監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
離婚について、当事者同士の話し合い(協議離婚)や、裁判所を介した話し合い(離婚調停)で合意に至らない場合、離婚裁判を起こすことになります。
離婚問題を争う最終手段とも言われる離婚裁判は、どのような流れで行われるのでしょうか?
この記事では、離婚裁判の基礎知識をふまえて、離婚裁判全体の流れについて解説していきます。
よくある質問にも回答していきますので、ぜひご参考ください。
目次
離婚裁判の流れ
離婚裁判は、一般的に次のような流れで行われます。
① 離婚調停
② 調停不成立後、原告が家庭裁判所に訴状を提出する
③ 第1回口頭弁論期日の通知が届く
④ 被告が答弁書を提出
⑤ 第1回口頭弁論
⑥ 第2回以降口頭弁論・証拠調べ(尋問)
⑦ 判決の言い渡し
次項で、それぞれの段階ごとに詳しくみていきましょう。
離婚裁判を提起する前に
離婚裁判を提起するにあたって、3つのポイントを確認しておきましょう。
●ポイント1:調停前置主義
現在の法制度上、いきなり離婚裁判を起こすことはできません。
先に離婚調停を行い、調停不成立で終わった場合に離婚裁判を提起することができます。
これを調停前置主義といいます。
●ポイント2:法定離婚事由
協議や調停とは異なり、裁判で離婚を認めてもらうためには、離婚したい理由が法定離婚事由のいずれかに該当することを証明しなければなりません。
《法定離婚事由》
① 配偶者に不貞行為があったとき
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤ その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
●ポイント3:有責配偶者からの離婚請求
不貞行為や悪意の遺棄などの法定離婚事由に該当する行為を行った側=有責配偶者からの離婚請求は、例外的な場合を除き、原則として認められません
家庭裁判所に訴状を提出する
離婚を求める側=原告が、訴状や必要書類を家庭裁判所に提出することで、離婚裁判が開始します。
訴訟の提出先は、夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所、または離婚調停を行った家庭裁判所です。
※必要書類や費用については、次項で解説します。
訴状提出の際に必要な書類と費用
訴状を提出する際には、次のような書類・費用が必要です。
《訴状提出の際に必要な書類》
●訴状(2部)
裁判所のホームページから書式を取得できます。
●夫婦の戸籍謄本(原本とコピー)
本籍地の市区町村役場から取得できます。
●年金分割のための情報通知書(原本とコピー)
年金分割を求める場合に必要です。
●証拠書類のコピー(2部)
源泉徴収票や預貯金通帳など、個別の請求内容に応じて必要な各種資料を提出します。
《訴状提出の際に必要な費用》
●収入印紙
請求する内容によって金額が異なるため、管轄の裁判所に確認しましょう。
※離婚のみを請求する場合は1万3000円
●郵便切手
裁判所によって金額が異なるため、管轄の裁判所に確認しましょう。
第1回口頭弁論期日の通知が届く
訴状が受理されると、夫婦それぞれに裁判所から、第1回口頭弁論の期日が知らされます。
原告(訴えた側)には期日呼出状が、被告(訴えられた側)には期日呼出状と訴状や、提出していれば証拠書類が郵送で届きます。
被告が答弁書を提出
被告(訴えられた側)は、受け取った訴状に対する認否や理由を答弁書に記載し、定められた期日までに裁判所と原告(訴えた側)に提出します。
答弁書を提出せずに、第1回口頭弁論期日を欠席すると、原告の請求をそのまま認める判決がでる可能性もあります。
口頭弁論を行う
口頭弁論とは、裁判官の前で、当事者が意見や主張を述べ、証拠を提出するための機会です。
一般的に、第1回口頭弁論は、訴状を提出してから約1ヶ月後に指定され、その後は約1ヶ月に1回のペースで口頭弁論や審理などが行われます。
※審理については、次項で詳しく解説します。
審理の流れ
離婚裁判の審理は、大まかに次の流れで行われます。
①争点の整理
裁判官によって、最初に原告(訴えた側)の訴状が読み上げられ、次いで被告(訴えられた側)の答弁書が読み上げられて問題の争点を整理します。
②証拠の提出
争点を整理した結果、争いのある部分について原告(訴えた側)から事実を証明する証拠が提出され、それを否定する証拠が被告(訴えられた側)から提出されます。
このやりとりが、裁判官が真偽を判断するまで繰り返されます。
このように、提出された証拠や当事者の主張を総合的に考慮して、最終的な判決を下すために必要な事実の認定を行っていきます。
※事実の認定については次項で詳しく解説します。
離婚裁判における事実の認定
離婚裁判における事実の認定は、提出された証拠をもとに、原告(訴えた側)の主張する事実の有無が審理されます。
離婚においては、法定離婚事由が争点に上がることが多く、具体的には次のようなものが証拠となります。
●不貞行為を証明する証拠
ホテルへ出入りする写真、ホテルの領収書、探偵会社からの報告書など
●悪意の遺棄を証明する証拠
家庭の収支を記録した家計簿、別居の原因や時期が特定できる記録など
●婚姻関係の破綻を証明する証拠
DV被害による負傷部分の画像、医師の診断書、日記、音声データなど
証拠調べ
争点が整理されると、その争点について判断するために証拠調べの手続が行われます。
証拠調べでは、夫婦本人に対して事実関係を問い尋ねる「本人尋問」が行われます。
原告・被告以外の第三者が事実を証明できる場合は「証人尋問」が行われることがあります。
※本人尋問や証人尋問の流れは、次項で詳しく解説します
本人尋問や証人尋問
尋問は一般的に、証人(第三者)➡原告本人(訴えた側)➡被告本人(訴えられた側)の流れで行われます。
