監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
離婚の際、配偶者に対して「慰謝料を請求したい」とお考えの方も多いと思います。
ですが、離婚において慰謝料は必ずしも発生するものではありません。
離婚に至った経緯や、離婚したいと考えるきっかけとなった出来事によって、慰謝料が発生するかしないかが決まります。
そこで今回は、離婚慰謝料を請求したい方や、離婚を考えている方に向けて、【離婚慰謝料】について、請求できるケース・請求できないケースや、離婚慰謝料の相場を詳しく解説していきます。
離婚慰謝料を請求するうえで知っておきたいポイントも紹介していきますので、ぜひご参考になさってください。
目次
離婚慰謝料とは?
離婚慰謝料とは、離婚により精神的苦痛を受けた場合に請求することができる賠償金です。
離婚慰謝料は“離婚原因慰謝料”と“離婚自体慰謝料”の2つがありますが、実際に離婚慰謝料を請求する際は、明確に区分せずに慰謝料の金額を決めることが多いです。
離婚原因慰謝料 | 離婚の原因となった、配偶者の不法行為により生じた精神的苦痛に対する慰謝料 |
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離婚自体慰謝料 | 離婚そのものにより生じた精神的苦痛に対する慰謝料 |
離婚すれば必ず慰謝料が請求できる?
離婚慰謝料は、必ず請求できるわけではありません。
離婚の原因や責任が夫にある場合、妻が夫に慰謝料請求できますが、その逆もあり得ます。
また、どちらの責任とも言い切れない場合には、慰謝料が発生しない可能性もあります。
離婚慰謝料を請求できるケース
離婚慰謝料を請求できるのは、離婚の原因となった配偶者(=有責配偶者)の行為(=有責行為)により、婚姻関係を破綻させられて精神的苦痛が生じたと認められる場合です。
主に、次のようなケースがあてはまります。
- ①不貞行為
- ②DV・モラハラ
- ③悪意の遺棄
- ④浪費やギャンブルによる借金
- ⑤セックスレス
以下、ケースごとに詳しくみていきましょう。
不貞行為
不貞行為とは、婚姻関係にある者が配偶者以外の第三者と肉体関係を持つことを指します。
不貞行為は法律で認められる離婚原因にもなるため、不貞行為により離婚に至った場合は、不貞行為を行った配偶者に対して離婚慰謝料を請求することが可能です。
不貞行為の相手にも慰謝料を請求できる?
既婚者と知りつつ肉体関係を持った不貞相手には、“不貞慰謝料”を請求できる可能性があります。
ただし、不貞行為があったことを立証できない場合や、肉体関係を持つ以前に夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料請求できないこともあります。
DV・モラハラ
配偶者からのDVやモラハラが原因で離婚に至った場合も、離婚慰謝料を請求できる可能性があります。
家庭内でのDV・モラハラは、証拠を押さえることが難しい場合も多いので、次のような行為に心当たりのある方は、早めに弁護士に相談してみましょう。
【DV・モラハラに該当する行為の一例】
- 殴る、蹴る、物を投げつけるなどの身体的暴力
- 怒鳴る、無視する、侮辱する、脅すなどの精神的暴力
- 生活費を渡さない、外で働くことを拒否するなどの経済的暴力
- 性行為や中絶を強要する、避妊に協力しないなどの性的暴力 など
詳しくは以下の各ページをご覧ください。
DVが原因で離婚するときに用意するべき診断書について モラハラを理由に離婚できる?離婚する際に知っておくべきこと悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、夫婦が負う“同居義務”、“協力義務”、“扶助義務”を、正当な理由なく放棄することです。
悪意の遺棄は法律で認められる離婚原因にもなるため、配偶者の次のような行為により離婚に至った場合は、離婚慰謝料を請求することが可能です。
【悪意の遺棄に該当する行為の一例】
- 正当な理由なく一方的に別居する、家出を繰り返す
- 配偶者を家から追い出す
- 不貞相手と暮らしている
- 収入があるにもかかわらず、生活費を渡さない
- 働く能力があるにもかかわらず、働こうとしない
- 家事や育児に協力しない
- 看病が必要な配偶者の面倒をみない など
浪費やギャンブルによる借金
配偶者の浪費や、ギャンブルによる借金などで家庭の経済生活が破綻するほどで、法律で認められる離婚原因の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると認められるケースであれば、離婚慰謝料が認められる可能性はあります。
浪費や借金が酷くても、慰謝料請求できないことがある?
