監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
夫婦の話し合いや調停を経ても離婚が成立しない場合、最終手段として、裁判で争い、決着をつけることになります。弁護士のドラマではよくこの離婚裁判が題材に取り上げられるため、一般の方もイメージがしやすいのではないでしょうか。しかし実際は、離婚裁判で離婚が成立するのは、離婚全体のわずかな割合に過ぎません。
離婚裁判で裁判所から出された結果(判決)は、法的拘束力を有し、当事者はこれに従わなければなりません。そのため、協議離婚や離婚調停とは異なり、離婚裁判は手続き的も非常に複雑で、進行にも高度な法律の専門知識が要求されます。
今回は、離婚裁判の特徴や有利に進めるための注意点などについて、詳しく解説します。
目次
離婚裁判とは
夫婦の話し合いや離婚調停の手続きを経てもなお離婚問題が解決しない場合、家庭裁判所に訴訟を提起し、裁判で離婚の成立や条件を徹底的に争うことになります。これが離婚裁判です。日本では、原則、離婚調停の手続きを経た後でないと、離婚裁判を提起することはできません。これを調停前置主義といいます。
協議離婚や離婚調停では、離婚の理由は問われません。しかし、離婚裁判で離婚が認められるためには、例えば、不貞行為があったとか、婚姻を継続し難い重大な事由があるといった、民法で定められた離婚事由に該当していると裁判所に判断してもらわなければならず、手続きも内容も非常に複雑で、厳格に定められています。
離婚裁判で離婚を成立させる(または相手方の訴えを棄却させる)ためには、法的根拠に基づく的確な主張・立証を行わなければならず、高度な法律の知識が必要となります。
離婚裁判以外の離婚方法
協議離婚
夫婦間での話し合いによる離婚です。当事者が納得していれば、どんな理由でも、どんな条件でも離婚が成立します。日本で離婚した夫婦は、約90%がこの協議離婚で離婚しているといわれており、最も一般的な離婚方法といえます。
調停離婚
協議離婚が成立しなかった場合に、家庭裁判所で、調停委員や裁判官を交えた話し合いで離婚問題の解決を目指す手続きです。あくまで話し合いであり、調停委員らには離婚の決定権や強制力はありません。離婚裁判を起こすためには、原則、この離婚調停の手続きを経た後でないとできません。
審判離婚
調停が不成立となった場合に、裁判所の判断で、裁判所の職権により審判で離婚を成立させる方法です。審判離婚の手続きが行われる場面は極めて限定的であり、実務上、審判離婚で離婚が成立するケースは極めて少ないです。
離婚裁判で争われること
離婚裁判で争われる内容は事案により多岐に渡りますが、代表的なものとして、次のものが挙げられます。
- 離婚するかしないか(離婚したい原因が法定離婚事由に該当するか否か)
- 慰謝料に関すること(支払うのか否か、支払う場合の額はいくらかなど)
- 未成年の子供がいる場合、子供に関すること(親権、養育費、面会交流など)
- 財産分与に関すること
- 年金分割について
裁判で離婚が認められる条件
協議離婚や離婚調停とは異なり、離婚裁判で離婚が認められるためには、離婚原因が、民法で定められた次の5つの離婚事由(=法定離婚事由)に該当している必要があります。
①配偶者が不貞行為をしたこと
②配偶者から悪意の遺棄があったこと
③配偶者の生死が3年以上不明であること
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
実務上、離婚裁判で法定離婚事由が争われる事案のほとんどは、①の「不貞行為」と⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無が争点となります。
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離婚裁判の流れ
離婚裁判の流れを簡単に説明します。
①訴訟提起
管轄の家庭裁判所に訴状と証拠を提出し、離婚裁判を提起します。
↓
②期日決定
裁判所による訴状審査の後、第1回口頭弁論期日が決定され、被告(配偶者)に呼出状が送られます。
