監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
セックスレスに悩んで離婚を真剣に考えている人は、少なくありません。性に関することは家族や友人にも相談しづらいため、一人で悩みを抱えてしまっている人もいるかと思います。
「そもそもセックスレスで、離婚ができるの?」「どの程度のセックスレスなら大丈夫とかってある?」等の悩みは尽きないかと思います。
以下、弁護士がセックスレスを原因とする離婚について、わかりやすく解説いたします。今後の方針を考えるうえで、少しでも参考になりましたら幸いです。
目次
セックスレスとは
セックスレスとは、一般的には、「長期間、パートナーとの間で性交等が行われていない状態」のことをいうと考えられます。
特段合理的な理由がないにもかかわらず、数か月にわたって、一方的に性交等を拒絶されている場合、セックスレスといえると思われます。
セックスレスは離婚原因として認められるのか
まず前提にあたるところからお話しすると、離婚の手続は、大きく分けて2つあります。①話し合いによる離婚(協議離婚、調停離婚)と②裁判による離婚(裁判離婚等)です。
①の場合、どのような理由であっても、当事者双方が合意していれば離婚が成立します。したがって、セックスレスも当然、離婚の理由になり得ます。
一方で②の場合、つまり話合いがまとまらず、訴訟を提起することになった場合、離婚が認められるためには、法律上定められている離婚理由が必要とされます。
具体的には、「その他離婚を継続し難い重大な事由」という要件を満たさなければなりません。
簡単に言うと、第三者から見て、夫婦関係を修復することが困難であるといえるなら、基本的にこの要件を満たすと考えられます。
セックスレスの期間や経緯等を踏まえて、夫婦関係の修復が困難といえるかどうかを検討していくことになります。
セックスレスでの離婚率
令和4年度の司法統計によると、裁判所に離婚調停を申し立てた動機として、「性的不調和」は全体の約8%でした。
「性格が合わない」などの他の動機に比べて、セックスレスを含む「性的不調和」を理由とする申立ては少ないものの、全くないわけではありません。
セックスレス離婚の慰謝料
特段合理的な理由がないにもかかわらず、数か月にわたって、一方的に性交等を拒絶されている場合、その拒絶の仕方等によっては、精神的苦痛を受けたといえますので、慰謝料請求ができる可能性があります。
慰謝料の相場
仮に慰謝料請求ができるとしても、セックスレスだけを理由とする場合、それほど高額な慰謝料とはならないと考えられます。
具体的には、100万円未満となることが多いと思われます。
考慮要素としては、性交等を拒絶された期間、頻度、そのときの態様(言葉遣い、身振り手振り)、セックスレスに至った経緯等の具体的な事情を踏まえて、金額を考えていくことになります。
請求方法
慰謝料の請求方法は、大きく分けると、①交渉、②調停、③訴訟の3つがあります。②③は裁判所が関与する方法であるのに対して、①は基本的に当事者のみで行う方法です。
- 交渉
交渉とは、当事者間での自由な話し合いによって、条件をまとめていくという方法です。
条件がまとまった場合には、合意の内容を記載した書面を作成するのが通常です。
書面の法的な有効性が問題となることを防ぐ等の観点から、公正証書で作成するのがよいと思います。 - 調停
調停とは、調停委員という公平な第三者に仲介してもらい、話し合いを進めていくという方法です。
①の方法、つまり当事者だけで話合いをするのが難しい場合には、調停を利用するのが良いかと思います。 - 訴訟
訴訟は、証拠を提示し、その証拠をもとに裁判官に判断をしてもらうという方法です。
①や②の話合いではまとまらなかった場合には、訴訟の提起を検討することになります。
訴訟でしっかり慰謝料をもらうためには、証拠集めなどの準備を入念に行っておく必要があります。
セックスレス離婚の切り出し方
セックスレスで悩んでいる場合、それを素直に伝えて、離婚を切り出してもよいかもしれません。
場合によっては、相手方との間で誤解が解けたり、あるいは具体的な解決案がみつかったりすることもあるかと思います。