【①証人尋問】※証人がいる場合のみ
●証人を呼んだ側の弁護士から証人へ質問(主尋問)
⇩
●証人を呼んでいない側の弁護士から証人へ質問(反対尋問)
⇩
●裁判官から証人へ質問(補充尋問)
⇩
【②本人尋問/原告本人尋問】
●原告弁護士から原告へ質問(主尋問)
⇩
●被告弁護士から原告へ質問(反対尋問)
⇩
●裁判官から原告へ質問(補充尋問)
⇩
【③本人尋問/被告本人尋問】
●被告弁護士から被告へ質問(主尋問)
⇩
●原告弁護士から被告へ質問(反対尋問)
⇩
●裁判官から被告へ質問(補充尋問)
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離婚裁判の判決
口頭弁論が終結すると、約1~2ヶ月ほどで判決が言い渡されます。
判決の言い渡し期日では、判決結果が伝えられ、詳しい判決理由については、当事者に後日郵送される「判決書」で確認することになります。
なお、離婚裁判が終了するパターンは、判決が言い渡される以外に、「和解」や「取下げ」があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
和解を提案されることもある
離婚裁判では、裁判官から和解を提案されること(和解勧告)が多くあります。
当事者双方がこれに合意できれば、この時点で離婚が成立します(和解離婚)。
期日中であればいつでも和解が成立し、「和解調書」が作成されて、裁判は終了します。
●和解離婚は、裁判をはやく終わらせることができます
裁判は判決が言い渡されるまで期間を多く要することがありますが、裁判の途中で和解が成立すれば裁判が終了するため早期に裁判を終了できる可能性があります。
訴えの取下げにより裁判終了
離婚裁判は、裁判を起こした原告であれば、判決が確定するまで、いつでも訴えを取下げて裁判を終わらせることができます。
ただし、被告(訴えられた側)が書面を提出した後や、口頭弁論を行った後に取下げをする場合は、原則として被告の同意が必要です。
判決に対して控訴できる
判決の内容に不服がある場合、控訴して高等裁判所で審理のやり直しを求めることができます。
控訴するためには、判決書を受け取ってから2週間以内に、家庭裁判所に控訴状を提出する必要があり、この期間を過ぎると、判決が確定してしまいます。
判決後の流れ
判決が言い渡されて、控訴がなされなければ、判決が確定して離婚が成立します。
この際、原告(訴えた側)は、判決確定後10日以内に、役所へ離婚届を提出する義務があるので、忘れずに行いましょう。
なお、役所に提出する書類は次のとおりです。
- 離婚届(被告や証人の署名・押印は不要)
- 判決謄本
- 判決確定証明書
- 戸籍謄本(本籍地以外の役所に提出する場合に必要)
- 身分証明書(窓口で本人確認が行われることがあるため)
離婚裁判にかかる期間
離婚裁判の期間は、早ければ半年、長くて2年以上かかることがあります。
親権や養育費、慰謝料など、争点が多いケースでは、裁判が終了するまで長期化する傾向にあります。
よくある質問
離婚届けを提出した後に必要な手続きにはどのようなものがありますか?
離婚裁判を経て、離婚届を提出すると、離婚は成立しますが、必要に応じて、次のような手続きを行う必要があります。
《家庭裁判所での手続き》
●子の氏の変更許可の申立て
《役所での手続き》
●住民票の移動、世帯主の変更、婚氏続称の届出
●国民年金や国民健康保険の加入手続き
●子の入籍届、児童手当の受給者変更の申請、ひとり親家庭等医療費助成の手続き
●印鑑登録証明書の変更手続き など
《年金事務所での手続き》
●年金分割
《その他の手続き》
●子の転入学手続き
●運転免許証やパスポートの書き換え手続き
●預金通帳やクレジットカードの変更手続き
●不動産の所有権移転登記
●自動車や水道・光熱費の名義変更手続き など
離婚に合意しており養育費のみ争う場合はどのような流れで離婚裁判は進みますか?
離婚裁判の中で、養育費だけを争う場合、養育費を争点とした審理が行われることになります。
具体的には、夫婦それぞれの収入を証明する資料(源泉徴収票・給与明細書・確定申告書など)を提示したうえで、「養育費算定表」を用いて金額が決められることが多いです。
これに対し、養育費の増額や減額を求める場合には、その主張を裏付ける証拠にもとづき、裁判官が判断することになります。
なお、養育費以外に争いがない場合、協議や調停によって離婚を成立させて、養育費のみを養育費請求調停・審判で取り決めることも可能です。
離婚裁判が不成立になってしまったら離婚は諦めるしかありませんか?
必ずしも離婚を諦める必要はありません。
離婚裁判で離婚が認められない(棄却)判決が確定した場合、基本的に同じ内容で再度争うことはできません。
一方、判決確定後に新たな離婚事由が生じた場合は、再度離婚請求することができます。
【再度離婚請求ができる一例】
●判決確定後、配偶者がDVを行うようになった
●判決確定後、配偶者が新たな不貞行為をした
●判決確定後、5~10年程度の別居実績ができた
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚裁判の流れをケース別で知りたい場合は弁護士にご相談ください
ここまで離婚裁判の流れをみてきましたが、実際は夫婦の関係や、それぞれが抱える事情によって、主張の仕方、必要となる証拠、裁判に要する時間などが異なります。
離婚裁判では、協議や調停以上に、法的知識や経験が重要になります。
そのため、離婚裁判をご自身だけで行うのは、得策とはいえません。
一方、弁護士であれば、それぞれの事情にあわせた、法的な根拠にもとづく主張・立証が可能です。
裁判で希望する判決を得るためにも、離婚裁判をお考えの方は、お早めに弁護士にご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)