監修弁護士 大木 昌志弁護士法人ALG&Associates 千葉法律事務所 所長 弁護士
交通事故という非日常的な事態に遭遇し、強い恐怖を感じた場合、その後も日常生活に支障をきたしてしまう程のトラウマを抱えてしまう方もいるでしょう。また、怪我や後遺症の状態によっては、事故前と同じようには働けなかったり、苦痛を伴う治療や手術、リハビリを何度も受けなくてはならなかったりして、つらい思いをすることがあるかもしれません。
実は、このように、交通事故が原因で被った精神的な苦痛に対しても、慰謝料を請求することができるのです。今回は、知っているようで知らない、交通事故に遭った時の慰謝料について、解説いたします。
慰謝料の計算方法は算定基準により異なる
交通事故における慰謝料の金額は、どのように計算するのでしょうか。その金額の算定の際に用いられる基準には、次の3つがあります。
①自賠責基準
3つの中で、最も低額な基準です。自賠責保険の基準に則った、事故の被害者に対する最低限の補償を確保するための基準です。
②任意保険基準
各保険会社が独自に定めた基準です。詳しい内容は非公開ですが、ほとんどの場合、自賠責基準と同程度の基準となっているようです。
③弁護士基準
3つの中で、最も高額な算定基準です。過去の交通事故事件の裁判例を蓄積した基準であり、弁護士が裁判や示談交渉を行う場合に用いられるため、裁判基準ともいわれます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料とは、交通事故で負った怪我の治療を受けたことや、入院したことに対する慰謝料です。
具体的な金額は、入通院「期間」(治療開始日から治療終了日までのトータル日数)と入通院「日数」(治療に要した実日数)を基に、算定されます。
自賠責基準の計算方法
自賠責基準における入通院慰謝料の額は1日4300円(但し、2020年3月31日以前に起きた事故については、1日4200円)であり、次の①と②の式で計算された金額のうち、いずれか低い金額となります。
①4300円×治療期間(治療を始めた日から治療が終わった日までの期間)
②4300円×{実治療日数(入院日数+通院日数)×2}
この計算式を基に、次の項で具体的な金額を計算してみましょう。
入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院した場合の計算例
このケースの場合、
「治療期間」(治療を始めた日から治療が終わった日まで)は190日(入院10日+通院180日)
「実治療日数」は100日(入院10日+通院90日)となります。
そして、この日数を①と②の各計算式に当てはめた場合、
①4300円×190日=81万7000円
②4300円×200日(100日の2倍)=86万円
となります。
よって、このケースでは、より低い金額である①の81万7000円が、自賠責基準における入通院慰謝料の金額となります。
弁護士基準の計算方法
弁護士基準での入通院慰謝料の額は、通称「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という書籍にまとめられている、入通院慰謝料の算定表を用いて、目安の金額が計算されます。
この表では、入院期間の月数と通院期間の月数がマトリックス表になっており、2つが交差する箇所に記載されている金額が、相場の金額となります。この相場額を基に、個別具体的な事情に応じて金額を算出していきます。
むちうち等の軽傷と、重傷の場合で参考にする表が異なる
「赤い本」の入通院慰謝料の算定表には、【別表Ⅰ】と【別表Ⅱ】の2種類があり、重傷の場合は【別表Ⅰ】、むちうちなどの軽傷で他覚症状がない場合は【別表Ⅱ】が用いられます。
以下、表を一部抜粋し、【入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院したケース】の計算例をご紹介します。
なお、この表でいう「1月」は30日間であり、入通院の日数に端数が出る場合は、次の月との差額が日割計算されます。よって、入院10日は10/30=1/3月として、1月との差額を日割し、通院の慰謝料に加算します。
入院 | 1月 | |
---|---|---|
通院 | 53 | |
1月 | 28 | 77 |
2月 | 52 | 98 |
3月 | 73 | 115 |
4月 | 90 | 130 |
5月 | 105 | 141 |
6月 | 116 | 149 |
通院…116(A)
入院…(149-116)×1/3=11 (B)
よって、AとBの合計127万円となります。
入院 | 1月 | |
---|---|---|
通院 | 35 | |
1月 | 19 | 52 |
2月 | 36 | 69 |
3月 | 53 | 83 |
4月 | 67 | 95 |
5月 | 79 | 105 |
6月 | 89 | 113 |
通院…89(A)
入院…(113-89)×1/3=8 (B)
よって、AとBの合計97万円となります。
表の期間以上の入院・通院があった場合
算定表には、入院、通院期間ともに15ヶ月までしか枠が設けられていません。仮に、16ヶ月以上の期間治療が必要となった場合には、入通院期間1ヶ月につき、それぞれ15ヶ月分から14ヶ月分を引いた金額を加算していきます。
以下、重傷(【別表Ⅰ】)の場合の具体例を計算してみましょう。
①入院のみ16ヶ月行った場合
入院のみ14ヶ月行った場合の基準額は334万円、15ヶ月行った場合の基準額は340万円です。よって、16ヶ月の入院慰謝料額は、
340万円+(340万円−334万円)=346万円 となります。
②通院のみ16ヶ月行った場合
通院のみ14ヶ月行った場合の基準額は162万円、15ヶ月行った場合の基準額は164万円です。よって、16ヶ月の通院慰謝料額は、
164万円+(164万円−162万円)=166万円 となります。
通院日数が少ない場合
通院期間に対し通院日数が少なければ、実通院「日数」が計算の根拠となる自賠責基準に対し、弁護士基準では、基本的に通院「期間」を根拠とします。