一方で、セックスレスで悩んでいることを直接、相手方に対して伝えることに抵抗がある方もいらっしゃるかと思います。
その場合には無理に自分で伝えようとせずに、たとえば弁護士などの第三者を介して伝えたり、あるいは調停の場で調停委員を介して気持ちを伝えたりする等の方法が考えられます。
弁護士や調停委員には守秘義務がありますので、これらの者が正当な理由なく秘密を第三者に漏らすことはありません。
離婚したくないと言われた場合
相手に離婚したくないと言われた場合、まず相手の真意をしっかり見極めることが重要です。
「条件次第で離婚に応じる」というスタンスなのであれば、交渉や調停の手続を通して、条件のすり合わせを行っていくことになります。
一方で、「何が何でも離婚拒否」というスタンスである場合、長期戦を覚悟する必要があると思われます。具体的には、まず調停を申し立てたうえで、調停が不成立となった後に、訴訟を提起することになります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
セックスレス離婚に必要な証拠
訴訟を見据えるならば、「セックスレスがいつから続いているのか」「セックスレスの問題について、これまでどのような話し合いがなされたのか」
等を明らかにするため、証拠を集めておく必要があります。具体的には、これから述べるような表や録音データ等があるとよいと思います。
夫婦の生活時間帯などがわかる表
セックスレスの原因がどこにあるのかを明らかにするため、夫婦の生活時間帯がわかるような資料を作っておくのが望ましいです。
双方のスケジュールが合わず、やむを得ずセックスレスになっているわけではないということがわかるように、ある程度詳細な表があるとよいと思います。
セックスレスについて夫婦で話した会話の録音
セックスレスの期間や経緯等について、夫婦で話した会話の録音やLINEの履歴も証拠になります。
また録音データ等から、相手が話し合いに応じず、真剣に問題を考えていないという態度がわかる場合には、有利な証拠として使える可能性が高いです。
セックスレスのことが書かれた日記
性交渉等を拒まれた日、そのときの相手の態様等を具体的に記録に残しておくのが良いと思います。日記が証拠として価値が認められるためには、
- 毎日、習慣的に日記を書くこと
- 「後で加筆した」と疑われないために、ボールペン等で記載すること
が望ましいと思います。
セックスレスでの離婚でよくある質問
セックスレスで離婚した場合、子供の親権はどちらになりますか?
セックスレスで離婚することと、子供の親権は別問題です。
子供の親権は「子供の利益のためにどちらが親権者となるのが良いか」という観点から考えられる問題であるところ、仮に夫婦間でセックスレスがあったとしても、それによって子供の利益に影響が生じるわけではないと考えられるからです。
セックスレスを理由に不倫された場合は離婚慰謝料を請求することはできますか?
相手がセックスレスを理由に不倫をした場合であっても、慰謝料を請求することは可能です。
もっとも、相手が不倫をした時点よりも前に既に夫婦関係が破綻していた場合には、慰謝料請求が認められない可能性があるので、注意が必要です。
妊娠中のセックスレスでも離婚できますか?
妊娠中のセックスレスの場合、法定の離婚事由があると認められない可能性が高いと思われます。
一般的に、妊娠中の女性にとって、性交渉による身体的な負担は大きいと考えられるため、セックスレスに至った合理的な理由があると判断される可能性が高いからです。
セックスレスにより離婚する場合は弁護士にご相談ください
セックスレスは、なかなか他人には相談しにくい問題です。とはいえ、一人で悩んでもなかなか突破口が見つからないかもしれません。
セックスレスは、拒まれた側にとって、自分が否定されたという心の痛みを抱えることも少なくないため、深刻な問題です。
セックスレスを理由とする離婚は、お気軽に弁護士にご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)