監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
大変ショックなことですが、配偶者からDVを受けてしまい、離婚をお考えになる方は少なくありません。
しかし、DVをするような相手に「どのように離婚を切り出せばいいか分からない」とお悩みになるのではないでしょうか。
DVを理由に離婚を認めてもらうためには、DVがあったことや怪我をしたことがわかる証拠が必要です。
代表的な証拠の例には、医師による診断書が挙げられます。
この記事では、配偶者からDVを受けた時に大切となる「診断書」について、どこでもらえるのか、効果、有効期限などについて解説していきます。
目次
離婚するときにDVの証拠になるもの
DVの有効な証拠としては、「診断書」が挙げられます。
ただし、いくつかポイントを押さえておく必要があるため、作成時には注意が必要です。
(次項で詳しく解説します。)
診断書のほか、以下のようなものもDVの証拠となる可能性があります。
-
怪我の写真
受傷部位が鮮明に映っている写真が有効でしょう。
また、自身の怪我だと分かるように、受傷部位と自身の顔が一緒に写るよう撮影しましょう。
撮影日が記載されるようにもするといいです。 -
録音、録画データ
配偶者に暴行されている、暴言を吐かれている様子を音声で録音しておきましょう。
また、配偶者が暴力行為を認めている場面を録音・録画することも有効です。 -
日記
DVを受けた日時・場所・内容などを詳しく書き記しましょう。
また、DVによる被害を具体的に記すことも有効です。
ただし、記載内容の信用性を高めるためにも,普段から日記としてDV以外についても継続的に記録しておく必要があります。
記載の際は,パソコンや鉛筆ではなく,消せないボールペンで書く等,後から追記や修正できない方法で記載しましょう。 -
警察や相談センターへの相談記録
相談日時や相談内容が記録されるため、DVの立証に役立つ場合があります。
診断書の記載内容と重要ポイント
DVの診断書は証拠として有効ですが、医師によって診断書の書き方は様々であるため、記載内容に十分注意する必要があります。
最も重要なポイントは、「配偶者のDVによって受傷した」という経緯を伝えることです。
医師に伝えることにためらいがあるかもしれませんが、配偶者からのDVにより受けた怪我であることをカルテや診断書に記載してもらうようにしてください。
また、大きな怪我に限らず、小さな怪我でも医師の診察を受け、診断書に記載してもらいましょう。
なお,診断書はあくまでも傷病を診断するものであり,DVの事実そのものを証明するものではありませんので,ご留意ください。
診断書の記載内容として、以下の事項が記載されているか確認しましょう。
- 傷病名
- 受診日
- 治療期間
- 怪我の程度
- 「DVによって怪我を負った」という訴えをした事実
何科の病院でDVの診断書をもらえるのか
DVでの診断書は、受傷した怪我に応じて受診した病院で作成してもらいます。
例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- あざ、打撲、骨折 ⇒整形外科
- 切り傷 ⇒形成外科
- 火傷 ⇒皮膚科
- 身体的暴力や精神的暴力によるうつ病、PTSD、不眠、不安など ⇒心療内科、精神科
- 望まない妊娠、性感染症 ⇒産婦人科
精神的暴力(暴言や脅し、命令)などは、身体的な怪我を負いませんが、心に傷を負ってしまいます。
身体の怪我だけがDVと思わず、心が苦しいときも同様に病院を受診し、診断書を作成してもらいましょう。
DVの診断書があると離婚のときに有利になること
DVが原因で離婚をお考えの場合は、話し合いでの解決が難しかったり、そもそも配偶者と話し合うことに恐怖を感じ、話し合いができなかったりするケースも見られます。
協議離婚でまとまらない場合には、離婚調停や離婚裁判の手続きを利用することになりますが、DVの診断書があることで、これらの手続きを有利に進めることができる可能性があります。
慰謝料の増額
DVを受けた場合は、その精神的苦痛に対して慰謝料を請求できる場合もあります。
慰謝料の金額は「受けた精神的苦痛の大きさ」によって異なるため、診断書によって怪我の程度を具体的に証明できれば、より高額な慰謝料が認められやすいでしょう。
子供の親権
子供の前でDVが行われていたり、DV行為が子供にまで及んでいたりする場合は、DVの加害者である配偶者を「親権者としてふさわしくない」と主張できる可能性があります。