しかし、通院期間に対し、あまりにも通院日数が少ないケースでは、慰謝料額が減額されるおそれがあるため注意が必要です。
例えば、通院期間が12ヶ月でも通院日数が20日しかない場合、通院日数である20日の3倍から3.5倍程度が、通院「期間」の目安とされることがあります。そうなると、結果的に、実際の通院期間(12ヶ月)よりも短い期間(60~70日前後)を基準として、入通院慰謝料の額が算定されることになってしまうのです。
もっとも,骨折時の経過観察中で通院の必要が無い場合等,通院日数が少なくても慰謝料額に影響しない場合もありますので,慰謝料の算定や通院のアドバイスについても,弁護士にご相談ください。
リハビリの通院について
リハビリのために通院した期間は、怪我が完治する前、または医師により症状固定と診断される前までの間であれば、入通院慰謝料の対象となる「通院期間」に含まれます。
しかし、怪我の完治後や症状固定後に通院して受けたリハビリは、基本的には入通院慰謝料の対象外です。また、怪我の完治・症状固定前であっても、リハビリの内容がただのマッサージに過ぎなかったり、症状や治療の必要性からして、あまりにもリハビリに通った頻度が多かったりする場合には、慰謝料目当ての過剰診療であると判断され、通院期間に含まれない可能性もあるため、注意が必要です。
後遺障害慰謝料の計算方法
医師により、症状固定※と診断され、かつ、残った傷跡や後遺症の状態が「後遺障害等級」の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料が請求できます。
後遺障害等級は1級から14級まであり、等級により金額が異なります。
※これ以上治療をしても症状の改善が見込めない状態
自賠責基準の後遺障害慰謝料
自賠責基準における後遺障害慰謝料の金額額は、等級や介護の有無に応じ、下表のとおりに定められています。被害者への必要最低限度の救済を目的とした基準であり、任意保険基準や弁護士基準と比べて、最も低い支払額となっています。
後遺障害等級 | 自賠責基準 |
---|---|
1級(介護を要するもの) | 1650万円 |
2級(介護を要するもの) | 1203万円 |
1級 | 1150万円 |
2級 | 998万円 |
3級 | 861万円 |
4級 | 737万円 |
5級 | 618万円 |
6級 | 512万円 |
7級 | 419万円 |
8級 | 331万円 |
9級 | 249万円 |
10級 | 190万円 |
11級 | 136万円 |
12級 | 94万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
弁護士基準の後遺障害慰謝料
弁護士基準による後遺障害慰謝料の金額は、等級に応じ、下表のとおりに定められています。
自賠責基準のように、介護の有無による金額の差はありません。弁護士基準では、下表の基準額に加え、家族状況や加害者の対応、事故の状況など、個別具体的な事情が考慮され、最終的な金額が算定されます。
後遺障害等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡慰謝料の計算方法
被害者が亡くなるという死亡事故の場合、「死亡慰謝料」が請求可能です。
死亡慰謝料には、死亡した本人の精神的苦痛に対する「本人慰謝料」と、遺族が被った精神的苦痛に対する「遺族慰謝料」の2種類があります。また、被害者の家庭内での属性や経済的立場によっても、請求できる金額が変わります。
自賠責基準の死亡慰謝料
自賠責基準の死亡慰謝料は、死亡した本人については一律400万円です。そして、死亡した被害者に一定の遺族(配偶者、子(養子、認知した子及び胎児を含む)、父母(養父母を含む))がいる場合は、遺族慰謝料として、請求権者の人数と扶養状況により、次の表の額が加算されます。
請求権者の数 | 遺族慰謝料 |
---|---|
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
被扶養者がいる場合 | 上記プラス200万円 |
例えば、被害者(夫)に、扶養する妻と子供が1人いた場合の自賠責基準における死亡慰謝料の額は、
400万円(本人慰謝料)
650万円(請求権者2人の額)
200万円(扶養者加算)
の、合計1250万円となります。
弁護士基準の死亡慰謝料
弁護士基準の死亡慰謝料は、本人慰謝料と遺族慰謝料を合わせた総額として、目安の金額が、次の表のとおりに定められています。
被害者 | 死亡慰謝料 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子供、幼児等) | 2000万~2500万円 |
例えば、被害者が、妻と子供を養う一家の大黒柱であった場合の死亡慰謝料の額は、2800万円です。さらに、実務上はこの金額に、被害者の収入や事故が起きた経緯、家族構成などの個別具体的な事情が考慮され、金額が変動します。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の慰謝料計算は弁護士にお任せください
交通事故に遭い、保険会社から「慰謝料は●円です」と言い切られてしまったら、「保険会社が言うのだから、そんなものなのだろう」と、素直に納得してしまうかもしれません。
しかし、保険会社はあくまでも民間の営利会社です。自社の利益のため、提示してくる金額は、自賠責基準と同等の、限りなく低い金額である場合がほとんどです。
この点、弁護士であれば、最も高額な算定基準である弁護士基準を用いて適正な慰謝料の金額を算定し、保険会社に対し、慰謝料の増額交渉を行うことができます。
この記事を読んで、「弁護士に相談すると交通事故の慰謝料の額が増えるかもしれない」ということを、頭の片隅に入れておいてください。
弁護士法人ALGには、交通事故事件を専門に取り扱う、経験豊富な弁護士が多数在籍しております。交通事故に遭われ、慰謝料の額に少しでも疑問や不安を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
-
保有資格医学博士・弁護士(千葉県弁護士会所属・登録番号:53980)