たとえば、次に挙げるような浪費しつつも生活が成り立っている場合や、婚姻関係や家庭生活の維持に必要な借金では、離婚慰謝料の請求は認められない可能性が高いです。
- 浪費やギャンブルの借金があっても、夫婦や家庭の生活が成り立っている場合
- 住宅ローンや車のローンなど、生活のために必要な借金
- 会社経営を維持するための借金 など
セックスレス
夫婦のどちらかが正当な理由なく、一方的に性愛的な触れ合いを長期間拒んでいるような状況で、セックスレスが婚姻を継続し難い重大な事由であると認められるケースであれば、離婚慰謝料が認められる可能性があります。
セックスレスでも、慰謝料請求できないことがある?
「性交渉できるのに1年以上拒否し続けられた」、「実は同性愛者だった」などの事情でセックスレスとなった場合は慰謝料請求できる可能性がありますが、次のようなケースでは、たとえセックスレスだったとしても慰謝料の請求は認められないことが多いです。
- そもそも夫婦双方が性愛的な触れ合いに消極的な場合
- 夫婦のどちらかが病気などで、性愛的触れ合いをしたくてもできない場合
- セックスレスの程度が軽い場合
- 妊娠中のセックスレスの場合 など
詳しくは以下のページをご覧ください。
セックスレスを理由に離婚はできるのか離婚慰謝料を請求できないケース
離婚慰謝料を請求できないケースは、慰謝料を請求したいとお考えの方に離婚の原因や責任がある場合や、夫婦どちらにも原因や責任がない場合です。
具体的には、次のようなケースがあてはまります。
- 性格の不一致
- 夫婦どちらにも有責行為がない
- 夫婦どちらにも、同程度の有責行為がある
- 健康上の理由
- 配偶者の親族との不和
- 信仰上の対立
- 不貞行為が行われる以前に夫婦関係が破綻していた
- 不貞行為が配偶者の自由意思によるものではなかった
- 慰謝料請求するための証拠がない など
離婚慰謝料の請求でのポイントは「不法行為の証拠」
離婚慰謝料を請求するうえで、重要なポイントとなるのが「不法行為の証拠」です。
不法行為とは、故意や過失によって他人に損害を与えることを指します。
離婚においては、配偶者の不貞行為、DV・モラハラ、悪意の遺棄、浪費・借金、セックスレスなどの、もう一方の配偶者に精神的苦痛を与える行為を指し、これらの事実は、慰謝料を請求する側で証拠を集め、証明しなければなりません。
基本的に、当事者間の話し合いで解決できる場合、不法行為の証拠は必要ないことも多いですが、調停や裁判となった場合は、配偶者の不法行為を客観的に証明する証拠が重要になります。
【不法行為別の証拠となり得るものの一例】
不貞行為 |
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DV・モラハラ |
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悪意の遺棄 |
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浪費・借金 |
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セックスレス |
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離婚慰謝料の相場
離婚慰謝料の相場は、だいたい100万~300万円程度といわれていて、離婚の原因となった不法行為によっても、次のように金額は異なります。
- 不貞行為が原因で離婚に至った場合 ・・ 200万~300万円程度
- DV・モラハラ、悪意の遺棄が原因で離婚に至った場合 ・・ 数十万~300万円程度
- セックスレスなどが原因で離婚に至った場合 ・・ 0万~100万円程度
なお、ここで紹介した離婚慰謝料の相場は、あくまで目安の金額です。
精神的苦痛の程度や婚姻期間の長さなど、個別の事情によっても金額が増額したり、減額したりすることがあります。
離婚慰謝料の増額・減額に影響する要因
離婚慰謝料は夫婦や家庭の事情によって、増額されたり、減額されたりすることがあります。
離婚慰謝料の増額・減額に影響する主な要因は、次のとおりです。
- 婚姻期間の長さ
- 別居期間の有無・長さ
- 子供の有無・人数
- 不法行為の悪質性や期間
- 慰謝料を請求する側の年齢、離婚後の経済状況
- 慰謝料を支払う側の資力、社会的地位
- 婚外子や認知の有無
- 反省・謝罪の有無
- 不法行為の前後の夫婦関係 など
離婚慰謝料の請求の流れ
離婚慰謝料を請求する際は、まずは当事者間だけで話し合いによる解決を試みます(協議離婚)。
当事者間の話し合いがまとまらない場合は、離婚調停→離婚裁判の流れで、裁判所の手続きを利用することになります。
なお、そもそも当事者間だけで話し合いが難しい場合は、いきなり調停を申し立てることも可能ですが、調停を経ずに離婚裁判を起こすことは基本的に認められていません。
♦配偶者の不貞相手に慰謝料を請求する場合は?