↓
③第1回口頭弁論
当事者が裁判所でお互いの主張・立証を行います。その後も、おおよそ月に1度のペースで、2回目以降の口頭弁論が開かれます。
↓
④弁論準備、尋問手続き
必要に応じ行われます。
↓
⑤裁判の終了
判決、和解、取り下げなど、事案に応じて裁判が終了します。
離婚を認める判決が確定したら、離婚成立です。
なお、判決の内容に不服がある場合は、控訴することができます。
離婚裁判にかかる費用について
離婚裁判に必要な費用は次のとおりです。
手数料(収入印紙代)
裁判で争う内容によって変動します。
離婚のみ or 離婚+親権 |
1万3000円 |
---|---|
離婚+財産分与 | 1万3000円+1200円 |
離婚+養育費 | 1万3000円+子供1人につき1200円 |
慰謝料+年金分割 | 1万3000円+1200円 |
離婚+慰謝料 | 1万3000円 または 慰謝料請求に対する収入印紙代(※1) のいずれか高い方 |
※1 裁判所のホームページで公開されている下記の「手数料額早見表」をご参照ください
手数料額早見表(裁判所)切手代
裁判所により金額や内訳は異なります。(東京家庭裁判所は6000円)
弁護士費用
離婚裁判の代理人を弁護士に依頼する場合、弁護士費用が発生します。弁護士により異なりますが、一般的な相場は、総額で50万~100万円くらいでしょう。
費用はどちらが負担するのか
収入印紙代や切手代などの離婚裁判の手数料(訴訟費用)は、申立てのときには原告が一旦負担します。その後判決となった場合には、判決で訴訟費用の負担割合が決められるのが一般的です。
通常は、敗訴した側の負担割合が高くなります。
なお、弁護士費用は訴訟費用には含まれないため、全額自己負担となるのが基本です。
離婚裁判に要する期間
離婚裁判まで発展した事案は、協議や調停で成立しなかったもの(=解決しなかった事案)がほとんどなので長期化しがちです。令和2年度の離婚裁判の平均審理期間が14.2ヶ月である※ことからもわかるとおり、「離婚裁判は1~2年かかる」というイメージを持っておくと良いでしょう。
※裁判所の統計データ:「人事訴訟事件の概況」より
最短で終わらせるためにできること
①決定的な証拠を集める
離婚原因が法定離婚事由に該当するという決定的な証拠があれば、その分、裁判所は事実認定をしやすくなるため裁判は早期に終結します。
有力な証拠としては、例えば、
- 不貞行為を決定付ける写真、動画、LINEのやりとり
- 相手の暴力行為を証明できる動画や音声データ、写真、診断書、日記
などが考えられます。
これらの証拠はできるだけ早い段階で、たくさん収集しておきましょう。
②和解を選択肢に入れる
離婚裁判は、一般的に、解決まで1年以上かかる長丁場です。期日の中で和解を提案され、お互いが納得できる内容であれば、判決を待たずに和解を受け入れることも、早期解決という観点では選択肢の1つといえるでしょう。
長引くケース
一般的に、裁判離婚は1年以上の長期間を要しますが、これをさらに長引かせるケースとしては、
- 決定的な証拠に欠ける場合
(裁判所が、どちらの言い分が正しいのか判断するのに時間がかかるため、終結までに時間がかかります。) - 争点が多い場合
(親権者、養育費、慰謝料、財産分与など、裁判で争う内容が多ければ多いほど争点が増え、解決まで時間がかかります。) - 控訴、上告された場合
(この場合、終結までに3年はかかると思っておいた方が良いでしょう。)
などが考えられます。
離婚裁判で認められる別居期間
法定離婚事由のうちの1つに、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」があります。抽象的な原因ですが、「客観的に見ても、この夫婦関係は破綻していて回復の見込みがない」と判断される状態であれば、これに該当すると考えられます。
例えば別居している夫婦について婚姻関係が破綻していると考えられるか否かについては、夫婦の年齢、婚姻期間や子供の年齢、人数等により、どれくらいの期間別居していれば破綻していると判断されるか否かは異なります。