この事実を証明するうえで、診断書は非常に有効です。
DVの診断書の提出先
離婚調停を申し立てたとき
離婚調停を申立てる場合、申立書などの必要書類と併せてDVの診断書も家庭裁判所に提出すると良いでしょう。
調停委員がDVについて把握しておくことで、離婚調停が有利に進む可能性があります。
警察に行くとき
警察へDVの被害届を提出する場合は、「生活安全課」に診断書を提出しましょう。
被害届を出しておけば、離婚する際にDVがあったことの証拠となります。
それにより、親権や慰謝料の獲得に有利に働くでしょう。
DVの診断書の有効期限
DVの診断書に有効期限はありません。
診断書というものは、病院が受診者の当時の怪我について証明するものであり、時間が経ってもその事実は変わらないためです。
また、DVの被害を受けてから病院を受診するまでの期間に、「怪我を負ってから何日以内に病院を受診しなければならない」といった決まりはありません。
しかし、病院を受診するまでの期間が空いてしまえば、小さな怪我は良くなっていて診断書に記載出来ない場合もありますし、怪我とDVの因果関係が疑われてしまう可能性もあります。
DVにより怪我を負った場合は、なるべく早く病院を受診することをおすすめします。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚のときに提出するDVの診断書についてのQ&A
DV加害者の弁護士からDVの診断書の提出を求められたのですがコピーしたものでもいいですか?
相手方の弁護士から、DVの診断書の提出を求められた場合は、コピーで問題ありません。
話し合いがまとまらず、離婚調停、離婚裁判に移行した場合、診断書は原本の提出を求められる可能性があるため、原本は手元に残しておいた方が良いでしょう。
なお、診断書には受診した病院名や被害者の住所が記載されていますので、相手方に知られると危険が及ぶ可能性がある場合は、その部分を隠して提出するようにしましょう。
DVによって擦り傷ができたときも病院で診断書をもらっておくべきですか?
擦り傷のような小さな怪我では、DVとして診断書を作成してもらうことにためらいがあるかもしれません。
しかし、その擦り傷はDVがなければ負わなかった怪我ですから、病院を受診し、診断書を作成してもらいましょう。
始めは擦り傷程度の怪我かもしれませんが、エスカレートしていくことで大きな怪我になったり、小さな怪我が頻発していれば悪質なDVとみなされたりする場合もあるでしょう。
DVを理由に慰謝料や離婚を求める場合は、DVの程度や悪質性を証明できる証拠が必要です。
その中でも、医師による診断書は有効な証拠となり得ますので、どんなに小さな傷でも病院を受診し、診断書の作成を依頼しましょう。
DVの診断書がない場合は離婚が難しいですか?
DVの診断書がなくても、話合いで離婚について決める「協議離婚」や調停委員を介して相手方と話合いを行う「離婚調停」であれば、双方が離婚に応じることができれば、離婚が成立します。
しかし、離婚調停が不成立となり、離婚裁判に移行する場合は、「法定離婚事由」が重要となり、DVが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると認められれば、離婚裁判によって離婚することができます。
DVが「婚姻を継続し難い重大な事由」として認めてもらうためには、客観的に見てDVがあったと分かる証拠が必要であるため、診断書があれば有利に進めることができる可能性があります。
DV加害者と離婚をする際に診断書があると有利になることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください
配偶者のDVにより離婚する場合、診断書は有効な証拠となります。
しかし、DVの被害者は精神的にも被害を受け、「小さな傷でDVと判断してもいいのだろうか」と判断が付かない場合もあります。
少しでも配偶者から、身体的・精神的DVを受けていると感じた場合は、まずは身の安全を確保し、弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、DV被害者の方の味方となり、診断書のアドバイスから、相手方との交渉や裁判での主張など様々なサポートをしていくことができます。
弁護士に任せることで、離婚までがスムーズに進むだけでなく、加害者と接することがなくなるため、精神的負担が軽減するでしょう。
-
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)