監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
- 解雇
従業員が病気により長期間にわたって出社することができず業務に支障が生じてしまいかねないといったケースがあるかと思います。
そのようなケースにおいて、病気を理由に従業員を解雇することができるか、疑問に思われる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、病気を理由とする従業員の解雇の可否、解雇が認められるケース、注意点等を解説いたします。
病気を理由に従業員を解雇できる?
病気を理由として、従業員を解雇できるか否かは、個別具体的な事情により異なります。
では、どのような場合に解雇することができるのかを具体的に見ていきたいと思います。
病気による適法な解雇が認められるか否かは、その病気の原因が「プライベートでのものか」「仕事が原因でのものか」によって異なります。
私傷病で休職期間満了までに復職できない場合は解雇が認められる
仕事が原因ではなく、プライベートでの個人的な病気の場合(これを「私傷病」と言うことがあります)、多くの会社では就業規則に「一定期間の休職制度」が設けられており、これに基づいて一定の休職期間が与えられることになります。
もし、会社が一定の休職期間を与えて、治療を促したにも関わらず、当該期間の終了後も体調が回復せず、業務に復帰することができない状態=復職困難な状態である場合には、解雇が適法に認められるケースがあります。
復職可能であるにもかかわらず解雇すると違法とみなされる
例えば、従業員が休職期間後に復職が可能であると主張しているにもかかわらず、会社側が一方的に解雇をするようなケースでは注意が必要です。
このようなケースで会社が一方的に解雇に踏み切った場合には、当該解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」ではないとして違法な解雇であって無効とされてしまう可能性が高いです。
私傷病による解雇が問題となった判例
私傷病による解雇の有効性が争われた裁判例を紹介します。
事件の概要
- 事件名:J学園事件
- 事件番号:平20(ワ)36449号
- 裁判年月日:東京地裁平成22年3月24日
- 裁判所:東京地方裁判所
- 裁判種類:判決
裁判所の判断
この事件は、被告の経営する学校で教員をしていた原告が、在職中にうつ病を発症し、その後、就業規則上の心身の故障のため職務の遂行に支障がある等の理由で解雇されたというものです。
原告は、うつ病は被告の業務に起因するものであり、当該解雇は社会通念上相当なものではなく違法無効であるとして争いました。
裁判所は、原告のうつ病は、被告での具体的な業務内容を精査したうえで、これが「原告の心理的負荷が非常に強度であったとは認められない」として「業務に起因して発病したもの(業務上の傷病)と認めるのは相当でない」と判断しました。
しかし、解雇については、被告が原告の解雇にあたって「原告の回復可能性について相当の熟慮のうえで、これを行うべきであったと考えられる」にもかかわらず、「メンタルヘルス対策の不備」や原告からの「再検討の交渉にも応じることなく、本件解雇に踏み切った」として、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」と判断しました。
ポイント・解説
裁判所は、まず病気が業務に起因するものか否かを具体的な事情に照らして検討したうえで、解雇にあたって適切なプロセス(メンタルヘルス対策や再交渉に応じたか否か等)を経たといえないことについても具体的に検討していることがポイントです。
仮に、病気が業務に起因しない場合であっても、解雇を行うにあたっては、適切なプロセスを踏んでいるかを慎重に検討する必要があります。
業務起因の病気の場合は休職期間満了後も解雇が制限される
労働基準法19条1項は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後三十日間」は「解雇してはならない」と規定されています。
そのため、業務から起因する病気の場合(仕事のストレスによるメンタル不調や就業中の事故による怪我など)には、労働基準法上、会社が従業員を解雇することについて制限されています。
業務上の病気であっても解雇が認められるケースがある
もっとも、業務上の病気であっても、解雇が適法に認められるケースがあります。
労働基準法81条によれば、「労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後は、この法律の規定による補償を行わなくてよい」とされています。
つまり、従業員が療養を開始してから3年を経過しても病気が治らない場合には、会社が平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことで適法な解雇として認められます。
業務起因の病気による解雇が問題となった判例
業務起因の病気による解雇が問題となった裁判例を紹介します。