なお、争いになりやすい点ではありますが、単身赴任という事情の場合には、夫婦関係が破綻していると考えられるような「別居」とは認められない可能性が高いです。
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離婚裁判の欠席について
裁判は平日の日中に行われます。裁判を申し立てられた側(被告)の場合、1回目の期日の日程は被告側の意向は考慮されていないため、多くの場合、仕事の調整や準備が間に合わずに欠席となります。この場合は、事前に「答弁書」を出しておけば特に問題はありません。ただし、2回目以降の期日は被告側の予定も考慮された上で決められるため、2回目以降も欠席を続けた場合、直ちに敗訴とまではならないにしても、被告に有利な結果にはならない可能性があります。
裁判を申し立てた側(原告)が裁判を無断で欠席するという場面は実際にはあまり考えられませんが、度重なる欠席やその事情によっては、裁判官からの心証を悪くし、裁判の流れが不利に展開する可能性があります。裁判への出席が難しい場合は、弁護士に裁判の代理人を依頼することを検討しましょう。
離婚裁判で負けた場合
第一審の離婚裁判で敗訴したり、判決内容に不服があったりする場合、控訴し、上級裁判所の審理を求めることができます。
日本の裁判は「三審制」といって、最大3回まで、裁判所で反復して審理を行うことができます。
離婚裁判の場合も、第一審の「家庭裁判所」の判決に不服がある場合は第二審の「高等裁判所」に「控訴」し、高等裁判所の判決に不服がある場合は、さらに「最高裁判所」に「上告」することができます。控訴するにせよ上告するにせよ、いずれも複雑な要件、手続き、判断が伴いますし、それぞれ期限があります。納得できない判決が出てしまった場合は、可及的速やかに専門家に相談すべきでしょう。
離婚裁判のメリット、デメリット
メリット
法的拘束力を持つ 離婚そのものや離婚条件に相手が同意していなくても、判決で離婚が認められ、離婚条件が定められれば、当事者はこの判決内容に従わなければなりません。このように最終的に解決できることが、離婚裁判の最大のメリットといえるでしょう。
デメリット
時間とお金がかかる
離婚裁判を起こしてから判決が出るまでには、ほとんどの場合1~2年かかり、その内容と手続きも複雑で、一般の方が自力でやり通すのはあまり現実的ではありません。そのため、多くの場合、弁護士に代理人を依頼することになり、弁護士費用が発生します。
離婚裁判についてQ&A
裁判の申し立てを拒否することは可能なのでしょうか?
離婚裁判の申立てを拒否することはできません。申し立てられた側(被告)は、裁判の当事者として、裁判所に出廷し、主張・立証を尽くす必要があります。
協議離婚や離婚調停においては、話し合いを拒否したり、裁判所からの呼び出しに応じず調停に出席しなかったりしても、協議や調停が不成立に終わるだけで、離婚をするか否かにつき解決とならなかっただけかもしれません。しかし、離婚裁判においては、自分の意に反して裁判を起こされたからといって、これを無視して特段の理由なく裁判を欠席し続けたり、何の主張もしなかったりすると、最終的には「原告の主張に反論しない=原告の主張を認めた」ものと判断され、原告の主張が全面的に認められた判決が下される可能性が高いでしょう。
他人が離婚裁判を傍聴することはできますか?
日本では、公開の法廷で行われる民事事件・刑事事件の裁判は、当事者や関係者でなくても、誰でも自由に傍聴することができます。離婚裁判においても同様で、口頭弁論や尋問手続きなど、公開の法廷で開かれるものに関しては、当事者以外の第三者の方も傍聴可能です。
しかし、弁論準備(争点や証拠の整理を行う手続きで、法廷でない別室で行われます。)については、原則、非公開のため傍聴できません。しかし、例外的に、裁判所が公開を認めたり、裁判の当事者が公開を申し出たりした場合は傍聴することができますが、実務上そのような場面は、あまりありません。
配偶者が行方不明でも離婚裁判を行うことはできますか?
