存しておくことが考えられます。

領収書
ラブホテルを利用したことがわかる領収書やクレジットカードの明細も入手できるのであれば、それも確保しておきましょう。

不貞慰謝料を請求する方法

不貞慰謝料を請求するには、まず相手に対して口頭や書面・メール等で請求する旨を伝えます。特に、不貞相手に請求する場合は、内容証明郵便を利用することも考えられます。
その後、配偶者や不貞相手との話し合いによって、慰謝料の金額等を取り決めることができたら、合意書や示談書を作成します。
話し合いで決着がつかなければ、慰謝料請求の調停や裁判を申し立てる方法もあります。配偶者に対する不貞慰謝料請求の場合において、配偶者と離婚を予定している場合は、離婚調停において不貞の問題について併せて話し合うこともできます。なお、不貞相手にのみ慰謝料を請求する場合は、調停の場で話し合うこともできますが、交渉で話し合いがまとまらなければ、実務上は裁判を起こすことの方が多いです。

内容証明郵便での請求について

内容証明郵便は、どのような内容の文書をいつ誰に送ったかということを郵便局が証明してくれるサービスです。不貞相手に慰謝料請求する場合だけでなく、配偶者と別居をしていて直接口頭で請求する機会を設けるのが難しい場合などにも利用するとよいでしょう。裁判において、相手方に対して請求した内容を証明する有力な証拠として扱われます。また、改まった文書で記録も残るので、相手に対して心理的な圧力をかけることもできるでしょう。
デメリットとしては、通常の手紙よりは費用が高いことと、謄本の1行の文字数や1枚の行数に制限があり、作成にやや手間がかかることが挙げられます。

内容証明郵便に記載する内容

内容証明郵便に記載する内容は、概ね次の項目を含むものになります。なお、不貞行為の内容については、自身が知っている範囲で記載すればかまいません。

  • 不貞行為があった事実(誰と誰がいつどこで不貞行為を行ったか)
  • 不貞行為によって自分が精神的な苦痛という損害を被ったこと
  • 不貞行為が不法行為に該当すること
  • 相手に損害賠償の責任があること
  • 配偶者と不貞相手の交際中止や接近禁止といった要求をする場合はその内容
  • 請求する不貞慰謝料の金額
  • 慰謝料の支払方法および期限
  • 期限までに支払わなければ、法的措置に移行するつもりでいること

離婚後でも慰謝料請求は可能?

離婚後であっても、時効が成立していなければ慰謝料を請求することは可能です。離婚慰謝料の請求権は、離婚成立から3年で消滅時効が成立します。3年以上経過した場合は、元配偶者が応じない限り請求することはできません。
不貞慰謝料についての消滅時効成立の期間は、次の2つの場合があります。

  • 不貞行為の事実と相手が誰かを知ったときから3年
  • 不貞行為の事実を知らなかった場合であっても、不貞行為があったときから20年

なお、離婚後に慰謝料請求をする場合は、不貞行為の証拠収集がかなり難しくなります。また、離婚合意書に「記載以外の金銭請求を行わない」旨が書いてあると、離婚後の請求は認められないので注意しましょう。

相手が慰謝料を支払わないときの対処法

相手が約束通りに慰謝料を支払わないときは、強制執行を行えば回収できる可能性があります。強制執行は、慰謝料について記載した公正証書※や調停調書、確定判決などがあれば申し立てることができ、相手の財産を差し押さえて強制的に支払いを実行させます。
差し押さえの対象は相手の動産・不動産・債権ですが、給与や預貯金といった債権を差し押さえることが多いです。

※「約束を破ったら強制執行を申し立てて構わない」という内容の“強制執行認諾文言”を記載する必要があります。

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不貞慰謝料を請求されている方

続いて、不貞慰謝料を請求されている方、特に配偶者ではなく不貞相手の立場にあたる方に向けて、対処法などを解説していきます。

慰謝料を請求されたらまず確認すること

突然慰謝料を請求する旨の通知が来たら、誰もが動揺することかと思います。しかし、慌てて相手の要求を受け入れる前に、冷静になって次のことを確認しましょう。

  • 請求者は誰か
  • 相手が主張している内容と事実に相違はないか
  • 交際相手が既婚者である事実を知っていたか
  • 交際相手の夫婦関係が、交際時点ですでに破綻していたかどうか
  • 請求内容に対する回答期限
  • 不当に高額な慰謝料を請求されていないか
  • 慰謝料請求の時効が成立していないか

内容証明郵便で請求された場合の対処法

慰謝料請求の通知は、口頭や電話で行われることもありますが、突然手紙や内容証明郵便が届くケースも多いです。内容証明郵便を送ってくるということは、相手も慰謝料の請求についてある程度調べて準備をしてきたことが予想されるので、慎重に対処する必要があります。

回答書を送付する

郵便物の記載内容を確認したら、すぐに請求通りの金額を支払うのではなく、まずは事実関係を確認して、それに対する回答書を送り返しましょう。内容証明郵便に記載されているのは、あくまでも相手の要望であり、法的効力があるわけではありません。
回答書には、次のような内容を記載しましょう。なお、返送の際は内容証明郵便を利用する必要はありません。

