監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭った場合、通常は加害者側の保険会社が治療費を医療機関へ支払う「一括対応」が行われることがあります。
しかし、事故との因果関係や過失割合、保険契約の内容などを理由として、保険会社から治療費の支払いを拒否されるケースもあります。では、保険会社に支払いを拒否された場合、被害者はどのように対応すればよいのでしょうか。
本記事では、保険会社が支払いを拒否する主な理由を紹介したうえで、自賠責保険への被害者請求や人身傷害保険、健康保険などを利用する方法、弁護士に相談するメリットについて解説します。
保険会社が治療費の支払いを拒否する理由
事故との因果関係が低いと判断された
交通事故によるけがの治療費について、保険会社が支払いを拒否する理由の一つに、事故とけがとの因果関係が明確ではないと判断されたことが挙げられます。
例えば、事故から数日、場合によっては数週間経過してから初めて病院を受診した場合、事故によって生じた症状なのか、それとも事故とは別の原因によるものなのかを判断しにくくなります。
また、事故直後には症状がなかったにもかかわらず、時間が経ってから強い痛みを訴えている場合なども、事故との関連性を疑われることがあります。
このような場合、保険会社から治療費の支払いを打ち切られたり、事故との因果関係を否定されたりする可能性があります。
被害者側の過失が大きい
被害者側にも一定の過失がある事故では、保険会社が治療費の一括対応を行わないことがあります。
特に、被害者側の過失割合が比較的大きいケースでは、最終的な損害賠償額を踏まえると、保険会社が治療費を立て替えて支払うことが難しいと判断する場合があります。
もっとも、保険会社が一括対応を拒否したからといって、被害者が治療費を請求できなくなるわけではありません。
過失割合や治療の必要性などを踏まえ、最終的に相手方が負担すべき損害については、別途請求を検討することができます。
加害者が任意保険の運転者年齢条件を満たしていなかった
任意保険には、契約時に「運転者年齢条件」が設定されている場合があります。
例えば、「30歳以上補償」と設定されている契約では、30歳未満の人が運転して事故を起こしても、原則として保険金の支払い対象となりません。
もっとも、任意保険は契約者本人だけでなく、一定の範囲の家族などが運転した場合にも補償されることがあります。
ただし、家族であっても年齢条件を満たしていなければ、補償の対象外となる可能性があります。この場合、加害者側の任意保険会社から治療費の一括対応を受けられないことがあります。
加害者が示談代行に同意しない
任意保険に加入していても、加害者が保険会社による示談代行に同意しない場合、相手方保険会社が被害者との交渉に直接対応できないことがあります。
任意保険会社は、契約者である加害者から示談代行を依頼されることで、加害者に代わって損害賠償についての交渉を行うのが一般的だからです。
このような場合、保険会社が治療費を医療機関へ直接支払う「一括対応」についても進められないことがあります。そのため、被害者自身が治療費を立て替えながら、加害者本人と損害賠償について交渉しなければならない場合があります。
保険会社に支払いを拒否された場合の対処法
加害者側の自賠責保険に被害者請求をする
相手方の任意保険会社から治療費の支払いを拒否された場合でも、自賠責保険への「被害者請求」によって、保険金を請求できる場合があります。
自賠責保険では、傷害による損害について、被害者1人につき120万円を限度として保険金が支払われます。
被害者請求を行う場合は、まず加害者が加入している自賠責保険会社を確認し、必要な請求書類を取り寄せます。そのうえで、交通事故証明書や診断書、治療費の領収書などの必要書類をそろえて、自賠責保険会社に提出します。
審査の結果、支払額が決定され、保険金が支払われます。
人身傷害保険を利用する
相手方の保険会社が治療費の支払いに応じてくれない場合は、ご自身が加入している自動車保険の「人身傷害保険」を利用する方法があります。
人身傷害保険は、交通事故によってご自身や同乗者が死傷した場合に、契約内容に基づいて治療費や休業損害、慰謝料などの損害について保険金が支払われる保険です。
受け取れる金額は、事故による実際の損害額や契約している保険金額などによって決まります。相手方との過失割合をめぐる争いにかかわらず利用できるため、相手方保険会社から支払いを受けられない場合の治療費等を確保する手段として検討できます。
労災保険や健康保険を利用する
交通事故の治療費について相手方保険会社から支払いを拒否された場合、労災保険や健康保険を利用して治療を続ける方法もあります。
労災保険は、通勤中の事故や、業務中に発生した事故など、労災保険の給付対象となる交通事故である場合に利用できます。
対象となるかどうかは事故が発生した状況によって異なるため、勤務先や労働基準監督署に確認しましょう。また、業務中や通勤中以外の交通事故であっても、健康保険を利用して治療を受けることができます。
ただし、交通事故では健康保険を使用できないと医療機関から案内されることもあるため、必要に応じて「第三者行為による傷病届」を提出するなど、所定の手続を行います。
健康保険を利用すれば自己負担額を抑えられるため、治療費の負担が大きい場合には検討するとよいでしょう。
弁護士に相談する
保険会社から治療費の支払いを拒否された場合は、交通事故に詳しい弁護士へ相談することも選択肢の一つです。
法律事務所の中には、初回30分程度の相談を無料としているところもあるため、まずは現在の状況を相談してみるとよいでしょう。
また、自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いていれば、保険会社が定める限度額の範囲内で、弁護士への相談料や依頼費用などを保険でまかなえる場合があります。
そのため、弁護士費用を自己負担することなく依頼できるケースも多くあります。
ご自身やご家族の保険に特約が付いていないか確認してみましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
保険会社が一括対応での支払いを拒否したため弁護士が介入し、被害者請求を行った事例
過去の事例では、依頼者の方が交通事故に遭い、いわゆるむち打ちによって頚部痛や腰痛を訴えて通院している中で、事故から3か月程度の時期に相手方保険会社から「これ以上は治療費をお支払いできません」と告げられたケースにおいて、弁護士が保険会社に治療延長交渉をしてもかなわなかったため、打ち切り後、自費でしばらく通院を継続した上で、その自己負担部分の治療費について自賠責保険会社に保険金請求(被害者請求)をして、自賠責保険からその自己負担部分の満額について回収したことがあります。
自賠責保険の保険金には上限額があるため、「自費通院をした後に被害者請求をする」という方針を立てる際には、その時点で自賠責保険の上限額まであとどのくらい残額があるかを確認しておくことが重要となります。
保険会社が支払いを拒否した場合は弁護士にご相談ください
交通事故に遭い、保険会社から治療費の支払いを拒否されたとしても、直ちに治療を諦める必要はありません。
事故とけがとの因果関係や過失割合、保険の補償内容などを確認し、適切な方法で治療費を確保できる可能性があります。
弁護士に相談すれば、保険会社が支払いを拒否した理由が妥当なものかを検討したうえで、自賠責保険への被害者請求や保険会社との交渉など、状況に応じた対応を提案できます。
保険会社の対応に疑問を感じたら、一人で悩まず、交通事故に詳しい弁護士へご相談ください。

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保有資格弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)