配偶者が失踪・行方不明の場合でも、離婚裁判で離婚を成立させることは可能です。
民法で定める5つの法定離婚事由のうちの1つにも、「配偶者の生死が3年以上不明」であれば離婚できると定められているように、配偶者が行方不明の場合の離婚を想定した規定が存在します。
行方不明の配偶者と話し合いができないことは明かであるため、この場合は「調停前置主義」の例外として、離婚裁判の提起前に調停の手続きを経ておく必要はありません。
また、行方不明の配偶者に訴状などの必要書類を送ることは不可能なため、書類の送達方法は、「公示送達」といって、裁判所の掲示板に一定期間掲示することで、本人に送達したと扱う手続きが執られます。この「公示送達」を行うためには、原告側が、「配偶者が行方不明で訴状の送達場所が不明である」ということについて、事前に調査を尽くしておかなければなりません。
離婚裁判で敗訴した場合、すぐに調停を申し立てることができるのか?
離婚裁判で離婚が認められなかった場合、その直後に、再び離婚調停を申し立てられるかどうかですが、「申し立てられない」と規定した法律はありませんので、制度上は調停を申し立てることは可能です。
しかし、離婚裁判で徹底的に争った結果全面勝訴した相手方に対し、その直後に調停という「話し合い」で形勢逆転を図れるかというと、現実的にはその可能性は低く、直後に調停を申し立てることの実質的な効果・意味合いについては疑問が残るところです。再び調停を申し立て、離婚の成立を目指すのであれば、
・裁判で離婚が認められるくらいの別居の実績ができた
・新たに決定的な証拠が見つかった
・相手が不倫をした
など、何らかの状況の変化があった、適切なタイミングを見計らってからの方が良いのではないかと考えます。
離婚後すぐに再婚することはできるのか?
離婚が成立した後、再婚できるまでの期間については、男性と女性とで違いがあります。
男性は、特に決まりはなく、離婚直後でもすぐに再婚することが可能です。
一方で女性は、原則、離婚してから100日が経過しないと再婚できません。これは再婚禁止期間と呼ばれており、女性が再婚後すぐに出産した場合、その子が元夫の子であるのか、再婚相手の子であるのかという争いが生じるのを未然に防ぐために、この規定が設けられています。
ただし、当該趣旨から、女性が「元夫と離婚したときに妊娠していなかったこと」または「離婚後に出産したこと」に該当する場合には、離婚後100日の経過を待たず、すぐに再婚することができます。
相手が離婚を拒否し続けたら裁判でも離婚することはできない?
協議離婚や離婚調停では、たとえどんなに頑張って離婚の正当性を主張したとしても、相手が離婚したくないと拒否し続ける限り、離婚を成立させることはできません。
しかし、離婚裁判では、相手が首尾一貫して離婚を拒否し続けたとしても、離婚を認める判決を勝ち取ることができれば、相手の意思に関係なく離婚することが可能です。
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離婚裁判を考えている場合は弁護士にご相談ください
どんなに相手が離婚をしたくないと言っていても、最終的に離婚裁判で離婚を認める判決を勝ち取ることができれば、離婚することが可能です。
しかし、離婚裁判では協議や調停とは違って、感情論ではなく、裁判例や法的な根拠に基づく適切な主張・立証を行わなければなりません。そして、その手続き、運用も厳格に定められており、主張書面の書き方、主張の内容、どの証拠をどんなタイミングで出すか…など、事案に応じて綿密な戦略を練る必要があります。
法律の知識や裁判の経験に乏しい一般の方が自力で離婚裁判に臨むのは、あまり得策ではありません。
離婚裁判で納得のいく判決を勝ち取るためには、離婚事件に精通した法律の専門家である弁護士の力を借りることを強くお勧めします。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)