  • 相手の認識する事実が異なる場合はそれに対する反論
  • 不貞行為の事実を認める場合は謝罪の意
  • 慰謝料減額の要望
  • 話し合いを希望する場合はその旨

内容証明郵便を無視することは避けるべき

内容証明郵便に記載されている回答期限や慰謝料の支払い期限を過ぎたとしても、ただちに不利益となるわけではありません。
しかし、特に内容証明郵便を送ってきたということは、相手は訴訟も視野に入れているでしょうから、何らかの対応をとるべきと考えられます。真摯に向き合うことで、慰謝料を減額してもらえる可能性も出てきます。

代理人を通して請求されたら

内容証明郵便の差出人が、交際相手の配偶者ではなく、その代理人となっているケースもあります。代理人として考えられるのは、弁護士または行政書士です。
弁護士が代理人の場合、基本的には以後のやり取りは弁護士を介して行うことになります。弁護士は内容証明郵便の作成だけでなく、示談交渉や裁判手続きを代理することもできます。
つまり相手は、請求内容について交渉での解決が得られない場合には、訴訟も視野に入れている可能性があります。弁護士を相手に一般の方が対等に交渉するのは大変難しいでしょうから、あなたも弁護士に依頼することをお勧めします。
一方、行政書士が代理できる行為は、内容証明郵便の作成のみです。行政書士から内容証明郵便が届いた場合、相手は訴訟までは望んでおらず、当事者間で問題解決したいと考えているかもしれません。話し合いの場を設けるなどして冷静な対応を心がけましょう。

請求された慰謝料を減額するには

不貞行為をしたことは認めるけれど、請求された慰謝料の金額が高すぎて支払えないという場合、どうすればよいのでしょうか。

慰謝料を減額する方法

相手が提示してきた事実関係が立証されるようなケースでは、慰謝料を減額するためには、当事者間の話し合いの場で心から謝罪をしたうえで、あなたが実際に支払える金額を提示し、相手を説得するしかありません。資産がなく一括での支払いが難しければ、分割払いにさせてもらうよう頼みましょう。
協議が決裂してしまった場合、相手は裁判を申し立ててくる可能性があります。裁判を無断で欠席すると、反論の機会を失い、相手の主張どおりの判決が下されてしまうおそれがあるため、弁護士に相談のうえで対応しましょう。

慰謝料が減額されやすいケース

以下のようなケースでは、相手が請求する慰謝料よりも減額できる可能性があります。

  • 500万円を超える相場より遥かに高額な請求をされた
  • 交際相手に既婚者であることを隠されていた
  • 交際相手から夫婦関係はすでに破綻していると聞かされていた
  • 不貞行為の回数や交際期間が短い
  • 相手の提示する証拠の内容が不十分
  • 自身の資力がほとんどない
  • 請求相手に対して誠心誠意の謝罪をした

なお、交際相手の配偶者(請求者)があなたにしか慰謝料を請求していない場合、あなたは慰謝料を支払ったうえで、その金額のうちいくらかを交際相手に求償することができます。交際相手がそのまま婚姻関係を続けるのであれば、請求者と家計は同一のままなので、求償権を行使しない代わりに慰謝料を減額してもらうといった交渉をする余地があります。

合意後、慰謝料を支払わないとどうなる?

話し合いで慰謝料について合意した後、いつまでも支払わないでいると、相手が強制執行を申し立ててくるおそれがあります。示談書や合意書を公正証書のかたちで作成し、強制執行認諾文言も記載してあるのであれば、相手は行動に移す可能性が高いでしょう。
公正証書を作成していない場合であっても、相手が訴訟を提起する可能性があります。裁判を無視していても確定判決等が出れば、相手は強制執行を申し立てることができます。
もし強制執行で相手が給与を差し押さえてきたら、何か揉め事が起きていることが職場にも知れてしまいます。そのような事態を避けたい方は、早急に支払うか、分割払いにさせてもらうよう相手と交渉しましょう。

不貞慰謝料について悩んだら弁護士に相談してみましょう

配偶者に不貞行為をされてしまった方は、精神的に苦しい思いをされていることかと思いますが、なるべく冷静になって、相手に気付かれないよう十分な証拠を収集することが大切です。また、当事者間で話し合った内容はしっかりと公正証書に残しましょう。話し合いがこじれている場合や、配偶者との離婚も検討されている場合は、弁護士に依頼をした方がスムーズに解決できる可能性が高いと思われます。
不貞慰謝料を請求されてお困りの方は、必ず相手が把握している情報と事実に相違がないか確認しましょう。不貞行為をしてしまった場合は誠実な対応が求められますが、相手が被害感情から相場よりずっと高額な慰謝料を請求してきていることもあります。減額の余地があるかもしれないので、一度弁護士に相談してみましょう。

千葉法律事務所 所長 弁護士 大西 晶
監修:弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)
千葉県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。