監修弁護士 大西 晶弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
「相手の人格を否定するようなことばかり言う」
「理由もなく無視し続ける」
「外出を制限して異常な束縛をする」
このように、言動で相手を精神的に追い詰める行為のことを、モラルハラスメント(略称:モラハラ)といいます。
「殴る蹴るなどの暴力を受けて怪我をしたわけでもないのに、モラハラを理由に離婚できるの?」
そんなお悩みを抱えている方に向けて、モラハラを理由に離婚する方法について、本ページで詳しく解説していきます。
相手が応じてくれないときの対処法など、モラハラを理由に離婚する際に知っておくとよいポイントもご紹介しますので、ぜひご参考ください。
目次
モラハラを理由に離婚できるのか?
モラハラを理由に離婚できる可能性はあります。
日本では、夫婦だけで話し合う協議離婚や、裁判所を介して話し合う離婚調停で、夫婦双方が離婚に合意できれば、どのような理由であっても離婚が成立します。
もっとも、モラハラをする人には「執着心が強い」「モラハラの言動に自覚がない」といった特徴があることから、話し合いができない、相手が応じないといったケースも少なくありません。
話し合いで解決できない場合は、裁判で離婚を争うことになります。
裁判で「モラハラが法律の定める離婚原因=法定離婚事由に該当する」と認められれば、相手が拒んでいても、強制的に離婚することができます。
モラハラをしているのが姑の場合
「過度な干渉」
「嫁(婿)だけを無視する」
こうした姑の行為は、近年「姑によるモラハラ」として捉えられるようになり、夫婦が合意できれば離婚が成立します。
一方、裁判で離婚を争う場合は、夫婦の関係性から判断されます。
離婚が認められやすいケースと、認められにくいケースを、それぞれ具体的にみていきましょう。
《離婚が認められやすいケース》
●配偶者(夫・妻)が、姑のモラハラを見て見ぬふりをしていた
●配偶者(夫・妻)が、姑と一緒になってモラハラをしていた
《離婚が認められにくいケース》
●配偶者(夫・妻)が、姑のモラハラから庇うなど、味方となってフォローしていた
●配偶者(夫・妻)が、姑のモラハラを注意し、関係修復に努めていた
子供がモラハラされている場合
子供へのモラハラだけを理由に離婚をする場合、夫婦の合意があれば離婚は成立します。
また、相手が離婚に応じない場合でも、モラハラの内容や程度によっては、裁判で離婚が認められる可能性もあります。
離婚が成立した場合、子供の福祉の観点から、モラハラをしていた親が親権を得る可能性は低いと考えられますのでご安心ください。
ただし、次のような注意が必要です。
●子供の安全を確保することが最優先
「相手がすんなり離婚に応じない」
「裁判に時間がかかる」
このようなケースでは、まず子供の安全を確保するために別居するという方法や児童相談所に一時保護を申請する方法があります。
●裁判ではモラハラの証拠が必要
子供に対する「しつけ」と「モラハラ」の境界線はあいまいです。
配偶者が子供に対してモラハラをしていたといえる確固たる証拠を集める必要があります。
警察や公的機関への相談記録も、有効な証拠のひとつです。
モラハラの慰謝料はもらえる?
モラハラは、被害者に精神的苦痛を与える行為のため、モラハラをした配偶者に慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、モラハラの言動が夫婦喧嘩の範疇と思われる程度や、もともと口調がきつい程度では、慰謝料が認められる可能性は低くなります。
慰謝料の請求が認められるためには、悪質なモラハラ行為によって精神的苦痛を受けていたことを、第三者に示す証拠が重要になります。
モラハラを理由に離婚する方法
モラハラを理由に離婚するためには、「協議」「調停」「裁判」の3つの方法があります。
①協議(離婚協議)
離婚の可否や、親権・財産分与などの条件を当事者である夫婦で話し合う方法です。
双方が合意できれば離婚が成立しますが、モラハラ配偶者が応じないことも多く、その場合は、離婚調停に進むことになります。
②調停(離婚調停)
家庭裁判所に調停を申し立てて、調停委員を介して話し合いをする方法です。
モラハラ配偶者は外面がいいことも多く、相手のペースに乗せられ、離婚が認められず、裁判へと発展するケースも少なくありません。
③裁判(離婚裁判)
調停でも解決できない場合に、裁判所に判決を委ねる方法です。
裁判では、モラハラを裏付ける客観的な証拠を示して、婚姻関係が破綻し、継続が困難なことを認めてもらう必要があります。
モラハラの証拠として有効なもの
モラハラがあったことを裏付けるために、客観的な証拠が必要です。
モラハラの被害は目に見えず、証拠が残りにくいといった特徴があるため、証拠となり得る可能性のあるものを多く集めておきましょう。
《モラハラの有効な証拠となり得るもの》
●モラハラの言動を実際に記録した録音・録画データ