事件の概要
- 事件名:東芝事件
- 裁判年月日:最高裁平成26年3月24日判決
- 裁判所:最高裁判所
- 裁判種類:判決
裁判所の判断
これは、原告が、うつ病に罹患し、当時勤めていた被告である会社から休業期間満了を理由に解雇されたという事案です。
原告は、うつ病に罹患したのは、被告における過剰な業務に起因するものであるから、当該解雇は違法なものであり無効であるとして、解雇の有効性を争いました。
裁判所は、原告が罹患したうつ病は、法定時間外労働時間が60時間以上超えていることや、被告の「業務内容の新規性、繁忙かつ切迫したスケジュール等、原告に肉体的精神的負荷を生じさせたもの」であり、これまでに精神疾患の既往歴はなく家族にも精神疾患を発症した者がいないことから、「業務に内在する危険が現実化したもの」として業務に起因するものと認定しました。
そのうえで、被告による解雇は、原告が業務上の疾病にかかり療養のために休業していた期間になされたものであって、これは労働基準法19条1項に違反し無効なものであると判断しました。
ポイント・解説
裁判所は、会社での具体的な労働時間や内容、従業員の既往歴等の具体的な事情に即して、病気の原因が業務に起因するものか否かを判断しています。
就業規則の定めに限らず、メンタルの不調による求職者の場合、その不調(病気)の原因が、会社の業務にあるかどうかを慎重に見極める必要があります。
病気を理由に解雇する場合の注意点
会社が、病気を理由として従業員を解雇する場合には、下記の点に注意をする必要があります。
解雇権の濫用があると不当解雇として無効になる
労働契約法16条によれば、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。
つまり、病気を理由とする解雇が解雇権の「濫用」とならないために、下記のような対応を適切にとる必要があります。
- 従業員に対して診断書の提出を求め、実際の症状や原因を把握すること
- 法令や就業規則に従った休職や解雇の可否を検討すること
- 本人と十分に話合いの機会を設け、復職の見通し等を見定めること
- 休職期間が長期にわたっている従業員に対しては退職勧奨を行うことを検討すること
解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となる
労働基準法20条1項によれば、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と規定されています。
そのため、病気による解雇であっても、通常の解雇と同様に、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。特に解雇予告については、30日以上前に行う必要があり、注意が必要です。
病気を理由に解雇する場合でも退職金の支払い義務はある?
基本的には、病気を理由とする解雇の場合であっても、会社に退職金の支払い義務は生じます。
もっとも、病気を理由とする解雇の場合に関する法律上の一般的な定めがあるわけではなく、あくまでそれぞれの就業規則や退職金規程によって個別具体的に金額が決まるものです。
病気を理由とした解雇における失業保険の取扱い
病気を理由とする解雇における失業保険の取扱い(特に傷病手当の支給)については、雇用保険法上の「失業」に該当するか否かによって変わります。
雇用保険法上の「失業」とは「被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあること」を指します。
そのため、解雇の原因となった病気によって働くことが困難な状態にあるときは労働のための「能力を有」しておらず、失業手当の給付を受けられないケースがあります。
しかし、病気に関わらず、仕事によっては働くことができる状況にあるといえる場合には、労働のための能力を有しているとして、失業手当の支給を受けられる余地があります。
病気を理由とした解雇は会社都合になる?
会社側が病気を理由として従業員を解雇した場合や退職勧奨に応じて従業員が退職する場合等は、会社都合によるものと考えられます。
会社都合の解雇や退職の場合には、特定受給資格者に該当し、自己都合退職の場合(特定理由離職者)と比べて、1か月の給付制限がなかったり、より長期の給付日数の延長が認められたり、失業手当の受給要件や内容が大きく異なります。
従業員の解雇でお悩みの際は弁護士にご相談ください
従業員が病気になってしまった場合、会社が行う対応によっては、違法な解雇として解雇無効や未払賃金の請求訴訟等に発展してしまうリスクは否定できません。
特に復職の可否や病気が業務に起因するものか否かなどの判断については、法的な専門知識や過去の裁判例に照らし合わせて適切に見極めることが重要です。
従業員の解雇に関してお悩みの方は、弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。

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