配偶者の不貞相手へ慰謝料を請求する場合、まずは内容証明郵便を利用して相手と直接交渉します。
交渉に応じてもらえなかったり、まとまらなかったりする場合は、裁判の手続を利用することになります。
離婚慰謝料に関するQ&A
離婚慰謝料の貰い方(受け取り方)は?
離婚慰謝料の貰い方(受け取り方)は、振込か現金手渡しで行われるのが一般的です。
もっとも、相手と直接会う必要がなく、支払った事実を証拠として残せるメリットがあるため、振込が一般的な方法といえます。
なお、離婚慰謝料は一括で支払ってもらうのが一般的ですが、相手に一括払いする資力がない場合もあります。
まずは、相手の親族に立て替えてもらったり、慰謝料の金額を減額したりして、なるべく一括で支払ってもらうようにしましょう。
それでも一括払いが難しく、分割払いに応じざるを得ない場合は、最初に頭金を多く受け取ったり、支払回数を少なくしたりして、できるかぎり慰謝料が不払いとなるリスクに備える対策を講じましょう。
離婚後でも慰謝料請求できますか?できる場合、いつまで可能ですか?
離婚後でも、元配偶者に慰謝料請求できる可能性があります。
ただし、離婚成立から3年が過ぎてしまうと、慰謝料請求権が時効によって消滅してしまうため、
以下のような事情で、離婚後に慰謝料の請求をしようとお考えの方は時効に注意しましょう。
「まずは離婚の成立を優先させたい」
「離婚後に初めて慰謝料の請求ができることを知った」
「離婚前はDVやモラハラが怖くて慰謝料請求できなかった」
「婚姻期間中に不貞行為があったことを離婚してから知った」
離婚慰謝料には税金はかかりますか?
慰謝料は精神的な損害に対する賠償を目的としていて、贈与にはあたらないため、離婚慰謝料を受け取っても税金はかかりません。
もっとも、慰謝料が明らかに高額であったり、金銭ではなく不動産や車などを慰謝料として受け取っていたり、偽装離婚が疑われる場合などは、例外的に税金が課税されることがあるので、注意が必要です。
離婚慰謝料についてわからないことがあれば弁護士に相談してみましょう
離婚慰謝料は、離婚により生じた精神的苦痛に対する賠償金なので、離婚原因をはじめ、夫婦や家庭の事情によって金額が異なります。
弁護士は、過去の経験や知識から適正な慰謝料を算定することができますし、財産分与や養育費など、慰謝料以外の問題についてもアドバイス・サポートが可能です。
「慰謝料を請求したい」と考えるほど心に傷を抱えた状態で、相手方と交渉したり、証拠を集めたり、離婚の手続きを進めるのは容易なことではないので、弁護士に依頼することをご検討ください。
離婚したい方、慰謝料請求したい方の味方となって、納得のいく結果が得られるように弁護士が尽力します。まずはお気軽に弁護士法人ALGまでご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)