●モラハラ配偶者とのやりとりを記録したメールやSNS
●心療内科や精神科の通院記録や診断書
●警察や公的機関への相談記録
●モラハラを受けたことを記録した日記 など
モラハラ配偶者が離婚してくれない場合の対抗手段
モラハラ配偶者がなかなか離婚に応じてくれないと、証拠集めや裁判の手続きで、長期間を要することになります。
その間、モラハラを受け続けていると、精神的に追い詰められて正常な判断ができなくなるおそれがあります。
そうならないためにも、ご自身でとれる対抗手段を3つご紹介します。
思い切って別居する
思い切って別居して、まずはご自身や子供の安心・安全を確保しましょう。
モラハラ配偶者との生活は、心身に大きな負担となり、知らず知らずのうちに、精神的に追い詰められていることもあります。
物理的に距離を置くことで、冷静になって、これからのことを前向きに考えられるようにもなります。
また、3年以上の別居実績があれば、モラハラの証拠が不十分でも、裁判で離婚が認められる可能性が高くなるケースもあります。
別居したいけれどお金がない場合
別居するにあたって、費用の問題で不安を抱えていらっしゃる方も多いと思います。
ですが、別居している間の生活費は、配偶者から支払ってもらえる可能性があります。
婚姻関係にある夫婦は、互いに助け合う義務を負うため、たとえ別居していても、収入の少ない側は、収入の多い側に対して、「生活費=婚姻費用」を請求することができるのです。
相手が応じてくれない場合は、裁判所の手続き(調停・審判)を利用して、請求することも可能です。
別居にあたっての注意点
●別居の開始日・理由を明確にしておく
モラハラの被害を受けている場合、別居するにあたって、モラハラ配偶者の同意を得る必要はありません。
しかし、離婚を有利に進めるためには置き手紙やメールで、別居の開始日や理由を明確にしておくとよいでしょう。
●モラハラ配偶者に別居先を知られないようにする
居場所を知られると、ご自身や子供に危害が及ぶリスクがあります。
家族や、共通の知人には別居先を相手に知らせないよう、伝えておくことも大切です。
●親権を得たい未成年の子供と一緒に別居する
子供にモラハラの影響が及ぶ可能性があります。
子供を連れて別居する場合、子供の環境に配慮しましょう。
環境に問題がなければ、親権を決定する際に有利に働きます。
相手が下手に出ても受け入れない
別居を切り出す、別居を始めることで、モラハラ配偶者が下手に出て、急に優しくなることがありますが、安易に受け入れないようにしましょう。
モラハラには、「いいとき」と「悪いとき」を繰り返す周期=サイクルがあるのをご存じでしょうか?
《モラハラサイクル》
①モラハラ配偶者が、怒りやストレスを溜める「蓄積期」
②蓄積期に貯めたストレスを爆発させ、モラハラを行う「爆発期」
③爆発期で発散したことで、一時的に穏やかになる「ハネムーン期」
モラハラ配偶者の多くは、相手をコントロールするために、このハネムーン期を利用します。
別居した途端に優しくなったと感じるのは、ハネムーン期であることが多く、モラハラを反省・改善したとは限らないのです。
具体的な改善が見られないまま、表面的な言動を鵜呑みにしてしまうと、前の状況に逆戻りし、同じことの繰り返しとなるおそれがあるため、十分に注意しましょう。
話し合いは第三者に介入してもらう
モラハラ配偶者と話し合う場合は、二人きりではなく、信頼できる第三者に介入してもらいましょう。
モラハラ配偶者は、巧みな話術で相手をコントロールしようとします。
家族や友人など、身近な人に介入をお願いすることもできますが、モラハラ配偶者の言動に左右されず、公平に話し合いを進めるためには、離婚やモラハラの問題に精通した弁護士などの専門家に介入してもらうとよいでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
モラハラでの離婚について不安なことがあれば弁護士に依頼してみましょう
モラハラは、身体的暴力と異なり、なかなか第三者にわかってもらえないという特徴から、長い間、おひとりで悩まれている方も多いのではないでしょうか。
精神的暴力といわれるモラハラは、立派なDV行為です。
モラハラを受けたご本人はもちろん、モラハラを近くで見聞きしている子供の心身にも悪影響を及ぼすおそれがあり、早期に離婚すべきケースも多くあります。
配偶者のモラハラで離婚を考えていらっしゃる方は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
離婚に向けてどのように進めるべきか、どのような証拠が有効かなど、それぞれのご事情に応じたアドバイスが受けられます。
また、弁護士にモラハラ配偶者との交渉を任せることもできます。
おひとりで悩まず、私たち弁護士法人ALGに、まずはお気軽にご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53982)